時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。

 

今回はジャーナリストで東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授の治部れんげさんに取材。私たちのキャリア形成の障壁になっている「マミートラック」とその解消法について伺いました。

マミートラックの葛藤は心のモヤモヤから生まれる

── ワーキングマザーが一般的になり、夫婦の家事・育児分担はあたりまえになっています。ただ、依然として子育ては女性中心。仕事をセーブしなければならず、その結果、昇進や昇給が厳しい状況は続いています。同じトラックを走っているような感覚に陥り、葛藤する、いわゆる「マミートラック」問題について、治部さんはどうお考えですか?

 

治部さん:

誰しも仕事を優先しなければいけないとは思いません。それぞれの人生ですから、「私は仕事よりも子どもを優先する」と、自分で決断している人はいいのではないでしょうか。

 

ただ、本当は仕事にもっと注力したいのに、「私は母親だから」と、自分自身で無意識のバイアスをかけ、制限している人もいらっしゃいます。自分でキャリアを考え、どうしたいかを決めることが、この問題と向き合う第一歩かと。

 

── 職場や家庭内の問題はあるものの、まずは自分がどうありたいかを見極めるということですね。

 

治部さん:

はい。そもそも、マミートラックにおける葛藤、モヤモヤした感情は、何かを決められていないときに起こるもの。

 

原因としてよくあるのが「夫には言ってもわからない」「夫は長時間労働だから諦めるしかない」など、夫には相談しないケースです。しかし、諦める前にどれくらい意思を伝えたのか、ということは、実はとても大切なことです。

 

しっかりと意思表示をした人のなかには「もう夫は対応してくれないので、いない者と思って働いている」という人も。それもひとつの決断、対処法かと思います。

 

ただ、日本は妻が不満を飲み込んでいることに甘えている男性がとても多い。この状況が欧米なら離婚ですよね。女性が我慢できなくなり、離婚を切り出す人が増えたら、日本の男性も変わるかもしれません。実際、これからの世代はそうしたケースも増えてくると思います。

 

男女ともに仕事最優先以外の選択肢があればいい

── ということはマミートラックのモヤモヤ、不確かな要素を明確にするためにも、まずは夫婦での話し合いが必要ということでしょうか。

 

治部さん:

そうですね。女性本人がマミートラックに陥っていることに気づけていないときや、「自分より夫の地位が高いほうがいい」と無意識に考え、仕事をセーブしているケースもあります。

 

反対に、本人は仕事はそこそこでいいと思っているのに、会社や上司からは女性活躍を期待・要望され、モヤモヤしている場合もあるようです。

 

── いずれにせよ、話し合いの中で状況を整理し、今の環境のなかで進む道を自ら決断することで、葛藤を解消する糸口になると。

 

治部さん:

 

会社はやる気を持って上を目指して欲しいと言いますが、男性にも「そこそこルート」があるといいと思います。男性にもそうした選択肢があれば「男だから長時間労働しなきゃ」とか、そういう呪縛から解放されるのではないでしょうか。

 

女性が競争から降りることは「お母さんだから、まだわかる」と周囲から見られますが、男性が競争から降りた時のスティグマ(烙印)は強くて、そうすると夫はガンガン働かなきゃいけないと思ってしまい、長時間労働し、妻が仕事を減らす方向になることが多いですね。そうしてまた、女性がマミートラックを走って葛藤していきます。

 

PROFIL 治部れんげ

治部れんげ
1997年、一橋大学法学部卒業。日経BP社にて経済誌記者、2006〜07年ミシガン大学フルブライト客員研究員、14年よりフリージャーナリスト。18年、一橋大学経営学修士課程修了。現在、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。著書は『「男女格差後進国」の衝撃 無意識のジェンダー・バイアスを克服する』など多数。

取材・文/天野佳代子 プロフィール写真提供/治部さん