先の見えないコロナ禍で、多くの子どもが不安を抱えています。そんなときに大きな支えとなるのが、親の言葉。でも、むしろ真逆の効果を与えてしまうようなNGワードを知らず知らずのうちに口にしている可能性も…。

 

日本ポジティブ教育協会代表理事の足立啓美さんに、子どもの心が不安定なときの適切な声かけで外してはいけないポイントを伺いました。

【その1】「学校に行きたくない」と子どもが言い出したら?

最近ニュースでも大きく取り上げられていますが、「令和2年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」では、19万人を超えています。また、コロナ禍を機に、学校に行けなくなってしまった子や登校渋りをし始めた子もいます。不登校は「誰にでも起こりうるもの」と考えてもよいかもしれません。

焦らずに気持ちを受け止めることが先決

もし子どもが「学校に行きたくない」と言い出した場合、親の気持ちに余裕がないとつい当たり前のように「行かなきゃダメ」と言ってしまいがちです。もしくは、「どうしよう…」という気持ちが大きくなり、子どもに理由を問い詰めてしまうこともあるかもしれません。しかし、まずは焦らずに子どもの気持ちを受け止めてあげることが大切。本人がどうしたらよいかと一番不安に感じているはずです。そんな不安や、自分でもよくわからない気持ちを丸ごと受け止めてあげてください。

 

その上で、「話してくれてありがとう」「一緒に考えていこうね」と伝えましょう。誰かに相談することは、勇気がいることです。しかし、親はいつでも味方であること、そして、誰かに自分の悩みや弱さを開示できることも、また心の強さであることを伝えることで、親子で一緒に問題に取り組みやすくなります。

親子で会話する様子のイメージ

× ネガティブワード:「どうしたの?」→「学校には行かなくちゃだめだよ!」

○ ポジティブワード:「そっか、辛かったね」「話してくれてありがとう」「一緒に考えていこうね」

先の見えない漠然とした不安が不登校の原因になることも

なぜ学校に行きたくないのか、理由が自分でもわからないという子もたくさんいます。また、さまざまな理由が絡み合っていることも多いのです。ですから、学校へ通えることを一番の目標にするのではなく、まずは、今感じている「先の見えない不安」にどう対応していくのかを考えていきましょう。そうすることで、視野が広がり、その子にとっての良い形が見えてくるのです。

 

 子どもは学校に行けない自分を責めてしまいがちです。しかしながら、先のデータのように、同じように学校に今は行きたくとないと感じている子はたくさんいます。気持ちをしっかりと受け止めたら、「学校に行きたくないって感じるってことは、おかしなことじゃないよ」と、人間は誰もがうまくいかないことを経験すると伝えましょう。

 

昨今の研究で、自分に厳しくするよりも、優しさを向けることが困難を乗り越える力になることがわかっています。

 

これは、アメリカの心理学者、クリスティーン・ネフ博士が考案した「セルフ・コンパッション」という考え方に基づいています。自分自身に思いやりや慈しみを向けていくことで、強い感情にも耐える力が育ち、逆境を乗り越える力が高まると言われているのです。

うまくいっていることも探そう!

また、「子は親の鏡」と言われるように、親が必要以上に恐怖を感じていると、子どもにその気持ちが移ります。親は子どもにとって精神安定剤ですから、どんと構えて、不安なときこそユーモアを交えながら、恐怖を克服していく方法を探りましょう。

 

人はついできないことや、うまくいかないことに目を向けがちです。でも実際には、子どもの様子を表すのに「不登校」以外にもたくさんの着目点があるのではないでしょうか?

 

例えば、大好きな漫画は何時間でも読める、習いごとには休まず通っているなど。その子の好きなことやうまくいっていることは、心のエネルギーになります。問題で心がいっぱいになると見逃してしまいがちですが、こういったことをに着目して、心のエネルギーの充電をしていきましょう。

 

「子は親の鏡」と言われるように、親がどのように逆境を乗り越えていくのかを子どもはよくみています。物事がうまく進まないときにも、自分への思いやりを忘れず、うまくいっていることを活用しながら、荒波を乗りこなす姿を見せたいものですね。

 

それが将来、子どもが直面した困難を自力で乗り越えるためのスキルになるはずです。

【その2】学校行事が縮小…落ち込む子にどう声をかける?

コロナ禍でさまざまな学校や習い事の行事が縮小、延期またはキャンセルになりました。発表の場や活躍する場を失ってしまい、度重なるショックを受けている子もいます。そんな子どもにかけてあげるなら、どんな言葉が適切でしょうか。

気持ちを受け止め、次善の選択肢に目を向ける

先にも述べましたが、子どもが辛い感情を抱えているときには、その気持ちをそのまま受け止めて共感してあげることが大切です。「頑張ってきたもんね。残念だね」といままでの頑張りをしっかりと認めてあげるとともに、いま感じている感情をしっかりと受け止めてあげましょう。

 

その上で、ベストな方法は無理だけど、次に考えられる方法を検討します。例えば、発表を楽しみにしていた子に対しては、「とっても残念だけど、別の方法で君の頑張りを発揮できる方法はないかな?」と聞いてみるといいでしょう。



× ネガティブワード:「仕方ないね、コロナだから…」

○ ポジティブワード:「残念だよね…」「どういう形なら頑張りを発揮できるかな?」

ひとつのやり方に固執しないことが人生の幅を広げる

子どもと話し合いながら、活躍する場の代替策を考えます。大規模な発表会は難しいかもしれませんが、家族や親せきなど身近な人を呼んで発表する場をつくったり、動画に撮って祖父母に送ったりすることもできます。

 

話し合い、アイデアを出し合うなかで、「他にもやり方がある」ということを子どもに伝えましょう。

 

「ひとつのやり方に固執しない」こと、これからの長い人生においても重要な要素です。将来、「最善なやり方が叶わない場面」はたびたび起こります。そんなときに「次に納得のいく選択」を探す練習にもなるはずです。「次に良い選択」があれば、希望につながるのです。

【その3】親の気持ちとは裏腹な子どもの態度にイラっとしたら

コロナ禍でマスクをすることが当たり前になったり、大人数の友達と集まる公園遊びがしづらくなったりと、子どもたちの生活にもさまざまな制限が加わりました。そんな制限を受け止めきれずに、「マスクは嫌だ!」「外に遊びに行く!」など、言うことを聞いてくれない子どもにてこずっているという声も聞きます。

「どうせ屁理屈」と一蹴せず隠されたメッセージを読み取る

そんなとき、まず子どもの言い分を「屁理屈」と一蹴しないで、「子どもが何を伝えようとしているのか」を大切にしてほしいのです。

 

多くの子どもは自分の考えや気持ちをわかりやすくは伝える練習中。話が噛み合わないと思っていたら、「あなたが言いたいことって、そういうことだったの?」と驚くこともありますよね。

 

「マスクは嫌だ!」という言葉の中にも、実は単に親に甘えたくて発しただけという場合もあれば、単に今しているマスクが嫌だという場合だってあります。表面的な言葉だけから子どもの状態をみるのではなく、そこに隠されている子どもが欲していることを見つけられると良いでしょう。

 

例えば、「外に遊びに行く!」と言い出してきかない場合を考えてみましょう。外に遊びに行きたいと訴えるのは、リフレッシュしたいのか、体を動かしたいのか、友達と会いたいのか…。どんな理由からでしょうか。理由を探っていくことで、「外に遊びに行く」の代わりとなるそこの希望を満たす代替案を考えられるかもしれません。



× ネガティブワード:「言うことを聞きなさい!」

○ ポジティブワード:「たくさんの制限があって大変だよね。お母さんも嫌になっちゃうよ」「今日、公園に行くのは難しいけど、●●はできるよ」●●は、子どものニーズを満たす活動

子どもの意欲の芽を摘まないで

制限されていても、「~したい!」という思いは、子どもの強みやエネルギーの源です。体を動かしたい子には「熱意」という強みが、友達と会いたいという子には「人と関わる力」が、とにかくいろいろな場所に行きたいという子には「好奇心」という強みが隠れているかもしれません。

 

子どもがダメと言われてもやりたいと思うことの中には、その子の持つ大きな強みが隠れているのです。そんな目でお子さんの言動を見てみてください。

 

子どもの考えに耳を澄ましていると、その子の物事のとらえ方や価値観がよく見えてきます。もちろん、軌道修正が必要なところはきちんと指摘すべきですが、たいていの物事は表裏一体。指摘するばかりではなく、同時に褒めポイントも見つけて、たくさん褒めてあげると、より良い親子関係が築けるはずです。

 

PROFILE 足立啓美(あだちひろみ)

足立啓美さん
一般社団法人日本ポジティブ教育協会代表理事。小学校や適応指導教室などでレジリエンス教育の講師を務める。著書に『子どもの心を強くするすごい声かけ』(主婦の友社)ほか。

取材・文/田賀井リエ
参考/文部科学省「令和2年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」https://www.mext.go.jp/content/20211007-mxt_jidou01-100002753_1.pdf