イライラして子どもを愛せない女性

 同じような環境で育てられても兄弟姉妹、子どもの性格はまったく違うものです。逆に親からみれば、「この子とは気が合うけど、この子とは合わない」ケースもあり得ます。実際に自分が子どもを育てる中で、「愛せない」と苦しむ女性もいるようです。 

 

イライラして息子の食事を捨てることも

「上の子を愛せないんです。いつからかわからないけど、たぶん、下の子ができてから。もしかしたら、最初からこの子とはうまくやっていけないという気持ちもあったのかもしれません。母親失格だと思っています」

 

気落ちした表情でそう話すのは、エリさん(39歳・仮名=以下同)です。10年前に2歳年上の男性と結婚。現在、8歳と4歳の男の子がいます。

 

「最初の子だからと長男のときは、右往左往しながら育てたんですよね。当時、夫は部署異動したばかりで忙しくて、私は私で育児本通りにならないことに焦ってばかりで。近所の年配の女性にだいぶ助けてもらいましたが、夜泣きのひどい子で一緒に泣きながら過ごしていた記憶があります」

 

それでもハイハイしたとか立ったとか、楽しいこともたくさんありました。週末は夫に息子を任せて、ほんの1〜2時間でもひとりの時間を過ごしてリフレッシュしたそうです。

 

「ただ、その後、いわゆる魔の2歳児の頃が本当につらかった。うちの子が特に自己主張が強かったかどうかわかりませんが、私が参ってしまいました。イヤと叫んだあと、私をじっと見たりする。試しているんでしょうね。余裕がなかった私は、いいかげんにしなさいと叫ぶしかなかった。理屈ではわかっているんですよ、そういう時期は脳が成長しているんだって。でも耐えられなかった」

 

ご飯を食べるのを嫌がったときは腹が立って、息子の食事を捨ててしまったこともあるそう。そして、そんな自分に自己嫌悪を覚えて落ち込む日々。

 

3歳頃になると落ち着いてくるといいますが、なかなかそうはいかなかったですね。そのうち私がまた妊娠して。つわりが本当にひどかったので、その頃の長男の記憶はあまりないんですよ」

次男が生まれて「この子は愛せる」

次男が生まれたとき、エリさんは長男のときとは違う感慨があったそうです。言ってはいけないことなんでしょうけど、と前置きして、「この子は愛せると思えたんです」と小声になりました。それはつまり、長男を愛せないと自分で認めることにつながりました。

 

それからは次男優先の日々が始まりました。長男はバスで幼稚園に通っていましたが、どうしても気が乗らないと、近所のママに長男を家まで送ってもらったりもしました。そんなとき長男は帰宅後、不機嫌になります。

 

「それが妙に媚びているように見えて不快に思えて。でも、そんなふうに感じてはいけないとも思っていました。自分が母親として失格だと思えば思うほど、長男に当たってしまう。夫が気づいて、『(長男に)厳しすぎるんじゃないか』と言われたこともあります。でも私は、長男を愛せないとは誰にも言えなかったし、今も夫に言えずにいます」

 

猫かわいがりして育てた次男は、今もわがままいっぱい。でもそれさえもかわいいと思うのです。夫が次男を叱ると「きつい言葉で言わないで」と、かばってしまいます。

 

「長男は忘れ物が多いんですよ。先日も持っていくはずの笛を忘れて先生に怒られたらしく、帰宅後に私も叱りました。すると『友だちはお母さんが持っていくものを見てくれるんだよ』と言うので、『それはあなたのためにならない』と説教してしまい

 

夫からも『チェックくらいしてやれよ』といわれるんですが。でもあとから考えると、もしかしたら長男が忘れ物をするのは、私にかまってほしいからかもしれないと反省しました」

夫に本当のことを話すべきか悩む日々

それでも長男に時間と愛情をつぎ込むことがなかなかできないと言います。幼稚園に通い始めた次男には、いくらでも手間をかけられるのに。

 

「最近は、夫が長男と過ごす時間が増えています。『もっと相手してほしいから、いろんなことをするんだよ』と夫が言い始めて。私の気持ちが長男にいっていないとわかるんでしょうね。本当にどうしてなのかあの子の目を見ると、私が試されている気持ちになる。遠ざけたい一心で、冷たくしてしまう」

 

カウンセリングを受けたこともありますが、解決には至りませんでした。夫にすべてを話したいと思いつつ、批判されるのが怖いそう。話すタイミングを見つけなくては、とエリさんはつらそうな表情でつぶやきました。

 

「どこかでいったん立ち止まって考えたい。でも子どもは日々成長していく。立ち止まってもいられないんです」

イライラして子どもを愛せない女性
次男だけ愛を注いでしまい悩む女性
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里 ※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。