自分の吃音のせいで、周囲に誤解を招いてしまうかもしれないと不安に思う当事者。自分の周囲に吃音者がいたらどうすればいいか戸惑う人。吃音のある人やその周囲は、お互いがわからなければ、困惑する場面も多いはず。

 

今回は、吃音の当事者としてSNSで同じ境遇の人にメッセージを発信する女優・笹丘明里さんに、自身の吃音との向き合い方についてお話しいただきました。

両親のおおらかさでネガティブにはならなかった

—— まずは、幼少期についてお伺いしたいのですが、ご自身の吃音に気づき始めたときのことは覚えていらっしゃいますか。

 

笹丘さん:

はっきりと吃音を意識したのは、小学校に上がったときですね。国語の音読の時間、丸読みで自分の番が来るのが怖かったのを覚えています。冒頭で出にくい言葉があると、“うまく言えなかったらどうしよう”と不安を感じました。

 

—— 成長するにつれて、気になるようになったのですね。それでは、吃音に気づいてから、もどかしくなったり、悩んだりした経験をお話しいただけますか。

 

笹丘さん:

音読で言葉が出ないと、同級生から「こんな漢字も読めないの?」と言われたり、先生から「どうしたの?」と心配されたりして、困ることがありました。

 

そこで両親に相談すると、連絡帳を通じて先生に吃音のことを伝えてくれました。私には「言いにくい行があって、それがどの行か」を説明してくれたんです。おかげで、先生に理解してもらえました。

 

両親は昔から私の吃音に気づいていましたが、常に冷静でした。だから、私もあまり深刻にならなかったのでしょう。

ずっとじゃなくて、吃音にもオンとオフがある

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—— ご両親が悲観せず、落ち着いて接したことが笹丘さんを支えたんですね。大人になってからは、吃音とどのように付き合うようになったのでしょうか。

 

笹丘さん:

吃音のタイプは人それぞれ。だから、同じように考えることは難しいと思いますが、私は吃音とうまく付き合う道を選んだことで気持ちがラクになりました。

 

私にとって、吃音は誰かに心を開いたときに出ちゃうものだと受け止めています。夫の前で吃音が出てしまったとき、「しょうがないよね、家族だもんね」と言われて、温かい気持ちになりました。

 

仕事のように人前で話すときはスイッチがオンになり吃音が出なくなりますが、家族や友達の前ではスイッチがオフになり、つい吃音が出てしまいますね。

 

—— スイッチが切り替わると吃音が出なくなる点はすごく気になりました。女優さんは人前で話すことが多いと思いますが、どんな心構えで仕事をされていますか。

 

笹丘さん:

吃音をコントロールできるのは、子どもの頃から人前でどもらずに話せた体験が積み重なり、「発表の場では、自分は絶対にうまく話すことができる」と、自信を持っているからでしょう。

 

ただ、例外もあります。それは、オーディション。女優としてオーディションを受けるときは、リラックスして本来の実力を出さなければなりません。すると、リラックスと緊張のバランスが崩れてどもってしまうことも。

 

そんなときは、落ち着いてからやり直します。過ぎたことは仕方ないと割りきって、転んでもすぐに立ち上がることを大切にしています。

 

それに、オーディションは落ちることが当たり前。だから、「吃音が原因で落ちているわけではない」と思っています。演技力や役との相性など、ほかの原因があるはず。それならば、女優として今の自分にたりないものを磨くことで評価されようと考えて、毎回チャレンジしています。

次に出てくる言葉をのんびり待ってほしい

—— 笹丘さんが抱える内面がよくわかりました。それでは、周囲との関わり方についてお伺いしたいと思います。コミュニケーションにおけるストレスや周囲にしてもらうと嬉しいことを教えていただけますか。

 

笹丘さん:

言葉を遮らずにじっくり最後まで話を聞いてもらえたら、とても嬉しいですね。会話の途中で、私の言葉が長い間止まっているときは、出にくい言葉を言い換えるために時間を費やしているからなんです。

 

例えば、「携帯取って」と言いたいけど最初の「け」が言えないとき、「携帯」という単語をどう言い換えたらいいだろうかと、一生懸命考えています。同時に、うまく話せなくて「その場からいなくなりたい」「恥ずかしい」という気持ちもあります。

 

—— 最後に、吃音を抱えている方やその周囲の方に向けて、メッセージをお願いします。

 

笹丘さん:

吃音に悩んでいる人がいるとしたら、あなたは一人ではないと伝えたいです。実は私のカミングアウトのきっかけは、吃音が原因による自殺のニュース。「一人で悩まないでほしい」と思い、2019年にブログで自身の吃音について語りました。私の活動で多くの方に吃音のことを知ってもらい、そんな仲間を助けたいと考えています。

 

一方、周りに吃音を抱えている人がいる方は、それを打ち明けられない人がいることも知っていただけると嬉しいですね。

 

私は今まで「吃音は、言葉が出るのがゆっくりなだけ。個性の一つ」と考えていたため、吃音が病気や障害として扱われていると知ったとき違和感を覚えました。吃音を持つ人は会話に時間がかかりますが、自分よりも“のんびりと時間が流れているだけ”と思ってもらえたら。

 

また、吃音のお子さんに悩まれている親御さんも多いはず。まずは、本人の気持ちを尊重してください。本人がそんなに悩んでいないなら、ネガティブに考えなくても大丈夫。お子さんにとって、親が悩むことは、自分が吃音で苦しむことより辛いからです。

 

 

今回の取材で分かったことは、その人の吃音に気づいても、平常心を持って接することの大切さ。特に、子育てにおいては「吃音があってもいいじゃないか」と大きく構えることが、その子の明るい人生を作るはずです。

 

PROFILE  笹丘明里さん

1990年東京生まれ。女優。1999年に舞台『アニー』に出演。以降、数々の舞台や映画、ドラマなどに出演。ブログやYouTubeチャンネルで自身が吃音者であることをカミングアウトし、吃音に関する経験談を発信している。 YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCil8uS7aZApTrOi4aktxDiA

取材・文/廣瀬茉理