親の介護でもめるきょうだい

「親の介護を遠方に住むきょうだいと協力してできるだろうか?」「自分以外は男兄弟ばかりだから、女である私がメインで介護をしなくちゃいけないの?」

 

親の介護はきょうだいの数だけ、それぞれに違った悩みがあるといいます。

 

今どきのきょうだいの介護分担について、多くの介護者を取材してきた介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんに聞きました。

介護は女性がやるもの!?

ひと昔前は、介護は妻、嫁、娘が担うことが当たり前でした。

 

少しずつ変わってきてはいますが、残念ながらまだ、「介護は女性の得意分野」という考えは根強く、介護は女性がやることが多いのが現実です。

 

さすがにきょうだいが全員男性だったら、「自分たちでやるしかない」と腹をくくるのでしょうが、きょうだいの中に女性がいる場合、介護を姉や妹など女性の方に押しつけて、兄や弟は逃げてしまうケースも、珍しくありません。

 

パート勤務の女性は、男兄弟から「おまえはパートだろう。こっちは正社員だし、忙しいんだから、なんとかやってくれ」と言われるケースもあります。

親が「娘の介護」を希望するケースも

介護をされる親側に、娘の方を頼る傾向もあります。

 

たとえば入院をしたときに「下着を持ってきてほしい」ということを、娘に言うことはできても、息子には言いづらい。あるいは、ちょっと買い物を頼みたいときや、退院後にヘルパーさんに話をしておいてほしいときなども、娘の方が頼みやすいということもあるようです。

 

こうして、女性(娘)側の負担が増えていくのです。

 

でも、パートは休めば給料が減ることもあります。会社員なら有休もあり、介護休業も取りやすいのではないでしょうか。

 

男性も育児をすることが当たり前になり、女性も生涯仕事をする時代です。親の介護も、きょうだいの性別にとらわれない役割分担が求められているのではないでしょうか。

少なくないきょうだい間のトラブル

介護をめぐるきょうだい間のトラブルの原因は、大きく分けて

● 介護を「やる人」と「やらない人」に分かれてしまう

● 介護方針をめぐる意見の食い違い

の2つです。

 

先ほどきょうだいがいても女性に負担がかかりやすい話をしましたが、姉妹であっても、うまくいくケースばかりではありません。要領のいい人と悪い人がいるからです。

 

姉妹でも介護の負担に差が出て、もめているケースは少なくありません。

 

さらには、親の本能なのか、親がきょうだいを競わせようとする場面もあります。

 

たとえば親が長女に「やっぱりあなたがいると助かるわ。それにくらべてあの子(長男など)は何もしてくれないのよ」などとつぶやきます。

 

するとほめられた長女は頑張ってしまいます。ところが、同じことを長男にも言っていることがあるのです。

 

こうしたことは、親が無意識にしていることだと割り切り、いちいち気にしないようにしましょう。

介護方針をめぐる意見が食い違う原因

介護方針をめぐる意見の食い違いは、きょうだいで介護を担っていたとしても、出てきます。

 

「施設に入れた方がいい」という意見もあれば「自宅で介護した方がいい」という意見もあるでしょう。

 

これには、きょうだいの元々の性格だけではなく、きょうだいのそのときの状況が大きく影響します。

 

きょうだいといっても一緒に暮らさなくなって何年も経過しているのが一般的。価値観、配偶者、家族構成、経済状態も一緒に暮らしていた頃とは違っています。

 

配偶者が多忙でワンオペ育児真っ最中だったり、子どもに手がかかってそれどころではない、ということもあります。

 

親との物理的な距離も違ったりします。遠方に親が住んでいれば、実家に行くだけで仕事の調整、交通費の発生など、心身の負担も違います。

 

さらには、親との心理的な距離もきょうだいそれぞれで違うため、介護の際に親とのそれまでの関係が明るみに出ることもあります。

きょうだいで一緒に向き合う覚悟を

男性側の兄弟が仕事を理由に女性側に介護のあれこれを押し付けてくる場合、男性にも「自分にもできそう」と思わせる言葉があります。

 

それが「介護はマネジメント」という言葉です。

 

男性の多い企業などで介護の講演をすると、最初は他人事のように聞いていた男性が、「マネジメント」という言葉を出した途端に真剣にメモをとりはじめます。

 

もし男兄弟が「介護なんて自分にできるかな」などと言ったら、「介護はマネジメントなのよ」と伝えてあげると、気持ちが軽くなるようです。

 

介護イコール食事を食べさせること、トイレの介助をすること、と思っていると「難しそう。苦手だな」と思う人もいるでしょう。

 

介護は、「どんなサービスを使うか段取りを立てること」だと考えれば、「女性の方が得意だ」という思い込みを持たずに済み、きょうだいで一緒に向き合うことができます。

うまく協力できているきょうだいのパターン

うまく協力できているきょうだいもたくさんいます。

 

ローテーションを組むなどして、病院付き添いとか、自宅の掃除などを分担する、あるいは、主になって介護するきょうだいをサポートするために、定期的に通ったり、介護にかかる費用を経済面でサポートしたりするなどのケースもあります。

 

また、きょうだい間でLINEグループを作って、常に親の介護の情報を共有しているという人もいます。常に情報を共有していると、「私は聞いていない」「相談もなく勝手に決めた」などといったトラブルがなくなり、きょうだい間で一緒に向き合っていく覚悟もできるでしょう。

 

いずれにしても、介護の問題が出てきそうになったら、早い段階からきょうだいで話し合っておくことが大切です。

 

きょうだい間で、どんなふうに役割分担して協力するのか、医療や介護の専門職との窓口になる者、親のお金の管理をする者など、なるべく細かく決めておくといいでしょう。

 

PROFILE
太田差惠子(おおた・さえこ)さん

太田差惠子さん
京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会認定)の資格も持ち、「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換の場、NPO法人パオッコを立ち上げ、2005年法人化した。現理事長。主な著書に「親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと」(翔泳社)、「親の介護で自滅しない選択」(日本経済新聞出版社)「親の介護には親のお金を使おう!」(集英社)など多数。

取材・文/樋口由夏 イラスト/福田玲子