子どもの受験。決めてから実際に受験するまでの間に、夫婦の不協和音が大きくなる話はよく聞きます。小中学校に関しては、受験そのものに対する夫婦の温度差もあるようです。ただ一方で、受験を経て夫婦と家族に一体感が生まれた人もいます。
テストのたびに一喜一憂する妻の姿
長男が小学校3年生の頃から、妻が「中学受験のために頑張り始めた」と言うのは、タカアキさん(45歳・仮名=以下同)です。
「塾は成績でクラス分けがあるんですが、妻はそのたびに一喜一憂。泣いたり笑ったり、息子を叱咤したり抱きしめたり。ここまで“感情的なタイプだっけ?”と、思うことも多々ありました…」
29歳の時に社内恋愛でひとつ年下のアカリさんと結婚しました。2年後に長男が、さらに2年経ち次男が生まれ、アカリさんはその後、パートで働きながら家族を支えてくれました。
「忙しくて余裕がなくなるのはよくないから、家事は適当に手抜きしようと話し合っていました。子どもと遊んでいたら楽しくなって、夕飯は炒め野菜をのせたインスタントラーメンなんてこともあるし。子どもの心身の健康を第一に考えて夫婦は一致していると思っていたんですが、受験で妻への印象はガラッと変わりました」
そもそもタカアキさんは中学受験には反対派。高校までは公立でいいと思っていました。でもアカリさんは、「受験費用はうちの親が出してくれるから」と、前のめりに突き進みます。
「5年生になった息子に、『受験して電車通学までして行きたい?お母さんには言わないから本当の気持ちを話してよ』と、こっそり聞いてみたんです。そうしたら『お母さんがあんまり一生懸命だから悪くて…』と、乗り気でないと打ち明けてくれました」
妻も息子もねぎらって、受験は終わる
ただ、妻の情熱は半端ではありませんでした。受験させないとなると、その先が想像できないと感じたタカアキさん。
「『勉強すること自体は自分のためにもなるから、やったほうがいいとは思う。本来、勉強は受験のためじゃない。お父さんだって今も勉強してるんだよ』と、仕事のスキルアップのためのテキストを見せました」
“わからないことがわかるのは楽しいよ”と息子も言うので、子ども自身の勉強のスタンスはそれでよし、とタカアキさんは思ったそうです。
タカアキさんはムリをさせない程度に息子を支えます。「健康が一番大事だよ。アカリも同じ」と、妻にも暴走させないようケアします。受験は「ある程度頑張って」受けましたが、結果は不合格。「地元の公立中学に行ける」と、息子も安堵した表情を見せました。
「妻は号泣したあげく、数日間、寝込んでいましたね…。少し落ち着いてから、『アカリはよく支えたよ。息子にはいい経験になったはずだよ』とねぎらいました」
地元中学の入学式に行かないと意地を張る妻に、「一生、後悔するよ」と説得して一緒に行きました。その後、息子がのびのびと部活のバスケを楽しんでいるのを知り、妻は「徒歩5分の学校でよかったかもね」と笑顔を見せました。
吹っ切れた妻と共通の楽しみができた
「僕は仕事が人事なんですよ。受験の時期の妻への接し方は会社の先輩に聞いたり、人事的発想を駆使しました(笑)。いい学校に入れたい妻の気持ちにも理解しつつ、息子の気持ちを絶えず聞いていたのが、よかった気がします」
妻は次男には受験を強要しませんでした。小学校6年生になった次男は来春、兄と同じ地元中学に通うそうです。
「最近の妻はパート仕事を増やしたり、友人づきあいも楽しそう。なぜか古地図を見るのが好きになったとかで、ときどき、妻の実家に子どもたちを預けて、古地図に添った町歩きデートをしているんです。これが案外、面白くて僕もはまっています。共通の趣味と、それぞれの楽しみ、両方あるとこれからの夫婦関係も風通しがいいかもしれません」
夫の冷静な判断と思いやりが、夫婦の亀裂を防いだといえそうです。