地方で働くシングルマザー

20歳のときに出産した女性がいます。彼女はシングルマザー。貧しさを受け入れて子育てしたくない。働きながら通信制大学で学び、ある資格を得ます。正社員の働き口も見つかり、人生は追い風—— 、と思っていたのも束の間。再び結婚、出産、夫のピンチと目まぐるしい日々を送ります。そんな女性の焦り、難しさをとりあげます。 

 

26歳で念願の正社員になり、穏やかな生活に

20歳のとき、シングルのまま出産したユカリさん(34歳・仮名=以下同)。その後、「このままだと仕事もなく、貧しいまま子育てすることになる」と焦りが生じ、通信制大学に入学。働きながら大学を卒業しました。その間、息子を育てきれず施設に預けたことも。一時期、生活保護を受けていたこともありました。

 

 

「それでも大学を卒業して、ある資格を得ました。その後もアルバイト生活でしたが、26歳のとき、やっとその資格を生かして正社員として働けるようになり、ホッとしました」

 

息子が小学校に入学してからは、近所のママ友たちにも助けられてきたそうです。彼女は仕事と息子との生活に、今までにない「幸せ」を感じていました。

 

「息子には寂しい思いをさせたけど、これからは絶対にママが守るからねと言いました。すると『ボクもママを守るよ』って。息子の存在は私の生きがいですね」

 

20代後半、未婚の女性も多い年代です。恋愛したり友人と遊んだり。そんなこともできませんでしたが、ユカリさんは幸せでした。そして、28歳のとき、近所に引越してきた10歳年上の男性と出会います。彼もひとり親。離婚して6歳の息子を育てていて、自然と子どもの話から親しくなりました。

 

結婚して、子どもも産まれた。でも幸福は一転

 

お互いの子どもが仲良くなったため、親同士も一緒に食事をするような仲に。そして2年後、彼女はプロポーズされます。

 

10歳になった息子に、『○○ちゃんのパパと一緒に住むの、どう思う?』と聞いたら、『結婚すればいいよ』と言われました。子どものほうが大人ですね(笑)」

 

ふたりは結婚し、夫の故郷である地方都市で生活することに。夫の両親とは別居。彼女の資格を生かしての仕事の働き口もありそうで、決断します。

 

「仕事はすぐ見つかりました。夫も友人の紹介で仕事を得て、3年前、夫との間に娘が生まれて5人家族に。でも、夫は1年前に失職してしまい、その頃から次々と問題が起こって

 

まず夫の連れ子に発達障害が判明。彼女はどうやって接したらいいか勉強を重ねましたが、今も手を焼くことが多いと言います。その影響か、彼女の息子に対して夫はあまり優しくありません。 

ヤングケアラーになりそうな危機

「私の息子、そこそこ勉強できて、スポーツ万能で友だちも多い。それが夫には面白くないみたいで。自分の息子と比べてしまうんでしょうね。気持ちはわかるけど、自分の子連れ子と分けるのはやめよう、と私はずっと言ってきた。もしふたりが初婚で結婚しても、どちらかに抱えている問題はあるかもしれないわけだから」

 

夫はすぐに仕事が見つかると思っていたようですが、すでに40代。コロナ禍の状況で就職先が見つかりません。だからといって働く妻を見て、家事育児をすべてやるわけでもない。ユカリさんのストレスは募る日々。

 

「以前から専業主婦になって、新しい家庭を整えたい気持ちがありました。でも子どもが3人に増えて、夫の収入も多くはなかったので働かざるを得なかった。そこへ、夫が失業してしまい

 

夫には家計をすべて公開して、危機意識を持ってもらいました。去年の秋頃から、夫は引越のアルバイトや工事現場など、日雇いの仕事をするように。

 

「私としては定職に就いてほしいけど、夫は『毎日働くのはしんどい』と言い始めて。夫の仕事が不安定だと、私の精神状態も不安定なんですよね」

 

長男が発達障害の次男のめんどうをみることもあり、「ヤングケアラーになってしまう」とユカリさんには焦燥感もあります。さらに今後、夫の両親の介護も切実になりそうな気配。再婚して4年、「心身共に、あげく経済的にも余裕のない子連れ再婚って難しい」と、しみじみ感じているそうです。

 

地方で働くシングルマザー
再婚家族の難題に対して悩みが深まる女性
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里 ※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。