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コロナ禍で、ママたちの産後うつが急増しています。

 

筑波大学の松島みどり准教授らが行った調査によれば、産後1年未満のママのうち約24~27%に産後うつの可能性があるそう(2020年5~6月=約5500人を対象、10月=約3000人を対象)。これは、WHOの提示している平常時の数字(10~15%)のおよそ2倍です。

 

女性健康科学者の本田由佳さんが中心となって活動する「産後ママSOSプロジェクト」(慶應義塾大学SFC研究所 健康情報コンソーシアム)には、コロナ禍で妊娠、出産を経験したママたちからさまざまな声が集まっています。

 

コロナ禍、妊娠や出産をめぐる状況はどのように変化し、何がママたちの不安をかき立てているのでしょうか。

産後ママの7割が出産入院中の面会NG、両親学級中止を経験

── コロナ禍に出産したママたちは、産後うつになる数が倍増していると聞きます。実情について解説をお願いします。

 

本田さん:

筑波大学の松島みどり准教授らの調査は全国で行われましたが、10月の調査では、地域ごと、また初妊婦か経産婦かでは、大きな差が見られなかったそうです。

 

これは、コロナ禍の妊娠・出産が、どんなママにとっても不安が大きいことを示しています。

 

また、明らかに産後うつだと診断できなくても、だれしもが産後にうつ傾向に陥りやすい状況だともいえるでしょう。

 

── 何が産後のうつ状態の原因だと考えられているのでしょうか。

 

本田さん:

2020年5~6月の調査では、出産入院中の面会ができなくなった人が約73%、両親学級などが中止になった人が約67%、出産の立ち会いができなくなった人が約57%いることがわかっています。

 

妊娠・出産について十分な知識を得られないまま出産に挑み、またコロナ禍で孤独な状態で入院し、パートナーやご両親のサポートなしに過ごさなければならなかったママが、かなりの数いたということです。

 

また10月の調査では、うつの可能性がある産後1年未満のママのうち、コロナ禍で収入が減少した人が約38%、子どもを公共施設などへ連れていくことへの批判を経験した人が約21%いるということもわかっており、これらとうつ傾向との相関関係は優位である可能性が高いとしています。

三密回避の結果、コミュニケーション不足に陥るママたち

── 本田さんが中心となり活動している「産後ママSOSプロジェクト」には、コロナ禍で出産したママたちからどんな本音が寄せられていますか?

 

本田さん:

2021年5月に実施したアンケートによれば、産後ママたちの声は大きく2つにわけられます。

 

まず1つ目は、社会とのつながりを閉ざされ、不安や孤独感を感じているというもの。背景には、三密を回避する必要があるコロナ禍で、対面でのコミュニケーションが制限されたことがあります。

 

病院や自治体の両親学級、プレママ会などは、中止、縮小、オンライン化しています。すると、ママたちは出産や産後、地域の子育て支援などについて知識を深め、同じ時期にママ、パパになる人たちとつながるチャンスを失ってしまうのです。

 

また産後は、地域の子育て支援センターの利用が中断、縮小したり、地域の乳幼児の集まりが制限されたりしています。育児講座やママ、パパたちの集まり、子連れで参加する地域イベントなども中止、縮小していて、同じ境遇のママやパバ、地域のサポーターとつながる機会は激減していると言えます。

 

── 特に第一子の場合は、初めての子育てに不安があるものです。そのなかでだれを頼っていいかわからないというのはつらいですね。

 

本田さん:

里帰り出産もなかなかできず、両親、義両親のサポートも受けづらい。ママ友と情報交換したり、病院で気軽に相談したりするのも難しい。毎日の育児に手一杯で、相談窓口を探す余裕のない人も多いでしょう。

 

そんな状況は、ママが自分と子どもに適した情報に出会えないという課題を生んでいます。子育てに関わる人数が減ればママの負担は増えるでしょうし、気の許せる友人、同じ境遇のママとおしゃべりする機会が減ればストレスはたまっていく一方でしょう。

 

妊娠・出産時の健診の付き添い、立ち会い出産が制限されたことで、パパが親になる実感を得たり、母体の負担がどれほどなのかを知ったりする機会が少なくなってしまったと感じている人たちもいます。それが、産後の夫婦関係に響いて苦労したという声もありました。

コロナによる経済悪化で金銭的な不安も増幅

── 産後ママの本音の2つ目は何でしょう。

 

本田さん:

経済的な不安です。コロナ・ショックもありましたが、国内経済が先行き不安定で、倒産したり、人員整理をしたり、業績が伸び悩んだりする企業が増え、将来への不安が高まっています。

 

筑波大学の調査でもあったように、ボーナスが減ったりと収入減を経験した人もいるでしょう。「コロナの影響でパートナーが一時的に職をなくし、家計のやくりくりに苦労した」という声もありました。

 

── ただでさえ産育休中は給与が出ませんし、出産準備やおむつ、ミルクなど、何かとお金がかかる時期ですよね。

 

本田さん:

そうですね。例えば、妊婦健診や出産費用が保険適用ではないこと、出産費用の全国平均は約50万円にもかかわらず出産一時金が42万円であること、産休育休の給付金の支払いが産後3~4か月後であることなどは、今までも問題視されることのあったトピックです。

 

将来への不安が、もともと金銭的余裕がない時期特有の不安を増幅させているのだと思います。とくに貯蓄が少ない世代のママ、パパにとっては厳しいでしょうね。なかには、「オムツやミルクを現物支給でもいいのでしてほしい」という差し迫った意見もありました。

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── コロナ禍では、保育所を探すのも神経を使うのではないかと思います。

 

本田さん:

待機児童の解消に取り組んでいる自治体も多いですが、保育所に入れるという保証はありません。都市部では、認可の保育所に入るために認可外の保育所で点数を稼ぐことがよくありますが、認可外は費用がかかります。そもそも、情報に乏しい状況で信頼できそうな預け先を探すのもハードルが高いでしょう。

 

認可の保育所に入れたとしても0~2歳児は保育料がかかるため、それを無償化してほしいという声もありました。時短勤務の場合は給与が通常の7~8割になるので、より家計への影響を感じるのでしょう。

 

新型コロナウイルス感染症の流行がいつまで続くかわからない今、何の手立てをしないままでは、子育て世代の不安は解消しないでしょう。

 

ママたちの産後うつを防ぐためにも、未来を作る子どもたちのすこやかな成長のためにも、「産後ママSOSプロジェクト」ではママたちのリアルな声を集め、見える化・分析することで課題を抽出し、社会全体でできる支援体制や産後ママ・パパ教育システムを提案していきたいと思います。

 

PROFILE 

本田由佳(ほんだ・ゆか)さん

本田由佳_プロフィール写真
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任准教授(非常勤)。女性健康科学者。健康計測器メーカー在職中、東京大学大学院医学系研究科母性看護学・助産学分野客員研究員として、妊娠・出産について深く研究。産科婦人科舘出張 佐藤病院の研究コーディネーターも務める。産後ママSOSプロジェクト発起人・代表。

取材協力:産後ママSOSプロジェクト
2021年3月、慶應義塾大学SFC研究所 健康情報コンソーシアム(https://hip.sfc.keio.ac.jp)が中心となり、SNS上にあふれる産後ママのリアルな悩みやSOSを分析し、課題を見つける活動として始動。プロジェクトには、医療や保育分野の専門家のほか、産後のママも参加。3月5日を「産後ママスマイルデー」(https://www.value-press.com/pressrelease/265790)に制定、記念日登録した。

 

取材・文/有馬ゆえ ※プロフィール以外の画像はイメージです。

参照/株式会社カラダノート 新型コロナウイルス禍における心身の健康の変化(2020年7月6日発表) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000075.000031718.html
株式会社カラダノート 新型コロナウイルス禍における心身の健康の変化(2020年12月17日発表)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000089.000031718.html
「コロナ禍で出産したママたちが政府に伝えたいこと 独自アンケート結果」(慶應義塾大学SFC研究所 健康情報コンソーシアム 産後ママSOSプロジェクト、データ提供・調査協力:THANQ/代表・産後ママメンバー宇田愛)