前回の『​​

病気未満の睡眠障害に注意「夜寝られない」を防ぐお昼寝のコツ

』の記事では、概日リズム障害と、その予備軍の子どもが増えている背景について、太田総合病院記念研究所太田睡眠科学センター所長であり、日本睡眠学会理事を務める千葉伸太郎先生に聞いてきました。

 

耳鼻咽喉科で子どもの無呼吸に関する研究にはじまり、睡眠のメカニズムから眠りの質を解き明かす千葉先生に、子どもの“よい眠り”に必要なポイントを教えてもらいました。

子どもの睡眠をコントロールするのは親の役割

「子どもは、もともと成長するための能力を持っていますが、睡眠に問題があると、子どもの成長する能力が充分に発揮されません。

 

しかし、眠りの時間と質、リズムを工夫することで、子どもの成長を効率よくどんどん伸ばすことができます。

 

実際にプロアスリートや科学者はその重要性を理解し、睡眠を非常に大切なものと捉える人が多く存在します。

 

大人は睡眠の重要性を理解すれば、自分で行動や習慣を変えることができますが、子どもの場合は自分でコントロールすることは難しい。

 

まずは、子どもの最も身近にいる保護者が、睡眠の重要性を認識し、行動を変えていくことが大切です」

子どものグッドスリープに必要な3つの要素

では、具体的にどのように子どもをよい睡眠へと導けばよいのでしょうか。

 

“よい眠り”は、体内時計をリセットする「光」と、体を自然な入眠に導く「温度」、質の高い睡眠に欠かせない「音」、この3つに支えられています。

朝と夜で「光」の取り入れ方を変える


「まずは光。放っておくと少しずつ後退してしまう体内時計をリセットするためには、朝、太陽の光を浴びることが最も効果的です。

太陽光は、人間の脳を目覚めさせるためには欠かせません。照度は、昼間で3万ルクス以上の明るさ、曇りの日でも屋外では1万ルクス以上の明るさがあります」

 

朝の目覚めに太陽光は必須ですが、寝る前は、光刺激をなるべく避けることが望ましいです。就寝前の30分〜1時間はブルーライトを避けるために、テレビやスマホ、ゲーム機の利用を控えましょう。

 

また、夜間は、あまりまぶしさを感じない暖色系の照明を使うことにより脳の眠りの準備を促すこともおすすめなのだそう。

 

「寝るときには、部屋を暗くしましょう。お子さんが怖がる場合は、就寝後に電気を消してください。

 

遮光カーテンを使っている場合は、朝になったらカーテンを開けて光を取り込むと、体が目覚めやすくなるでしょう」

質の高い睡眠へと導く「温度調節」

「もう一つは、体温があげられます。

 

一日の中で最も体温が低いのは睡眠中、真夜中から明け方にかけて。起床後、少しずつ上昇をはじめ、16時〜18時頃がいちばん体温が高くなります。

 

体温変化の1日のリズムを上手に活かしながら、“脳の温度”を速やかに下げる。これが、質の高い睡眠をとる上で非常に大切。

 

脳の温度は、体の表面を冷やせば下がるというものではありません」

 

就寝前に、深部体温を速やかに下げるためには、日中の運動と、お風呂の入り方がポイントになってきます。

 

「日中の運動は、代謝が上がり、深部体温が高い状態になりますが、夜に向かって体温はゆっくり下がっていくことで、寝つきがよく入眠後の眠りも深くなります。

お風呂の入り方は、お湯が熱すぎると脳が覚醒してしまうため、ぬるめの38℃くらいのお風呂にリラックスして20分ほど、だいたい就寝1時間前に入るのがおすすめ。

 

入浴後、60〜90分後くらいから体温が下がり、よく眠れるようになるでしょう」

 

ほかにも、寝具メーカーとスタンフォード大学の共同研究によると、通気性のよいマットレスを使うと、体温の下降をスムーズに促すことがわかっています。

 

肌に直接触れるパジャマや布団、シーツ類は吸水性のよいものを選ぶなど、睡眠環境を整えることも大切です。

深い眠りに関わる入眠前の「音」

「よい睡眠に必要な最後の要素は、音です。

 

騒音が眠りを妨げるのはもちろんのこと、テレビの音や音楽、話し声などで騒がしいと、眠りの質が下がってしまうので注意してください」

 

心地よく深い眠りを担保するためには、静かな環境が必要です。

「早く寝る」ではなく「早起き」からスタート

光、温度、時間……よい眠りへと導く3つの要素以外には、生活リズムを整え、しっかり睡眠時間を確保することも忘れてはいけません。

 

しかし、睡眠のリズムを変えたいと思っても、子どもがなかなか寝ない場合はどうすればいいのでしょうか。

 

「生活リズムの整え方は、早く寝なければと考えるのではなく、まずは早起きからはじめることが大切です。そうすれば、夜は必然的に眠くなります。

 

注意していただきたいのは、それを1日だけ試しても、あまり効果がないということ。人間に備わるリズムは習慣によって作られているので、少しずつ変えていくしか方法はありません。

 

そのために鍵になるのが、保護者の生活リズムです。家族全体の生活習慣を見直す、あるいは、両親のいずれかだけでも、子どもの見本になるような生活リズムを作れるとよいかもしれませんね」

上手に眠る力が子どもの将来の財産に

眠ること自体は、誰でも、教わらなくても自然にできるものですが、質の高い睡眠をとるには、意識や工夫をしながら向き合っていくことも重要です。

 

「まずはお子さんがよく眠れているか観察してみてください。そして、よい睡眠がとれるようできることからはじめてみる。問題がある場合は必要に応じて病院を受診しましょう。

 

眠りには、個人差があり、これが正解だという絶対の答えがありません。

 

だからこそ、大事にしていただきたいのは、一人ひとり違う睡眠を他の人と比較するのではなく、『その子にとって最適な睡眠』に気付くこと。

 

お子さんとコミュニケーションを取りながら、いっしょに考えていくのもいいですね。

 

よい睡眠リズムを作ることができれば、体は自然と夜に眠くなるばかりか、お子さんの健やかな成長にもつながっていくでしょう。

 

上手に眠る力は、子どもの一生の宝物になるはずです」

 

PROFILE 千葉伸太郎

千葉伸太郎先生プロフィール写真
医学博士 太田総合病院記念研究所・太田睡眠科学センター所長。慈恵医大准教授。日本睡眠学会理事(副理事長)。東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科から、スタンフォード大学医学部睡眠&生体リズム研究所客員講師を経て、長年、睡眠の研究に携わる。著書に『子どもの脳をつくる最高の睡眠 勉強、運動のできる子は、鼻呼吸をしている』(PHP研究所)がある。

取材・文/仲宗根奈緒美