「吃音の当事者は、どうしてもそれを隠したくて、最悪、死ぬことまで考えてしまうんです」。

 

自身も吃音を持つ医師の菊池良和先生はそう言葉を絞り出します。

 

吃音者にしかわからない心情。ふつうにしゃべれる人からしたら、“何のことはない”と思うかもしれません。でも彼らは、周囲が思う以上に苦しんでいます。ほんの少し話がスムーズでない吃音者の胸の内に、迫りたいと思います。

「サ行が言えない」「言葉が出ない」…

—— まずは、そもそも吃音とはどのようなものなのか、教えていただけますか?

 

菊池先生:

吃音の主な症状としては、「わ、わ、わ、わたしは」と同じ言葉を連続で発してしまう“連発”、「わーたしは」と一つの言葉を引き伸ばしてしまう“伸発”、「………わたしは」と言葉が詰まってしまう“難発”の3タイプがあります。

 

このような症状が出る言葉は人それぞれ。サ行が苦手な人もいれば、カ行が苦手な人もいます。また、シーンや話す相手など、吃音の条件も、その人によります。

 

吃音は、2~5歳の間に発症することが多いと言われています。子どもの1歳半や3歳の健診で言葉に問題がないと言われたにもかかわらず、そのあとで吃音が始まることもあるのです。

どもることを隠したくて劣等感を覚えていた

—— 小さいうちから吃音と付き合い続けている人が多いのですね。やはり、成長するうちに、気になってしまうのでしょうか。そのような心理的な部分について、お聞かせください。

 

菊池先生:

そうですね。私自身もどもることで、小学生のときから笑われたり怒られたりして、吃音は“悪いこと、恥ずかしいこと”と、ネガティブに考えるようになりました。

 

吃音のある人は、経験を重ねるにつれて、自分がどの言葉でどもるかが分かるようになり、話す前に「予期不安」を持つようになります。

 

話す前から、「どもったらイヤだ。どもったらどうしよう」と心配して、その結果どもってしまう。そして、「自分は本当にダメだ」と落ち込んで劣等感を覚えるのです。

 

そんな苦しみから逃れようと、吃音を“隠す努力”をするようになります。例えば、発しやすい言葉に置き換えたり、話すのをやめたり。会話が起こる場面を避けることも。

 

しかし、私は吃音から“逃げることはいちばん良くない”と思っています。吃音を隠す努力は吃音を目立たなくしますが、会話の目的が“どもらないように話す”ことになり、「伝えたい内容を伝える」会話本来の目的を失ってしまうのです。

 

また、私自身、話す場面を避けて吃音を隠し続けていた小学校高学年のとき、究極の回避として「死」が頭をよぎるようになりました。

 

吃音のことを誰にも相談できない人も多いでしょう。そのような人は、自分の吃音をずっと否定し続けてしまいます。そして、どもることに怯えて予期不安が起こり、隠す努力をします。どもると、気分は落ち込んで劣等感を感じて、“吃音=悪いこと”と考える、悪循環にはまってしまいます。

孤独感から「社交不安症」になる人もいる

—— 吃音を隠す努力について、初めて聞きました。実は私たちが気づいていないだけで、吃音で悩んでいる方がいるということですよね。周囲に相談できる人がいないお話がありましたが、吃音のある人はつねに孤独を抱えているのでしょうか。

 

菊池先生:

吃音のある人は孤独を感じていることが多いですね。吃音のせいで会話の輪を避ける人もいます。

 

例えば、新しい集まりに誘われたときに、「自己紹介でどもったらどうしよう」とためらい、人間関係を広げられません。また、会社で上司に報告するケースで、「うまく言えなかったらどうしよう」と迷い、報告を先延ばしにして周囲から不誠実な人と思われ、孤立する人もいます。

 

本当は他人に人一倍、気をつかっている。でも、それが裏目に出て、どんどん自信を失ってしまうのです。

 

—— それは、他人が簡単に想像できないような、とても苦しい状況ですね。 それによって自分自身に対してどんな悪い影響を及ぼしてしまうのでしょうか。

 

菊池先生:

人と関わることを避けるようになると、日常生活に支障が出るほど人前で恐怖や不安を強く感じる心の病気「社交不安症」を抱えてしまうことがあります。特に、10代や20代の人は発症する傾向が強いです。

電話が苦手なら、他の人が変わってあげればいいだけ

—— 吃音から心の病につながることがあるのですね。吃音のある人が追い詰められないために、周囲ができることはありますか?

 

菊池先生:

理解して、肯定できる姿勢を持つといいと思います。吃音のある人の多くは電話が苦手ですが、どもりながらでも自分の伝えたいことを伝えるようにすることはもっとも大切なこと。

 

だから、「なんで電話ができないの?」と疑問に思わずに、「吃音のある人は電話が苦手。できないときは、助けよう」と考えるようにすれば、当事者の気持ちも軽くなるでしょう。

 

その人の吃音を受け入れることも、大きな意味があります。うまく話せないときに、「ゆっくり話して」「落ち着いて」「深呼吸して」という声掛けをしてしまうと、かえってプレッシャーに。寛容さを持って、最後まで話を聞いてください。 吃音によってネガティブな気持ちになる悪循環を断ち切るには、吃音がある本人の存在を肯定することが必要です。

 

 

家族や職場の人で吃音に悩む人がいたら、接し方に迷うこともあるでしょう。まずは、吃音を理解するところから始めてみるといいかもしれません。その人の吃音を否定したり「なぜできないの?」などと疑問に持ったりせず、ありのままを受け入れることが大切です。

 

PROFILE 菊池良和さん

吃音症を専門とする医師。九州大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究院臨床神経生理学教室で博士号を取得。現在は、同大学病院耳鼻咽喉科・頭蓋部外科において、吃音外来を行っている。

取材・文/廣瀬茉理 ※プロフィール以外の画像はイメージです。