「寝る子は育つ」ということわざの通り、成長期の子どもにとって睡眠はとても大事なもの。では、睡眠が子どもの脳を創り、心と体の発達に欠かせないことはご存知でしょうか?
太田総合病院記念研究所太田睡眠科学センター所長であり、日本睡眠学会理事を務める千葉伸太郎先生に、子どもの脳や体をつくる睡眠の働きについて聞きました。
子どもの脳をつくる眠りの働き
睡眠には、体は休んでいるけれど脳は活動している状態の『レム睡眠』と、脳も体も休んでいる状態の『ノンレム睡眠』のふたつがあり、これらが交互に繰り返されています。
赤ちゃんの脳をつくる深い眠り
「大人の場合、レム睡眠の割合は20%ほどなのに対し、新生児は約50%を占めています。
新生児の睡眠はこま切れで1日に何回も眠る“多相性睡眠”。実はこのとき、脳は神経回路を広くつなげるため、活発に活動しています。
赤ちゃんの未成熟な脳は、眠っている間にどんどん形作られます。それと同時進行で、睡眠のしかたも学んでいるのです」
さらに、レム睡眠には“情報の仕分け”の役割があるそう。起きている時間に見聞きした情報を、記憶する情報と消去する情報に仕分けしている作業が脳の中で起こっています。
「生まれたばかりの赤ちゃんにとって、目にするもの、耳にするものはどれも新しいものばかりですよね。
つまり、新生児の睡眠には、脳が情報を処理するのに時間を要する。それで、長いレム睡眠が必要なのです」
よく眠る子どもほど記憶力がよい?
脳へアプローチする睡眠の働きは、他にもあります。
東北大学の瀧靖之教授らの調査によると、子どもの頭部MRI画像で、海馬の体積を測定した結果、平日の睡眠時間と海馬の体積に相関がみられました。
「この研究結果から、睡眠時間を十分にとっている子どもは、睡眠時間が短い子どもに比べ、海馬の体積が大きいことがわかりました。
脳の海馬は記憶をつかさどる領域ですから、子どものときのよく眠る習慣は、記憶力にも大きく関わっているといえるでしょう」
睡眠の質で左右される「成長ホルモン」の分泌
睡眠には心身の休息だけでなく、発達や成長を促進させる役割があり、子どもは眠っている間に成長の準備を行っています。
「よい眠り」と「成長ホルモン」の関係
「特に子どもの体の成長を促す『成長ホルモン』は、『睡眠依存性ホルモン』ともいわれるほど、睡眠の質に左右されます」
成長ホルモンは、傷んだ細胞の修復をする働きも。大人の場合では肌にハリや潤いを与えるアンチエイジングの役割も果たしているため、子どもだけのものでもありません。
「深い眠りのノンレム睡眠時に、成長ホルモンはたくさん分泌されます。
ですが、ぐっすり眠れていないと分泌量は減るので、本来子どもが持っている成長力が抑制されてしまいます。
具体的にどのようなことが起こるかというと、成長障害の範疇にまでは及ばないものの、少し痩せ形、やや身長が低いといった体型になるケースが見られます。
実際に、睡眠中のひどいいびきの治療後、よく眠れるようになったお子さんの身長がぐんぐん伸び始めたという例もあります。
眠りが改善され、睡眠の質がよくなると、子どもの本来の成長力が発揮されるようになるのです」
「ゴールデンタイム」は眠り始めの90分
眠り始めの90分は、成長ホルモンが最も分泌される時間といわれています。
「ゴールデンタイムは個人差があり、70分ほどの人もいれば、100分以上の人もいます。このゴールデンタイムに、しっかりと深い睡眠を取ることが非常に大切です。
ポイントは、眠りはじめの最初の時間に、どれだけ深く眠れているかということ。
睡眠リズムがそもそも崩れていたり、睡眠環境が整っていなかったりすると、ゴールデンタイムのパフォーマンスが落ちてしまいます」
予防接種の効果が半減?睡眠不足のリスクに注意
睡眠中には、さまざまな生体機能が作用します。睡眠の質が悪かったり、時間が不足していると、その機能がうまく働かず、抵抗力や免疫力が低下してしまう恐れも。
「たとえば、睡眠時間7時間未満で睡眠効率が低い状態が続くと、8時間以上眠っているときに比べて、風邪にかかるリスクが5倍以上になるということがわかっています。
十分な睡眠をとっていなければ、インフルエンザの予防接種を受けていても、その効果が半減してしまう可能性があるという研究データもあるほどです。
それだけではありません。子どもの睡眠不足は、心の発達や学力、運動神経や肥満にも大きく関わっています。
特に日本の子どもたちは、世界的に睡眠時間が短い。睡眠に対する意識改革の必要性を強く感じています」
次回は、睡眠が心の発達や学力、肥満の要因にもなる理由について。具体的に子どもの成長にどのような影響を与えるのか、詳しく聞いていきます。
PROFILE 千葉伸太郎
取材・文/仲宗根奈緒美