夫婦の関係、ケンカさえしなければ「うまくいっている」と思いがち。でも、実際にお互いを理解しあっているかというと、そうでもないことも。
「よくしゃべっているから大丈夫」と思っていても、妻が一方的に話しているだけで、夫は「めんどうだから相づちを打っているだけ」というケースもあります。夫婦の信頼関係って何なんでしょう。
ずっと「うちは仲がいい」と思ってきたけれど
「夫とは結婚して以来、大きなケンカをしたことがないんです。子どもの学校行事や親戚づきあいなども、『こうするつもりだけどいいよね』と言うと『うん』という返事が返ってくる。信頼しているからこそ、家庭内のほとんどのことは私に任せてくれていると思っていました」
そう話すのは、3歳年上の男性と結婚して15年たつタカミさん(43歳・仮名=以下同)です。13歳と10歳の一男一女を育てながら、パートで仕事もしています。
「忙しいけど、うちの夫はあまり手がかからないので助かっています。自分のことは自分でやるタイプ。自分の洗濯は自分でやる。書斎と称した小部屋があるんですが、そこの掃除も自分で。
私と子どもたちはだいたい夜7時には食事を始めます。夫が夕飯に間に合わずに帰宅したときは、自分で温め直して食べています。時間があれば、私は夫が食べている目の前に座って会話を交わすこともあります」
ごく普通の、「というよりむしろ仲のいい」夫婦だとタカミさんは思ってきました。ただ、それに疑問がわいたのが3年前、夫の母が病気で入院したときのことです。
医師との相談日も「会議とかぶった…」
「夫には姉がいますが、結婚して遠方に住んでいます。義父は義母の病気で動揺していて、現状を把握したり治療法を医師と相談するのが困難な状況。息子でもある夫の出番のはずなのに、夫はのらりくらりとしているだけ。
あげく『オレの代わりに話してきてくれない?』と言い出して。『あなたの親でしょう?あなたが行かなくてどうするの』と言ったら、『医師から指定された日時が会議とかぶって…』と妙な言い訳をする始末で」
結局、タカミさんが義父と一緒に医師と話すことに。義母はがんだったので治療法の選択肢もいくつかあったといいます。
「最終的にどうするかは、夫と義父と義母本人に任せたほうがいいと報告すると、『オヤジとおふくろが決めればいいよ』って。“とにかく電話して”とだけは言ったんですが…」
この人はもしかしたら、自分のこと以外は「どうでもいい」と思っているのかもしれないとタカミさんに疑念がわきました。
心の距離を縮めたのは「どう思う?」のひと言
そのとき、タカミさんは夫と暮らした10数年を振り返ってみました。
子どもが生まれてからはルーティンワークが増えて、夫とゆっくり話す時間がとれなかったこと、食事をしている夫とはよく話していると思い込んでいたけれど、考えてみたら、いつもタカミさんが一方的にしゃべっているだけ。夫は相づちを打つばかりだったことなどに気づきました。
「何かテーマがあって話しているわけではありませんから、私だけがしゃべって満足していたんですよね。夫婦仲はいいほうだと思っていたのは、私が何を言っても夫が言い返してこないから。
だけど夫の本心はわからない。表面的に諍いがなかっただけで、実はお互いに何もわかっていないんじゃないか、この10数年、何を見てきたのかとちょっとショックを受けました」
義母の病気が、はからずも夫との関係を見直すきっかけに。それ以来、タカミさんはあえて夫に「こういうことがあったけど、あなたはどう思う?」と聞くようにしました。
一方的な会話から、会話のキャッチボールを心がけたのです。最初、夫はぎこちなく「別に…」とボールを返してこなかったようですが、辛抱強く続けていくうちに、少しずつ夫の言葉が増えてきたといいます。
「大病をした義母も今はすっかり元気になりました。あのとき夫の冷たい態度に驚きましたが、今になって聞いてみたら『おふくろには自分の人生を決める権利があるし、そこに関与できるのは配偶者であるオヤジだけだと思ったんだ』と。“それならそうと言ってくれればよかったのに”と思いました。
15年たって、やっと夫という人間の一端が見えてきた感じがします。安易に、ケンカしないから仲良し、なんて思わないほうがいいですね」
あのまま気づかずにいたら、夫との心の距離は何かあるたびに離れていったのではないかとタカミさんは言います。夫婦の心の温度差、一度、見つめ直す必要があるのかもしれません。