今年4月に産後ケアに特化した法律が施行され、市町村が実施する「産後ケア事業」のひとつである産後ケア入院が利用しやすくなりました。対象者であれば、市町村の助成によって民間の施設より安く利用できます。
今回は、成城木下病院・主任助産師の宮木優梨絵先生に、産後ケア入院についてお聞きしました。
産後ママが抱えるサポート不足と育児不安
高齢出産の増加により、両親のサポートを受けることが厳しくなったり、コロナ禍で遠方の両親を頼ることが難しいなど、周囲に相談できる人やサポートをしてくれる人がいないママが増えています。
また、コロナ禍で出産したママたちは、気軽に外出できない、ママ友との交流の場が減った、里帰りができないなど、赤ちゃんと2人きりの環境が増えたこともあり、産後うつのリスクが以前の2倍以上だともいわれています。
ほかにも、育児や授乳・乳房のケアへの悩みを抱える方が多くいます。忙しく働いているママの場合、妊娠中にケアできなかったことで、自分を責めて落ち込む方も。
ママ・赤ちゃんが違えばいろいろな育児・授乳方法がありますので、たくさんの選択肢から、自分や家族に合った育児スタイルを見出していくことが大切です。
サポートが必要な場合は、産後ケア事業や産後ケア入院を利用して、助産師などと一緒に自分に合った育児スタイルを探してみてください。
産後ケア入院とは
授乳や育児の相談をしたい、産後サポートが不足しているなどの悩みを抱えるママが、助産師のサポートを受けながら数日間入院・入所できるのが産後ケア入院です。
出産後、病院や助産院、産後ケアホテルなどで、数日間ママが赤ちゃん(あるいはパートナーや上の子)と一緒に宿泊して、ママの体調管理をしながら、赤ちゃんとの生活リズムを24時間体制でつかむためのサポートを受けることができます。
食事の提供もあり、24時間専門家の育児支援が受けられるため、身体的にも精神的にもケアを受けることができます。
産後ケアの内容
具体的なケアの内容は、ママの身体的ケアや、栄養指導、心理的ケア、授乳ケア(乳房ケア)、調乳や沐浴など育児技術についての具体的な指導と相談など。なかには、臨床心理士のサポートが得られる施設もあります。
我が子に合わせたお世話や対処方法も知ることができるので、母親としての自信にもつながるのではないでしょうか。
スケジュールや過ごし方
指導・ケアの日程などのスケジュールは、初日に担当助産師と話し合いの上、母子の体調なども考慮しながら決めていきます。
ママに合わせた指導やケアを受けることもできるので、遠慮せずに希望を伝えてみてください。
成城木下病院の6泊7日までのショートステイの場合、24時間母児同室にするか、母児異室にするか、ママの希望で決め、24時間助産師がサポートします。
入院時間は14:00で、退院は11:00。ごはんは、7:30朝食、12:00昼食、15:00おやつ、18:00夕食になります。
育児指導はそれぞれのママに合わせて、スケジュールを立てていきます。疲れを取りたいママの場合は赤ちゃんを預かってゆっくり休んでもらいますし、授乳を上手にできずに悩むママには授乳指導や乳房ケアを行います。
自治体と民間の産後ケア入院の違い
産後ケア入院は大きく区別すると、自治体による事業のものと、民間のものがあります。
自治体の「産後ケア事業」短期入所型の場合
必ず申請が必要です。申請時期になったら住民票のある市町村の保健センターや子ども家庭支援センターなどに申請し、承認されたら、自分で利用したい施設に予約をします。
東京都で多い申請時期は、妊娠8か月(妊娠28週)~利用希望日の14日前です。
利用期間は原則として7日以内。2泊3日と3泊4日のように、分割利用も可能です。東京都では、3泊4日までや4泊5日までのところを多くみかけます。
料金は、自治体の助成によって自己負担金はかなり安くなります。東京都では、1泊2日一般世帯で8000円や13440円の施設もあります。
非課税世帯や生活保護世帯の自己負担額は、一般世帯より減額される自治体が多くなっています。市町村によって、利用期間や自己負担額、施設内容も変わります。
対象者であるかどうかの審査があったり、申請から利用までの手続きが必要だったりと、利用に対するハードルが高いかもしれませんが、自己負担額が少なく利用できるのが最大の特徴といえるでしょう。
民間の産後ケア入院の場合
病院や助産院の産後ケア入院や産褥(さんじょく)入院だけでなく、産後ケアセンターやホテルもさすことが一般的です。
ゆっくり休みたいママや、しっかりと育児指導を受けたいママ、乳房ケアをしてほしいママなど、個人の要望に合ったサポートを受けられるのはもちろん、エステが併設されている場合もあります。
利用期間は施設によってさまざまですが、延長入院が可能な病院や、希望日数宿泊できるホテルもあります。
たとえば、成城木下病院では、ママのパジャマやタオルをはじめ、赤ちゃんのおむつ、ミルクなどがセットになった「手ぶらで入院プラン」もあり、入院手荷物を最低限にできます。
コロナ禍のため、ショートステイは休止中ですが、分娩入院の延長(6泊7日まで)のみ利用することができます。
分娩施設で出産後そのまま産後ケア入院ができる場合は、出産後退院せずにそのまま継続して利用できるので、ママの身体的に負担が少ないというメリットもあります。
産後ケア入院以外の選択肢も
産後ケア事業には、入院タイプの「短期入所型」のほかに、「通所型」と「訪問型」があります。
「通所型(デイサービス型)」は、産後ケアセンター(病院、診療所、助産所、その他厚生労働省令で定める施設)などに、ママが赤ちゃんを連れて、日中、日帰りで利用します。
実施対象者のママの自宅に、助産師などが訪問してくれる「訪問型(アウトリーチ型)」の産後ケアもあるので、自分にあったものを利用できるとよいでしょう。
産後ケア入院を知り活用しよう
自治体の産後ケア入院は、予算事業としてはすでに数年以上経過しており、経産婦で利用している方もたくさんいます。最近では、パートナーが利用をすすめる家庭も。
一方で、産後ケアが必要な妊婦さんやママに情報が届いていない場合や、自治体の事業は知っていても申請をしていない妊婦さんも見かけます。
妊婦さんだけでなく、パートナーや家族も、住民票のある自治体がどういうサポートを提供しているか、しっかりチェックして、積極的に利用してみてください。
PROFILE 宮木優梨絵
取材・文/木村美穂
参考/厚生労働省子ども家庭局長「母子保健法の一部を改正する法律」の施行について(通知) https://www.mhlw.go.jp/content/000657398.pdf
厚生労働省「産後ケア事業の利用者の実態に関する 調査研究事業 報告書」令和2年9月 https://www.mhlw.go.jp/content/000694012.pdf
厚生労働省「産前・産後サポート事業ガイドライン 産後ケア事業ガイドライン」令和2年8月 https://www.mhlw.go.jp/content/000658063.pdf
厚生労働省「産後ケア事業の利用者の実態に関する 調査研究事業 報告書」令和2年 https://www.mhlw.go.jp/content/000694012.pdf