コロナの対策、年金などのお金の課題、夫婦のあり方…そんな自分たちの生活に直結することを決めているのは政治家です。大事な役割を担う彼らを選ぶために選挙がありますが、その投票率は右下がり。1950年代は約77%あったのに、今や50%前後。
投票しても何も変わらない。でも今の世の中は不安。矛盾を抱える中、どうすれば、選挙を自分ごとにできるのかを本特集では考えていきます。まず「選挙って何なの?」。わかっているようで見過ごしがちな基本について、法学者の木村草太さんに話を聞きました。
選挙に行くのは、半分は「仕事」です
—— 選挙に対して、自分事ではなく他人事に感じてしまう人も多いようですが、選挙の重要性について、改めて教えてください。
木村さん:
日本は法の支配の原理に基づいて運営されます。だから、国が何かするときは、まずは法律が「出発点」になります。
たとえば現在のコロナ対策も、法律に基づいて自粛要請や命令が出ているわけです。
コロナ以外でも、教育や社会保障などの制度も、国がやっていることは法律に沿って行っています。その法律を作る仕事をしているのが国会議員。そう考えると国会議員を選ぶのは非常に重要な仕事ですね。
—— 選挙は大事なことだと理解していても、選挙に行かない人も多いですよね。
木村さん:
選挙に行くのは半分“権利”ですが、もう半分は“仕事(公務)”だと言われています。国会議員の人たちは、国の大事な話を決めていて、国会議員がいないと法律が作れないため国が成り立ちません。
あるいは、国会議員がいることによって、問題のある法律も改正できます。ですから、有権者が国会議員を選ぶのは、国会議員をやるのと同じくらい大事な仕事になるわけです。
選挙や政治の話が気軽にできない訳
—— 選挙は権利と仕事なのですね。しかし、何となく…選挙や政治の話ってタブーとされているような、場所と相手を選ぶイメージもあります。
木村さん:
政治は、対立がある中で1つの決定をすること。選挙や政治の話をすると、意見がぶつかったり、考え方が異なったりする可能性もあるので、敬遠する気持ちは分かります。でも、お互いの信頼関係があれば、選挙や政治の話題もポジティブな会話になりますよ。
—— たとえば、アメリカの大統領選はお祭りのように盛り上がる印象すら受けます。それに比べて、日本では正直そこまでの熱狂を感じません。これも、対立を好まない気質が含まれているのでしょうか。
木村さん:
それもあるかもしれません。あとは、自分たちの意見が反映されなくて、気持ちが醒めていく、という悪循環もあるかもしれませんね。
たとえば、自分や友人が夫婦別姓を選べなくて困っている人や、選択的夫婦別姓の導入に反対する人の理由づけを見ておかしいと感じる人は多いでしょう。しかし、これまで政治は、強硬な反対派の言うことだけを偏重してきた。それを見て無力感を持ち、声を上げる気力を失った人もいるでしょう。
しかし、声を上げないと、どんどん政治は動かなくなっていく。そういった悪循環が続くと、次第に政治や選挙に対して関心が薄くなってしまうのかもしれません。
—— また、選挙に立候補する人も投票する側も50〜70代以上の方が多く、結果的に選ばれる人も政策も、その世代が有利になるものが多い気がします。
木村さん:
選挙には地盤や組織が大切で、それを固めるためには一定のキャリアや世襲が構造的に必要になってくるんだと思います。ですから高齢者が好まれるというよりも、高齢者じゃないと揃えられないものがある。
ただ、立候補している人は、1票でも多く獲得したいと思っていますし、国会議員は、どんな年齢や性別の人でも「全国民の代表」(憲法43条)として活動しなくてはいけません。
年齢が離れていたり、自分と性別が違ったりする候補でも、「自分はこんなことに困っています」、「国にこんなことを期待しています」と話せば、案外、話を聞いてくれるかもしれません。
若い人の幸せのために何ができるかを一生懸命考えている高齢層の議員の方もたくさんいます。
PROFILE 木村草太さん
取材・構成/松永怜