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コロナ禍で出産したママたちは、4人に1人のママが産後うつ病の可能性があるといわれます。この数字は、コロナ以前の2倍以上だそう。

 

実際に、コロナ禍で出産したママたちは、何をストレスに感じ、どんな心境で過ごしているのでしょうか。

 

コロナ禍の産後ママを支援する「産後ママプロジェクト」の協力のもと、産後に気持ちの落ち込みを感じた2人の女性に話を聞きつつ、産婦人科医で心療内科医の小野陽子さんにコロナ禍の産後うつ病について解説していただきました。

CASE1 私は子どもの命を守るために自粛しているのに…

Fさん 30代前半 兵庫県在住(2020年5月に第1子を出産)

2020年4月に緊急事態宣言が発令されて、妊娠中の生活がガラリと変わりました。

 

夫と参加していた妊婦健診も、2、3人で受けていた母親学級も1人で受けることに。

 

ちょうど産休に入ったタイミングでしたが、飲食店なども閉まっていましたし、未知のウイルスが怖くて引きこもっていました。のんびりカフェなどでひとり時間を過ごすことも、夫とあちこちに出かけてデートする時間を満喫することもできませんでした。

 

出産の立ち会いと産後の面会は1人に制限されました。さらに出産後、神奈川の実家に戻って家族や友達と過ごす計画がダメになったのは、ダメージが大きかったです。

 

産後は、とにかく人と会えないことがつらかったですね。人と関わることが好きなタイプなのもあって、ほとんどの時間が乳児とずっと二人きり、話し相手は夫のみという日々がきつかったです。

 

産後1年はイライラトゲトゲして周囲に当たることもあり、自分が自分でないような感覚がありました。

 

コロナを気にせず遊んでいる友人を見ると、「私は子どもの命を守るために我慢しているのに」とイライラ。

 

夫が、近距離の実家との行き来は頻繁にするのに、神奈川への移動を「危ない」というのも不満でした。年始に義実家に帰省中、「神奈川に帰らないぶん、もう1泊しよう」と言われたときは大ゲンカになりました。実家に帰りたくても帰れない私の気持ちも考えてよ、と思いましたね。

 

新しいつながりを見つけづらいことも、孤独感の一因だった気がします。

 

子育て支援センターで開催されていた月に1度の0歳児の集まりも、本来ならばママ友と出会える場ですよね。

 

でも、気の合いそうなママを見かけても、コロナのことがあるからランチや公園遊びには誘いづらい。だから連絡先を交換する気にもなれなくて。密は避けなきゃいけないから当然なんですが…。そもそもそういった交流の場に、人数制限があって参加すらできないこともありました。

 

そんななかで救われたのは、Twitterでのつながりです。「#2020may_baby」のように子どもの生年月のハッシュタグでつながって、ママ垢(ママアカウント)同士で交流していると、ささいな不安や悩みでも分かち合えて「ひとりじゃない」と感じられたんですよね。今でも、大事なつながりです。

 

5月から職場復帰しました。保育園生活がスタートすれば、同じ年齢のママとの交流も増えるかな…と期待していましたが、コロナ対策でほとんど機会はありません。しばらくは、リアルよりもSNSのつながりに頼る日々が続くのかもしれないですね。

CASE2 里帰り中も、新生児連れの移動も一人きり

Kさん 30代前半 東京都在住(2021年5月に第1子を出産)

東北の実家で里帰り出産したのですが、産休中から産後まで一人きりのことが多くて心細かったです。

 

そもそもコロナの影響で、里帰り出産をする産院から「感染のリスクを減らすため、従来よりも2週間早く妊婦健診を始め、さらにその2週間前から実家で自宅待機をしてほしい」と言われ、予定外に帰省の時期が4週早まったんです。

 

有給を使いながら2か月の産休は取れましたが、妊娠中に考えていたように友人に会ったり、夫と最後の2人きりの思い出を作ったりはできませんでした。帰省が早まりましたし、学生時代の友人には医療関係者が多く、とてもそんな雰囲気じゃなくて…。

 

地元に戻ってからは、ほぼ出歩かずに過ごしました。ただ、母は私が実家で同居することを職場に報告しなければならず、同居中は毎日、検温をして会社に報告しなければいけませんでした。もちろん地元の友人にも会えませんでした。

 

慣れない飛行機移動も、コロナで移動が制限されていたため、実母の付き添いも夫の出迎えもなく、私一人でがんばらなければいけなかった。入院中は、完全に面会禁止。ずっとひとりきりで孤独感が強かったですね。

 

産後1か月後に東京に戻りましたが、いつ泣くかわからない新生児を連れての飛行機移動もプレッシャーが強かったです。周りが空いている席に移動させてもらうなど、CAさんのあたたかい配慮に救われました。

 

今、ほとんどの時間を子どもと二人きりで過ごしていますが、自分一人で不安を抱えている時間が長くてつらいです。

 

寝不足が続いたときに子どもが泣き続けると、かわいく思えなかったり、育児放棄したくなったりすることがあります。

 

些細なことで涙が出るし、一度、子どもがおっぱいを吸わない、深夜なのに寝付きが悪い…などと不安になると、そこに固執してしまう。出産前はメンタル的に強い方だったので、正直、自分にこんな面があったとは、と驚いています。

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友達と対面で会ったり、新しくママ友を作ったりもできず、仕事のある夫や母には助けを求めにくい。行政からもらった冊子に自治体の育児支援なども載っていましたが、慣れない育児にヘトヘトで、新しいことに踏み出す気力が出ないんですよ。

 

唯一の救いは、ほぼ同時期に出産した友人です。困っていることを打ち明けて解決策を聞いたり、ただ雑談をしたりと、毎日LINEで話しています。職場復帰するまでは、彼女と支え合いながら、時間が解決して暮れるのを待つしかないのかな…。

産後ママに多いうつ傾向、パートナーに気づいてもらう工夫を

女性特有のメンタルヘルスの専門医として診察を行ってきた小野陽子さんは、Fさん、Kさんがともに抑うつ状態であった可能性はあると指摘しつつ、「産後にイライラしたり涙もろくなったり不安になったりするのは当然の反応です」と話します。

 

「そもそも産後1年以内は、ホルモンバランスの乱れに睡眠不足とストレスが重なって、抑うつ状態に陥りがち。コロナ禍は、社会的サポートが受けづらく、人間関係が緊張しがちで、社会的な孤立が深まりやすいといわれ、ママのメンタル面がより影響を受けやすいとわかっています」

 

落ち込みやすい、涙が止まらないといった不調のほか、眠れない、食べられない、食べすぎる、頭痛や腰痛がするといった不調も、心身が疲れているサイン。

 

まずは、子どもと離れて1人で休息できる時間を確保してほしいと小野さんは言います。

 

「不安や落ち込みがひどいなら、心療内科や産婦人科、内科などに相談したり、医師や助産師のオンライン相談などを活用しましょう。カウンセリングを受けたり、余裕をもって育児ができる環境を作るだけで、症状が劇的に改善するケースは多いんですよ。相談ができる人は、自分の心を守り、結果的にお子さんを守れる強い人なんです」

 

とはいえ、慌ただしい日々の中では自分の不調を相談しづらいもの。家族に「私がいつもよりイライラしていたら、『疲れてるみたいだから一緒に病院で相談してみない?』と言って」と頼んでおくのも重要です。ポイントは、声がけの方法やそのセリフについても指定しておくこと。

 

リアルで家族や友人などのサポートを受けにくい分、SNSなどで近い月齢の子どもを持つママとつながりをもっておくのも手です。

 

「特に一人目の場合は、同じような悩みを持っている人がいると思えると心強いはず。ただし、人と自分の子育てを比べるのは御法度です。人はそれぞれに個性があり、ママと子どもの組み合わせもひとつとして同じものはありませんから」

 

もっともよくないのは「ママはがんばるもの」「ママは子どもと離れないもの」と思いこむこと。我が子のためにも、一人しかいない自分を周囲と協力しながら大切に扱う習慣をつけていきましょう。

 

PROFILE 

小野陽子(おの・ようこ)さん

小野陽子さんプロフ
産婦人科専門医、女性心身医学認定医、日本女性医学学会専門医。2011年、岩手医科大学医学部卒業。聖路加国際病院女性総合診療部、東邦大学心療内科を経て、現在ハワイ在住。女性特有の心と体の専門医として、女性ホルモンの影響を受けやすい女性の相談を中心に行う。2021年より「産後ママSOSプロジェクト」に専門家・応援団メンバーとして参加している。Addots GINZA(アドッツギンザ)(https://addots.co.jp/)にて「女性の心と体のオンライン相談室」開設予定。

取材協力:産後ママSOSプロジェクト
2021年3月、慶應義塾大学SFC研究所 健康情報コンソーシアム(https://hip.sfc.keio.ac.jp)が中心となり、SNS上にあふれる産後ママのリアルな悩みやSOSを分析し、課題を見つける活動として始動。プロジェクトには、医療や保育分野の専門家のほか、産後のママも参加。3月5日を「産後ママスマイルデー」(https://www.value-press.com/pressrelease/265790)に制定、記念日登録した。

取材・文/有馬ゆえ ※プロフィール以外の画像はイメージです。