育休中に投稿したSNSが話題になったアナウンサーの榎並大二郎さん。育休取得によって「家のなかの解像度が上がった」と、今まで気がつかなかったいわゆる「名もなき家事」の存在にも気がつくことができたそうです。
今まで「したつもり」になっていた家事の存在
── 育休中にも積極的にSNSに投稿をされていましたよね。どんな反響がありましたか?
榎並さん:
家の中だけで過ごしていると、気持ちも内に向いてしまいがちです。インスタに投稿した家事や育児の姿に「頑張って!」とコメントをいただき、共感を得られたことには、本当に救われました。
子育ての先輩から「懐かしいな、そういう時期ありました。ほっこりします」っていう声も嬉しかったですね。
投稿するたびに自分のプライベートな話がネット記事として取り上げられたので恥ずかしい反面、まだまだ男性の育休が珍しいと思われているのだと感じました。
── 投稿した動画が100万回以上再生されているというInstagram。フォロワーも増えて話題になっていますね。
榎並さん:
元々、男性フォロワーが6割くらいいて、男性育休の実態を届けられれば、という思いで投稿していました。1万人くらいフォローしてくださる人が増えたので、SNSで発信した判断は間違いではなかったのかなと思います。
── 育児だけでなく家事にも積極的に取り組まれていたようですが、家事に対する意識の変化はありましたか?
榎並さん:
それまでも家事はやっていたつもりだったのですが、家事には一連の流れがあり、それを完結させないと相手に迷惑をかける場合もあると知ることが出来ました。
今まで「洗濯は済ませておいたから」と得意げに言って出社していたのですが、洗濯は当然、干して、取り込んで、畳んで、しまうところまでを指すわけで。今思えば、干したことで洗濯を終わらせたつもりになっていたのが怖いなと。
タオルの畳み方やしまい方などひとつとっても、収納には考えつくされた型があるんですよね。育休中はその基本の型から学ばせていただきました。
── 他には何か気づいたことはありますか?
榎並さん:
例えば、今までは「排水溝、お願いね」「水回り使ったら拭いておいてね」と、妻に声をかけられてから動くことがしばしばで。掃除の対象として意識ができていないので、視界の中にないものでした。
そうしたやるべき家事が、ぼやーっとですが、浮かび上がってきたのは変化ですね。
育休中は妻の負担を減らさなきゃと家事への感度が高まっていたのか、家のなかの解像度が上がった感じがしました。普段の休日と違って、育休で家にいるからこそ気付くことができたのかもしれないです。
復職後の今、起きている意識の変化
── 育休を終えてからの奥様の反応はいかがでしたか?
榎並さん:
育休最終日の夜に話したのですが、本当に助かったし、これからもやっていけそう。不安感が少なくなったと言っていました。仕事が始まって在宅時間が少なくなるけれど、やっていけると思える生活リズムを作れたので助かったと。
私は妊娠、出産、育児を通して、妻へより尊敬の念が生まれました。パートナーとして絆を深めるきっかけになったと思います。
育休は2週間でしたが、それでもこんなに大きな変化があって。育児の最初のタイミングって本当に大事ですね。勉強とかと一緒で、遅れをとったらどんどんわからなくなる。最初が肝心ですね。
「あれ取ってきて」「あぁ、ガーゼ2枚ね」という感じで、何が必要になるのか今ではわかりますから。でも、服のチョイスだけは間違えるときがありますけど(笑)。
── 育休を終えた今、お子さんとの時間は取れていますか?
榎並さん:
子どもとの時間は朝と夜だけなので、出社前に朝の着替えと保湿をしています。保湿の時間が親子の触れ合いの時間なので、「お父さんだよ、お父さん」って声を掛けて、忘れられないようにしています。
── 仕事の面での変化はありましたか?
榎並さん:
もうできる限り早く帰る。昔は仕事終わりに、コーヒーを1杯くらい飲んでから帰宅していましたが、そういうのはなくなりました。また、帰宅時間を意識することで、同じ勤務時間でもより集中できるようになったかもしれません。
おかげで、帰宅後に分担してお風呂に入れるというルーティーンは崩さずにできています。
お風呂は段取りが多いので、分担しなければ大変ですよね。「ワンオペ 入浴」などで検索すると、みなさんがいかに苦心されているか伝わってきました。これだけは仕事が始まっても分担しなければならないタスクだと感じています。
アナウンサーとして、一人の父親として、社会に伝えていきたいこと
── 現在、ニュース番組のメインキャスターをされているわけですが、新型コロナウイルスに感染した妊婦の搬送先が見つからず、赤ちゃんが亡くなってしまったニュースを伝える際に泣いてしまったことがありましたよね。あのときはどういうお気持ちでしたか?
榎並さん:
救えたかも知れない命が失われてしまったことに、やり切れない気持ちでした。自身の境遇を重ねてしまい、言葉が紡げず不体裁になってしまいましたが、その感じ方も初めての感情でした。子どもの事件事故もやまないなかで、今後もこの感情を抱きながら、ひとつひとつの問題についてどうメッセージを発していけるか。子どもの成長とともに見えてくることがあると思うので、その視点を仕事にも活かして社会に発信していけたらと思っています。
── 育休経験者としてこれから取得される方や企業にどんなことを伝えていきたいですか?
榎並さん:
男性の育休は絶対に取った方がいいし、取りやすくあるべきです。取らなきゃいけないと思う気持ちになれたのは、実際に身を置いてみないとわからないことが多かったからです。
私は上長の「育休どうする?」の声に助けられました。育休で休んだ人の穴をどう埋めるのか、という問題はあると思いますが、職場内で助け合って、休みを取り合える環境が理想だと思います。「奥さんの妊娠おめでとう!育休は?」って。男性に対しても企業のこういう土壌があればいいなぁと思います。
職場の空気感は、育休はもちろん、子どもが生まれたあとの働き方にも関わってきますよね。
定時に帰ることや、リモートワークで在宅時間を増やせることも大事。今はコロナ禍で在宅勤務が推奨されていますが、その後も定着できるかという点も関わってきますよね。
育休は制度としては進んできていると思います。私は伝えて手という立場ですから、発言していくことで微力でも育休取得のさらなるあと押しになっていればいいなと思いますし、発信し続けていくというのがこれからの役割だとも思っています。
PROFILE 榎並大二郎さん
1985年東京都生まれ。2008年(株)フジテレビジョン入社。「笑っていいとも!」「バイキング」などを担当し、2020年9月より「Live Newsイット!」のメインキャスター。プライベートでは2016年にモデルで美容研究家の有村実樹さんと結婚。2021年夏に第1子となる長男が誕生。9月下旬、2週間の育休を取得。
文/内橋明日香 写真/榎並大二郎Instagram(enami_daijiro)より(ご本人提供写真除く)