家族がいても、どんなに友だちが多くても、人はふと「孤独」を感じるものなのかもしれません。そもそも人はひとりで生まれてきて、ひとりで死んでいくもの、という人もいます。
孤独な独身時代。結婚して世の中が“ピンク色”に
地方出身で大学入学時に上京したものの、「アルバイトが忙しくて、大学でもバイト先でも人間関係になじめず孤独だった」と、話すトモエさん(44歳・仮名=以下同)。29歳で結婚してから、目に映るすべての景色が違って見えたそうです。
「同い年の夫とは気が合ったし、少し価値観がずれていると思うところもありましたが、それは他人同士だからしかたないと諦めがついた。結婚後すぐ妊娠したので、それからは世の中がずっとピンク色に見えました(笑)。それくらい幸せで」
結婚して退職。パート勤めになると妊娠がわかったものの、臨月近くまで仕事を続けました。新生児のためにさまざまな準備を重ねるなか、「夫との心の距離がどんどん縮まって、うちは世界一仲がいい!と思えるようになった」そうです。
子どもが生まれてから、トモエさんの幸福度はさらに上がりました。泣き止まない子どもに困ったことがあっても、気にならなかった様子。
小さな子どもの存在で幸せいっぱい
「元気がいいから泣くんだなぁとぼんやり見つめたり。他のママがストレスに感じることを、私はあまり感じませんでした。元気だなぁ、かわいいなぁ。そればかり。夫は、“育児ストレス”で大変な妻たちの話を会社で聞いていたらしく、『トモエはおっとりしてるなぁ』とびっくりしてましたね」
30歳で長女を、33歳で長男を出産。36歳になって再度、パートで仕事を始めました。でも彼女にとって、優先順位はいつも子どもたち。
「子どもにとって、私は絶対的な存在だったんですよね。赤ちゃんのときはもちろん、よちよち歩きの頃も保育園に行ってからも、いつも『ママは絶対』なんです。それが嬉しかったし、命を見守るのって大変だけど幸せだと思っていました」
ところが、子どもが10歳頃にもなると「自分の世界」を持ち始めます。トモエさんの長女はダンスに目覚め、長男はパソコンのプログラミングに夢中。
「どちらも私の知らない世界で聞いてもよくわからない。夫は部署を変わって、すごく忙しい。家族仲が悪いわけではないけど、人間ってやっぱり孤独だなと思うようになりました。独身時代に感じていた孤独感とも少し違う。家族という私にとっての宝物が身近にいるのに、それでも孤独。深い闇みたいなものを感じますね」
成長していく子ども、変わらない私
子どもが成長するのは嬉しいけれど、ふと「ああ、別人格なんだ、いずれは巣立っていくんだ」と感じる瞬間、とてつもなく寂しくなるとトモエさんは言います。40代に入って、心身のバランスを崩しかけているのかもしれません。
「振り返ると、子どもが小さい頃は、何も考えずに子どもと向き合っていればよかった。私の存在意義とか人生とか、それらはどこかに追いやって夢中で子育てしてました。でも今後、子育て以上に夢中になれることってあるのかなと思うと…。一体感のあった夫も、今や仕事の鬼みたいになっているし(苦笑)」
これから子どもたちはどんどん親離れしていくでしょう。理性ではわかっているものの、「柔らかい子どもが抱きついてくるときの幸せな感じを失いつつある」ことに対して、トモエさんは複雑な気持ちを抱いている様子。
「夫は子どもの成長を受け止めて、大人とするような会話をします。でも、私は大人びていく子どもたちを受け止められない。つい夫にグチると、『趣味でも仕事でも、何か夢中になれるものを見つければ?できることは協力するよ』って。
でも、そういうことじゃないんですよね。あんなに夫との関係は最強と思っていたのに、やっぱり他人…と感じています。グチりたい年頃なんでしょうね、私(笑)」
最後は笑いでごまかしたトモエさんですが、「多忙で大変だったけど、子どもが小さかったあの頃に戻りたい」と思っている女性は案外少なくないのかもしれません。