前回の『

忍び寄る子どもの「睡眠時無呼吸症候群」睡眠と呼吸の密接な関係

』の記事では、子どもの睡眠と呼吸には深い関係があることがわかりました。

 

しかしながら、睡眠時無呼吸症のほかにも、睡眠障害になりつつある子どもが増えています。

 

今回は、注意が必要な睡眠障害や夜寝られないを防ぐお昼寝の考え方について、太田総合病院記念研究所太田睡眠科学センター所長であり、日本睡眠学会理事を務める千葉伸太郎先生に聞きました。

大人の生活に引っ張られてしまう子どもたち

子どもの生活リズムや睡眠リズムが崩れていく理由に、大人の生活リズムの影響が大きいと千葉先生は指摘します。

 

「まず、大人の睡眠時間が短い社会背景について説明しましょう。

 

第二次世界大戦後、日本は経済発展を遂げる過程で『睡眠時間を削って仕事をすることが、がんばっている証である』という気風を生みました。

 

グローバル化におけるビジネス活動が進めば進むほど、時差の関係から夜まで働く機会が多くなる。そういう社会背景が、睡眠不足を加速させているのだと思います。

 

そして、最も懸念すべき点は、大人の生活リズムに、子どもたちが巻き込まれているということ。

 

たとえば、夜中の赤ちゃん連れでの外出。コンビニエンスストアなどの光は、約1800ルクス。光に対する感受性の強い子どもならば眠れなくなってしまいます」

 

日本小児保健協会の調査によると、夜10時以降に寝る3歳児の割合は、2000年で52%。日本の子どもたちがいかに夜更かしの傾向にあるかを表すデータもあります。

 

「それだけではありません。受験戦争の加熱による塾通いも、日本の子どもたちの睡眠不足に大きく関わっているといえるでしょう。

 

そして今や、小中学生もスマートフォンを手にする時代。睡眠時間を削ってSNSやゲームに興じる子どもも多いという問題も複雑に絡み合っています」

寝起きの機嫌が悪い「睡眠障害」予備軍が増加

現代の子どもたちは、知らず知らずのうちに睡眠の質を落とす生活習慣と隣り合わせの生活を送っています。

ブルーライトが睡眠リズムを狂わす

「SNSやゲームをするためのデジタルデバイスの光。夜に覚醒刺激のあるブルーライトを浴びると、睡眠を促すメラトニンの分泌が妨げられます。そうすると、リズムが乱れて寝つきが悪くなる。

眠れないから、さらに夜更かしし続け、朝はすっきりと起きれない……と、どんどん悪循環になっていきます。

 

なかには学校に行けなくなり、不登校になってしまう子も。そこまでいかなくても、朝の目覚めがよくないお子さんは数多くいるのではないでしょうか。

 

本来子どもは、ぐっすり眠れていれば朝の機嫌は良好で元気なはず。朝起きたときの機嫌が悪いとしたら、眠りに問題があると考えてよいでしょう」

増加傾向にある子どもの概日リズム睡眠障害

朝起きれない睡眠リズムの崩れよって、近年、増加傾向にあるのは“概日リズム睡眠障害”です。

 

「この病気は、“概日リズム”といういわゆる体内時計が乱れてしまうこと。それによって、決まった時間に眠り、起きることができない睡眠障害です。

 

朝寝坊をしてしまうことは誰でもありますが、学校に行けないなど日常生活に支障をきたした状態になると危険です。

 

しかし、『ここからが病気である』と、診断基準を設けていはいるものの、睡眠障害かそうではないかは、線引きしてはっきりと分けられるものではありません。

 

だからこそ、保護者が気付きにくく、改善しにくいというやっかいさも兼ね備えている。特に、夏休みなどの長期休みや連休中は、生活リズムが狂いやすいので注意が必要です」

「夜寝られない」を防ぐ昼寝の方法

子どもが成長する過程で悩みがちな昼寝の取り入れ方。就学前の幼児の昼寝はどのように考えるとよいのでしょうか。

 

「就学前の幼児は、まだ長時間起き続ける力がなく、脳の発育や体力の面からみても昼寝が必要です。

 

睡眠時間に個人差があるのは幼児期も同じ。

 

ただ、いくら昼寝が必要だと言っても、昼寝の時間が必要なお子さんもいれば、不要なお子さんもいるでしょう。

 

ちなみに、人間には1日に2回、眠気があらわれる体のリズムが備わっています。1回目が、深夜2〜4時ごろがピークとなる眠気。14時〜16時にも2回目の小さな眠気の波が訪れます。

 

夕方お子さんが疲れて眠くなる場合はあります。我慢できない場合は、寝かしても大丈夫。ただ、あまり長く眠りずぎると夜が眠れなくなるので、30分から1時間ほどで起こすようにしましょう。

一方、中学生以上の昼寝の推奨時間は、13時〜15時までの間の15〜20分ほど。深く眠ってしまうと、逆に起きてから頭がボーッとしてしまうため、30分以内に収めるのがポイントです」

子どもの睡眠は大人が責任を持って対応を

「子どもの睡眠リズムは、大人が責任を持って整えていくことが重要です。

 

今の日本の社会環境は、目に見える成果を求める成果主義。そのために、睡眠時間を削って大人は仕事を、子どもは勉強をすることも、ある意味仕方のないことなのかもしれません。

 

ですが、今の状況を、『仕方がない』と諦めるのではなく、『どうすればいいのか』と考えることが大切です。

 

また、大人の睡眠に対する意識が低いと、知らず知らずのうちに、お子さんの睡眠時間が短くても大丈夫だと思ってしまうこともあるので注意しましょう。

 

まずは、睡眠に対する保護者の意識を変えていく。それが、子どものよりよい睡眠へと導く一歩になるはずです」

 

次回は、子どもの睡眠習慣を作るための具体的な方法や、質を高めるポイントを聞いていきます。

 

PROFILE 千葉伸太郎

千葉伸太郎先生プロフィール写真
医学博士 太田総合病院記念研究所・太田睡眠科学センター所長。慈恵医大准教授。日本睡眠学会理事(副理事長)。東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科から、スタンフォード大学医学部睡眠&生体リズム研究所客員講師を経て、長年、睡眠の研究に携わる。著書に『子どもの脳をつくる最高の睡眠 勉強、運動のできる子は、鼻呼吸をしている』(PHP研究所)がある。

取材・文/仲宗根奈緒美