役者デビューから30年が経った戸田菜穂さん。「憧れだった40代は楽しい」と微笑みます。
20代、30代は負けん気が強く、カッコつけていた。そうした葛藤を経て今がある。仕事に趣味に家事・育児に、迫る現実は山盛り。でも、「忙しい」を理由にしないで、生活を送る心地よさについて、戸田さんが発する穏やかなメッセージに耳を傾けます。
30代後半から自分の心が扱いやすくなった
—— 10代の頃から「息の長い女優になりたい」と仰っていた戸田さんですが、改めてデビューから振り返ってみていかがですか?
戸田さん:
デビュー当初から、若さの勢いでバーンと活躍するタイプではないと思っていました。自分でも息の長い女優を目指していたので、大きな焦りは感じませんでした。ただ、仕事はもちろん人生としての経験値もまだまだ浅く、とにかく目の前の仕事をひとつひとつ向き合って学んでいった時期だと思います。
—— 20代から30代、そして40代になって変化したことはありましたか?
戸田さん:
20代の頃は自分に自信がなかった一方で、負けん気も強かったんです。今思えば、少し突っ張っていた部分があったかもしれません。どこかカッコつけていたような気はしますね。それに、落ち込んでる暇があるならもっと頑張ろうと、無意識に肩に力が入っていたんでしょうね。
それが30代後半あたりから、自分自身の心が扱いやすくなった感じはします。何かあってもあまり傷つかなくなりました。人に対して羨ましいって思うことがあっても、そんなに悔しいと思わない。
ネガティブな感情がほとんどなくなったんです。そもそも、ネガティブな感情って邪魔じゃないですか。人からどう見られているとか、他人の目を気にするのも不健康ですよね。
私はほとんどパソコンも使わないし、作品以外の自分への評価など見ません。たくさん褒められても1個傷つくことがあればショックですから。しかも、マイナスなことを目にすると、そのことばかり考えそうだから見ません。
ファンレターをもらうと、嬉しいなぁって思うアナログ派です。自分の心が穏やかでいられるように、つねに心地よい環境は整えています。
—— そう思えるようになったのは、結婚、出産を経験されて家族を持ったことも大きかったのでしょうか。
戸田さん:
それもあると思います。家族を持ったことで、外でどんなに仕事が忙しくても家に戻れば癒やされます。心のより所ができたことは大きいでしょうね。子どもができてから自分の時間は減りましたし、家の中ではほぼゼロです。
でも、最近犬を飼い始めたら、朝、犬が小さく“ワン”と吠える声で私だけ目が覚めるんです。そこから、子どもたちが起きるまでの時間が、唯一私の時間です。
それでも、子どもができたあとも、自分の生活が家の中だけで納まるのではなく、外に出て自分一人の時間も楽しむようにしています。結婚当初から快く送り出してくれる夫にはありがたいと思いますね。
年齢を重ねて知った“楽しんだもの勝ち”
—— 家族関係も充実されていて、さらに俳優としてもますます活躍されていますね。
戸田さん:
10代の頃から、40代くらいの俳優さんを見て素敵だなって憧れていました。自分も40代あたりを目指してコツコツと積み上げてきたつもりですが、いざその年代になってみると、まだまだ子どもだなって(笑)。
でも、演技としての経験はもちろん、年齢を重ねていくと、自分の味方も増えていきました。これからは、強さとしなやかさが両方持てたらいいなと思っています。
皆さん基本的に忙しい人が多いと思いますが、もう楽しむが勝ちだと思うんです。仕事も楽しむ、子育ても楽しむ。なんでも完璧を目指さずに自分のペースで楽しんでいます。
ですから、家事も仕事も趣味も、自分が楽しもうとする視点を持てば世界は変わるし、自分自身もそんな気持ちであり続けたいですね。
PROFILE 戸田菜穂さん
取材・構成/松永怜 撮影/坂脇卓也