コロナで働き方が大きく変わり始めています。

 

2021年の上半期では、企業の動向や女性の働き方にどんな変化があったのか。働き方改革や女性活躍に詳しいジャーナリスト、相模女子大学大学院特任教授の白河桃子さんにお話を伺いました。感染予防対策の一環でもあるテレワークはなかなか広がりを見せていないようです。

テレワーク実施率はわずか2割超…格差が生まれている

── 今年のこれまでの状況をみて、企業の変化などで感じられることはありますか?

 

白河さん:

半年だとなかなか調査の結果が追いつかないですが、例えばテレワーク実態は8月17日にパーソル総合研究所が発表したものが新しいかと思います。

 

全国2万人規模の調査をしたものですが、テレワーク実施率27.5%程度。わずか2割超3割弱と。日本はなかなかテレワークが広がっていかない状況が伺えます。

 

また、全体としては広がっていないものの、正社員と非正規、地方と東京などで分類すると、そこに大きな格差があるのがわかります。

 

大企業、正社員、首都圏のテレワーク率は一時55%ほどまでいったので、首都圏と地方の差が大きいですね。パーソル総合研究所の5回目の調査だと、従業員1000人規模だと44.5%がテレワークを実施しているんですね。

 

ここにきて本当に働き方の柔軟性の差が企業間、産業別、地域別で明らかになってきています。

テレワークの方が生産性が落ちると考えている人が8割

── 新たな課題として、今年に入ってから「テレワーク疲れが生じている」といったニュースを耳にするようになりましたが。

 

白河さん:

ただ、先の調査では7〜8割の方が「テレワークを続けたい」と言っているそうです。テレワークかリアルかの一択ではなく、今後は「働き方の選択肢を持ちたい」と言う声が多数ではと思います。特にテレワーク経験者は働き方への意識変化、家庭を大切にしたいなどの意識変容が起きていました。

 

ただ、さまざまな調査で「テレワークの方が生産性が落ちる」という回答が8割ぐらいあるようです。

 

ここにも実は格差があって。コロナ前からテレワークを導入しようと努力をしていた企業の場合、そこまで生産性は落ちていないと回答しているんです。それ以外の企業の回答と比較すると10ポイントほどの差があります。準備をしていた企業と、コロナ禍で準備なくスタートせざるを得なかった企業では、結果が大きく違ってきています。総務省も最近、同様の調査結果を出しました。

 

── 新しい働き方を取り入れるだけでは不十分なのは想像できますが、ここまではっきりと結果にも差が出るんですね。

テレワーク課題解消の鍵は「現場の裁量権」

白河さん:

ただ、テレワークで生産性を高める方法はすでにわかっています。総務省の調査ですが、「自律度が高くて、裁量があるという仕事」については、テレワークで生産性が高くなる人がいると出ています。

 

いちいち指示をあおがなくても自分の仕事をしっかりできる環境にある人は、テレワークは「ウエルカム」という感じです。

 

つまり、テレワークで重要なのは仕事の自己裁量がどれぐらいあるかということ。生産性や効率性に何が寄与するのか、業務範囲、期限の明確性、その業務に裁量性があるか、評価基準の明確性がある仕事をしている人ほど、テレワークに好意的ですね。

 

それらを社員に明確化できるかが、現場の課題解消、生産性向上の鍵になりそうです。

会議が減り、ミドル層の働き方にも変化が

── テレワークなど、今後はオンラインでの働き方に適応していく必要性が増していきます。白河さんも著書『働かないおじさんが御社をダメにする』でも触れていましたが、ミドル層が適応していくのは難しいのでしょうか。

 

白河さん:

出社して会議に出ているのが仕事だったような人はどう成果を出していけば良いのか難しいところですよね。自分で仕事を見つけなければならない、ということは明確になってきていると思います。

 

会社に時間を捧げることが仕事だと思っていた人は、どんな地位の人でも考え方の転換が必要になります。毎日ずっと会議には出ていても、成果がないのであれば、評価をえるのは難しいですよね。

 

また、部下がいる中間管理職はリモートマネージメントできるようになることも重要です。部下に裁量権を与え、やる気を引き出し、勤務時間ではなく成果物で評価する。対面指導でなくても部下のモチベーションを高めるマネジメントが必要です。そういうことが下手な人だとチームの生産性が下がる、エンゲージメントも低下すると思います。

 

テレワークで企業のロイヤルティが低下する問題

白河さん:

テレワークを推進するなかで企業がいちばん困るのは、会社へのロイヤルティ(忠誠心)が薄れることです。従業員のあいだに「この会社の一員だ」という一体感が薄れてしまう。

 

知り合いが「テレワークは快適だし、会社も好きだけど、自宅に会社のロゴをはるほどは好きじゃないよね」といっていて、「確かにそうだよね」と感じました。そこは大きいかなと思います。

 

みんなで集る場は確実に重要です。ですから今はオフィスをワークプレイスではなく、心の拠り所、共創の場として設計し直している企業もありますよ。

 

── それがないと、続々転職していってしまうと。

 

白河さん:

そうですね。特にこの1、2年で入った新入社員や中途の人は「心の拠り所」がないと、本当に困りますよね。

労働人口を必要とする産業に女性も移る必要がある

── 白河さんは非正規雇用の女性の就労状況についても以前、危惧されていました。今年の状況をどう受け止めてらっしゃいますか。

 

白河さん:

本当に悲惨ですよね。現状の支援はもちろん必要なのですが、ジェンダーギャップがコロナで露呈しました。普段の状態から、ジェンダーギャップを埋めることが重要です。

コロナ禍で失われた仕事は販売や飲食などの女性が多い対面の非正規が多い職業だったりするわけです。男性の仕事が意外にも失われにくかったのはIT業界などが多いから。産業によって、今後ますます人を必要とするか否かが変わっていきます。産業間の労働人口の変化に、女性も備えることや、また産業間を移動できるような就業支援が必要です。

 

先日、メルカリの山田進太郎CEOが財団を設立されて、理系を目指す女子生徒に奨学金を出すと発表された。

 

経営者によるこの動きは本当に素晴らしいことで、理系の女性人口が少ないので、IT企業がたくさん女性を採用しよう思ってもエンジニアの女性がとれない。だから会社のダイバーシティが生まれない。企業経営者としても課題がある。そして当の女性にとっては、まだまだ稼げる分野なのでぜひIT企業などに入社できる、または転職できるといいですね。

 

── 女性自身の学びなおしの仕組みがあると良いですね。

 

白河先生:

困っている人にはすぐに支援が必要です。でも「困ったすぐ支援、困ったすぐ支援」だけじゃなく、自立できるような環境を整えるのはすごく重要だと思います。

 

── 学べる場が作られると良いですね。

 

白河先生:

女性に限らず、男性ミドル層もそうで、デジタル時代の人材戦略として、リスキリングが重要と思っています。リスキリングは新しい職業に就くため、あるいは、今の職業で必要とされるスキルのドラスティックな変化に適応するために、 必要なスキルを獲得する、また過去の学びを捨てるなどのことを指します。

 

大企業が社員に学ばせる取り組みを始めるのは、素晴らしいと思っています。やはり日本のメンバーシップ雇用のもと、多くの社員は会社を信頼してキャリアを預けてきたわけですから、今更梯子を外されてもという声が大きいのです。


やはり社内で失業しないために勉強は必須と思います。社内失業に備えるということですね。男性も女性も一緒だと思います。企業にリスキリングの取り組みが広がることを願っています。


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次回記事『白河桃子さん「男性育休がもたらす利益は仕事の脱・属人化」』は上半期に起きた注目すべきトピックスについて白河先生に伺います。

 

PROFILE 白河桃子

白河桃子
相模女子大学大学院 特任教授、昭和女子大学客員教授、iU 情報経営イノベーション専門職大学超客員教授、東京大学大学院情報学環客員研究員。東京生まれ、私立雙葉学園、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。住友商事、リーマンブラザースなどを経て執筆活動に入る。2008 年中央大学教授山田昌弘氏と『「婚活」時代』を上梓、婚活ブームの火付け役に。2020 年 9 月、中央大学ビジネススクール戦略経営研究科専門職学位課程修了(MBA 取得)。働き方改革、ダイバー シティ、女性活躍、SDGs とダイバーシティ経営などをテーマとする。講演、テレビ出演多数。

取材・文/天野佳代子