出産をきっかけに働き方や生き方が突然変わり「なんだかモヤモヤする」という人は少なくありません。女性の活躍を支援し続けているスリール株式会社社長・堀江敦子さんは、そういうときは「少しのマインドセットとアクションで、状況は必ず変わる」と言います。堀江さんに詳しくうかがいました。

モヤモヤの裏に「願い」がある

── 子どもが小さいと、どうしても仕事をセーブすることになって、環境の変化についていけず「モヤモヤする」という声を多く聞きます。前向きになるためにできることはありますか?

 

堀江さん:
自分が3年後どうなっていたいかを考えて、そのために出来ることを考えて、周りの人に伝える、というステップを意識していくと良いと思います。

 

「でも子育てが…」とか「でも家事が…」といったことをすべて取り払って、まずは自分の理想の姿をわがままに描いていくんです。3年後の仕事内容や役割、平日や休日の過ごし方、どこのどんな家に住んでいるか、どんなことに喜びを感じて熱中しているか、家族との関わり方などを具体的にイメージして、一つひとつ紙に書いてみます。

 

── 「目の前のことで精いっぱいで目標がよく分からない」という場合はどうすればいいですか?

 

堀江さん:
そういうときは、何にモヤモヤしているのかを具体的に書いてみるといいですよ。希望があるのに、叶っていないからモヤモヤしていると思います。仕事で、プライベートで、どんなことにモヤモヤしているかを書いてみる。その裏側に、願いがありますから。

 

── なるほど。そうやって目標が見えてきたら、少しすっきりするかもしれませんね。

 

堀江さん:
そうですね。目標が見えてきたら、今度はそこに近づくために「始めること」「続けること」「やめること」を整理してみるといいと思います。ただ、子どもが小さいうちは、自分の時間がまったくとれないこともあるので、絶対に焦らないこと。人生100年時代ですから、生き急ぐ必要はありません。

 

でも「こうできたらいいな」「これが必要だな」とアンテナを立てておくと、いざアクションを起こすときに役立ちます。

 

先ほどお話をした、理想のキャリアや、モヤモヤの吐き出し方法について考え方が分からなければ、私の拙著である「新ワーママ入門」にワークシートが付いています。それに沿って考えると、とても分かりやすい!とよく言われるので、是非ご興味があれば、ご覧ください。

 

── 職場での立ち位置が変わってモヤモヤしている、という人も同様ですか?

 

堀江さん:
基本的には同じです。モヤモヤを吐き出して、どうしたいか考える。それができたら、次は、ヘルプシーキング(援助要請)が重要になってきます。じつは、希望があっても、誰にも言わずにモヤモヤしたり、勝手に諦めたりしてしまう人がとても多いんです。

 

スリール起業から11年目を迎えた社長の堀江さん

たとえば、上司は良かれと思って、仕事を外しただけなのに、ワーママは「上司が期待してくれていないのかな」と思い悩んでしまうことがあります。上司にもいろんな考えがあります。だから、自分のほうから自己開示して、自分はこうしたいというのをきちんと伝えて話し合っていくことが大切です。

 

いま仕事をせずに家庭にいるという人は、旦那さんに自分の希望、目標、そのためにやるべきこと、やりたいことを説明して、協力を求めていく。それを繰り返していくうちに、少しずつ状況を整えていけると思います。

 

── 職場の人や家族に、上手く伝えるコツはありますか?

 

堀江さん:
「私はもっとこうしたい!こうしてほしい!」みたいな言い方をすると、言われた方がしんどくなっちゃうこともあります。上司に「キャリアアップしたいからやらせてください!」と言うと、それはそれで「ああいう風に言っちゃったけど、私できるだろうか…」と不安になったりしてしまう。

 

大切なのは、上司にでも、家族にでも、全部ちゃんと伝えることです。

 

職場なら「私は3年後はこういう役割をやっていきたい。でも子どもがまだ小さくて病気をすることもあるから、いますぐアクセルを踏めるわけではない。でも1年くらいして、ある程度子育てが落ち着いたら、もう少し責任のある仕事をやらせてもらいたい」と正直に言えば、「なるほど、分かった」という上司が多いと思います。いろいろな企業の方とお話しますが、女性社員に期待している上司の方が多いですから。

 

そのとき、1回で伝わらなくても諦めないことです。旦那さんとの家庭内での役割分担もそうですが、何度も伝えていって、少しずつ前進していくものです。だから焦らず長期的に考えていく。

 

それでもだめだったら、転職もありだと思います。この5年で、社会はずいぶん変わりました。柔軟な働き方ができて、お金もある程度しっかりもらえて、責任もあるような仕事が劇的に増えていますから。

目指すは「拡大家族」

── 堀江さんは、いま0歳のお子さんを育てていらっしゃると聞きました。お子さんが生まれてから心境の変化はありましたか?

 

堀江さん:
ベビーシッターの経験もあるし、子育て家庭もたくさん見てきたので「きついだろうな」と予想はしていましたが、正直「ここまでとは…」と思います。とにかくしんどい。うちの子は夜中にちょこちょこ起きるんです。もう夜中は意識がもうろうとしながら対応していますよ(笑)。これは子育てスキルとかの問題ではないですよね。

 

いまの子育て世代の多くは、「核家族で、夫婦二人で働きながら、子育てをする」という難題に直面していて、これは日本の歴史上初めてのことなんです。それを考えると、子育てって、もともと一人でするものではありません。

 

私はいろんな所で「ワンオペは無理ゲーです、危険だから絶対周りを頼って!」と言い続けてきましたけど、子どもを産んで、その気持ちが強まりました。

 

「核家族」でもいいから、「拡大家族」になることを意識していくといいと思うんです。アウトソーシングというと他人っぽくなっちゃって罪悪感が出てきたりするけど、その人も家族の一員だと考えるとラクになれます。いろんな大人に愛されるのは、子どもの成長にもいいことですから。

 


「すべてを完璧にこなせるスーパーウーマンはいません」ときっぱり語ってくれた堀江さん。一度自分と向き合って、3年後の理想の姿をイメージすれば、子育てを楽しむ心の余裕も持ちやすくなるのかもしれません。

 

PROFILE 堀江敦子さん

日本女子大学社会福祉学科卒業。楽天勤務を経て、2010年、25歳でスリールを起業。両立支援や意識改革に向けて企業の研修・コンサルティングを実施。大学などではライフキャリア教育を行っている。内閣府・男女共同参画会議専門委員、厚生労働省・イクメンプロジェクト委員など行政委員を兼任。著書に「新・ワーママ入門」など。

取材・文/木村彩 写真提供/スリール