食事をする男の子

子どもの小食や偏食が気になって、苦手な食材をみじん切りして隠したり、ひと口だけでいいからと食べさせたり、見栄えよく盛り付けたり…。

 

「実はそうした努力は『食べない子』にとっては逆効果なんです」と指摘するのは、「食べない子」専門の食育カウンセラー山口健太さん。逆効果の努力を続けると、子どもはさらに食べることを嫌いになってしまうそう。

 

「食べない子」はどうしたら「楽しく食べる子」に変われるのでしょう?これまで1000人以上のカウンセリングを行ってきた山口さんに、毎日の食事でどんな工夫ができるのかを聞きました。

「ひと口だけでも食べなさい」は逆効果

──「食べない子」を持つ保護者は、毎日の食事でどのような工夫ができるのでしょうか?

 

山口さん:

もっとも大切なのは、無理をしないことです。子どもには無理に食べさせない、そして保護者の方も無理にがんばらない。

 

栄養バランスが気になる人もいると思いますが、正しい基準を知れば大丈夫です。幼児期までならば、日本小児科学会が発表している「横断的標準身長・体重曲線」で身長と体重のSD値を比較して2.0以上の差が生まれない限り、過度な心配は必要ありません。

 

人はそれぞれに食べる量も食べやすいものも違いますから、子どもの「もういらない」「これは食べたくない」を尊重してあげてください。

 

── 保護者の立場からすると、つい「このまま好き嫌いが多くて大丈夫だろうか」「自分の育て方が悪いのでは」などと考えてしまいます。

 

山口さん:

保護者の方は「食べさせなければ」という焦りを一度、捨てて大丈夫です。

 

安心感のない環境で、苦手なものにチャレンジするのは、大人だって難しいもの。子どもに「食べなさい!」と叱ったり、プレッシャーをかけたりするのは逆効果です。

 

──「ひと口だけでも食べなさい」もプレッシャーになりますか?「せっかく作ったのに…」「もったいない」という気持ちにもなります。

 

山口さん:

その気持ちはとても分かります。ただ、僕は「ひと口だけでも食べなさい」と「完食しなさい」は同じぐらいプレッシャーをかける言葉だと思っています。

 

作るのが大変なら、お惣菜やレトルトを活用してもいいんです。残すのがもったいないなら、作る量、お皿にのせる量を減らしていい。

 

1日3回の食事の機会は、「食べない子」が変わるチャンスでもあります。ぜひ、子どもと一緒に楽しい食卓を作っていくという姿勢で、毎日の食卓に向き合ってください。「保育園のみんなと一緒だとなぜか苦手なものが食べられる」という子がいるように、楽しさは食べることへの大きなモチベーションになるのです。

サンドイッチを食べる女の子

“好き”を起点にして苦手にアプローチする

── 子どもの好き嫌いには、どう対処していけばいいですか?

 

山口さん:

好き嫌い改善のために苦手なものにいきなり挑戦させようとするケースが多いですが、これも逆効果。苦手には、今食べられるもの、好きなものを起点にしてアプローチしましょう。食卓に並ぶメニューは、7割が子どもの食べられるものでOKです。

 

最初に、食べ残しを観察して、子どもの好きなもの、苦手なものを見極めます。次に、好きな食べ物と苦手な食べ物の間をスロープのようにゆっくりと埋める方法を考えましょう。

 

例えば、白米に濃い味付けがついていないと食べられないなら、その味付けを少しずつ薄くしていく。とろっとした食感ばかりを好むなら、パサパサした食べ物には少しとろみをつけてみる。揚げ物のようにカリカリ、パリパリした食感が好きなら、苦手な食材を揚げたり、表面を硬めに焼いたりしてみる。

 

── そこも「がんばらなくちゃ!」ではなく、ときにお惣菜コーナーを見て「どれならいけるかな~?」と選ぶぐらいでいいのでしょうか。

 

山口さん:

いいと思いますよ。保護者の方が楽しむのが一番ですし、親子で一緒にスーパーで相談しながら買っても。

 

苦手な食材、新しい食材を食卓に並べるときは、食べ慣れたものと見た目が似ていると親しみやすいですね。特に「食べない子」にとっては、カラフルなもの、見た目に凝ったものは警戒心が高まりやすい。白と茶色の見慣れたカラーの方が、安心できるんですよね。

 

── ハンバーグに苦手なピーマンをみじん切りにして入れるなど、苦手な食材を出すとしたら、その事実は伝えるべきですか?

 

山口さん:

はい。食べた後に「ピーマン入ってたんだよ!食べられるじゃん!」ではなく、食べる前に「実はこのハンバーグ、ピーマンが入ってるの。でも全然わからないでしょ?試しにひと口食べてみて」と伝えてください。

 

事前に知らせずに嫌いな食材を食べさせると、子どもは「だまされた!」という気持ちになって、食事を出した保護者のことを信頼できなくなったり、ハンバーグ自体を嫌いになってしまったりします。どちらにしても、食事を楽しめるようにはなりませんよね。

「母親のせい」という人に理解してもらう方法

── 「食べられないものは食べなくていいよ」という考え方は、個人間、世代間によってはギャップがあるかもしれません。パートナーや両親、義両親に「甘やかすな」などと言われる場合、どうしたら理解してもらえるでしょう?

 

山口さん:

実は、パートナーや祖父母から「お前がちゃんとやらないからだ」と言われるお母さんは多いんです。

 

でも、僕はそういった言葉がけによって問題が解決したケースを知りません。むしろ、子どもが食べることを嫌いになったりと、もっと深刻な問題になる場合もあります。

 

保育園や学校の先生を含め、周囲の人と話すときは、客観的な事実の描いてある資料を挟んで話し合いをするのが得策です。

 

── どういった資料を用意すればいいのでしょうか。

 

山口さん:

例えば、私たちが発行している「きゅうけん(月刊給食指導研修資料)」はどうでしょうか?主に学校などの先生方に向けて、「食べない子」についての情報をイラスト付きでわかりやすく発信しています。

 

文部科学省の「食に関する指導の手引き(第二次改訂版)」の234ページ「第6章 個別的な相談指導の進め方」も参考になる点が多いです。「指導上の留意点」などの部分を確認してもらうのも良いと思います。

個別的な相談指導を行うに当たって、次の点に注意が必要です。
① 対象児童生徒の過大な重荷にならないようにすること。
② 対象児童生徒以外からのいじめのきっかけになったりしないように、対象児童生徒の周囲の実態を踏まえた指導を行うこと。
③ 指導者として、高い倫理観とスキルをもって指導を行うこと。
④ 指導上得られた個人情報の保護を徹底すること。
⑤ 指導者側のプライバシーや個人情報の提供についても、十分注意して指導を行うこと。
⑥ 保護者を始め関係者の理解を得て、密に連携を取りながら指導を進めること。
⑦ 成果にとらわれ、対象児童生徒に過度なプレッシャーをかけないこと。
⑧ 確実に行動変容を促すことができるよう計画的に指導すること。
⑨ 安易な計画での指導は、心身の発育に支障をきたす重大な事態になる可能性があることを認識すること。

── 過度なプレッシャーを与えず一人ひとりに合わせることが、食の指導をするうえでスタンダードになっていると伝わりますね。

 

山口さん:

その他、「こうすると食べられる」「こうすると食べられなくなる」という傾向をまとめた「我が子の食のトリセツ」を用意しておくのも、指導の助けになります。

 

アレルギーやビーガン、宗教的理由の食の制限などをはじめ、食にも多様性が認められる時代。子どもは今、まさに自分の食の個性を見つけ出そうとしているただ中にいるのです。大人は協力しあい、1人ひとりの個性を支援していきたいですよね。

 

PROFILE 

山口健太(やまぐち・けんた)

山口健太さん
『月刊給食指導研修資料(きゅうけん)』代表・編集長。一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会代表理事。「会食恐怖症」の当事者経験から、「食べない子」専門の食育カウンセラーに。「食べない子」に悩む保護者、学校・保育園の教員などにメッセージを伝えている。著書に『食べない子が変わる魔法の言葉』(辰巳出版)など。

取材・文/有馬ゆえ
参考/文部科学省|「食に関する指導の手引き(第二次改訂版)」第6章 個別的な相談指導の進め方https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/04/19/1293002_9_1.pdf