夫婦で悩む様子

男性不妊で夫が手術、8回にわたる人工授精、そして流産、体外受精と、不妊治療の様々なステップを経験し、2児のママとなった産婦人科医・遠見才希子さん。

 

前回

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は、ステップアップしていく不妊治療の経緯、そしてネガティブな感情に苦しめられた過去について話してくださいました。

 

今回は、2人目の不妊治療の難しさと不妊治療中の夫婦のコミュニケーションについて。心の葛藤から夫を責めてしまったという遠見さんが今、治療中の人に伝えたい思いとは…。

1人目はすんなり妊娠しても…2人目不妊の理由は複雑

── 遠見さんは、妊活を始めてから約1年で不妊治療に踏みきったそうですね。「もしかして不妊かも…」と悩む女性たちからは「始めどきが難しい」という声もよく聞きます。どれくらいを目安に受診するのがよいのでしょうか?

 

遠見さん:

不妊症の定義は、“妊娠を望む男女が避妊をしないで性交をしているにも関わらず、一定期間(一般的に1年)妊娠しないもの”とされています。ですから、通常は自然妊娠を試みて1年以上妊娠の兆候がない場合、受診を考えてもいい時期だといえるでしょう。

 

ですが、年齢や婦人科系の疾患の有無によっても妊娠のしやすさは異なるので、定期的に婦人科検診を受けたり、日頃からかかりつけ婦人科医をもっておくこともいいと思います。

 

── 読者には2人目不妊で悩む人もいます。遠見さんの場合は、2人目のときも最初から不妊治療のクリニックで人工授精をされたのでしょうか?

 

遠見さん:

そうですね。2人目を考えて受診した際に人工授精から始めて、結果的に2回目で妊娠しました。

 

── 1人目に比べると、治療がスムーズだったのですね。1人目と2人目では、妊娠しやすさに違いはあるのですか?

 

遠見さん:

一概には言えないですね。スムーズに妊娠する人もいれば、なかなか2人目の妊娠に至らない人もいます。ですから、2人目の不妊治療がうまくいかない場合は、1人目とは違う要因が隠れている可能性も考えます。加齢の問題もありますが、子宮筋腫や子宮内膜症の進行などが妊娠を妨げている場合もあるんです。

「あなたはラクでいいよね」に「ごめん」と謝る夫…思わずハッとした

── 私の周りにも同じ思いをした人がいます。1人目は自然妊娠したものの、2人目の不妊治療中に筋腫が判明。“このままでは妊娠できない”と言われ手術で切除したけれど、結局妊娠には至らず…。自分の何がいけなかったのかと落ち込んだそうです。

 

そうしたときは特に、夫婦のコミュニケーションが大事だと思いますが、遠見さんの場合は不妊治療中にパートナーと気持ちがすれ違ったことはありましたか?

 

遠見さん:

気持ちがすれ違うというより、私がつらくなって、夫に当たってしまうことが多くて…。「なんで私だけ何度も検査して、つらい思いをしなくちゃいけないの?」と、ときどきやりきれない気持ちになって。「あなたはラクでいいよね」と言ってしまったり、「また今月も妊娠しなかった」と責めてしまったり。

 

ある日、そんな私に夫が「ごめんね…」って言ったんです。それを聞いた瞬間、すごく悲しくなって…。「謝ってほしいわけではなくて、先の見えないこの不安をただ分かち合ってほしいだけだったんだ」と気づかされました。

 

仮にどちらかの身体に不妊の原因にあったとしても、誰の責任とかではなく、不妊は夫婦で取り組む問題なんですよね。

話し合っている夫婦

── でも、そうした修羅場を乗り越えると、夫婦の絆は強くなりますよね。そこでお互いを労わる気持ちを持てなくなると、違う方向に進んでしまう場合も…。

 

遠見さん:

もしもそのときに夫が「ごめんね」以外の言葉を私にかけていたとしたら、もっと怒りの感情が沸いていたかもしれません。そう考えると、この出来事は私たち夫婦にとっては必要なプロセスだったのかもしれないなと思います。

 

パートナーとぶつかることを避けたいあまり、本音が言えずに孤立してしまう人もいると思います。でも本当は、一番身近なパートナーと話し合えるのがいいですよね。もちろんパートナーに言いづらいこともありますから、ネットのコミュニティなど、思いを吐き出せる場がいろいろあっても良いのかもしれません。

「1人いるんだから」「子どもがかわいそう」産みたい気持ちをジャッジしないで

── 1人目と2人目の不妊では、周りの対応も少し違う気がします。「1人いるんだから、もういいじゃない」とか「高齢出産は子どもがかわいそう」とか…当事者からすれば心ない言葉に傷つくこともありそうです。

 

遠見さん:

本人の“産みたい”という気持ちが尊重されるのは、とても大事なこと。周囲の人は、その気持ちをジャッジせずに、まずは受け止めることが必要ではないでしょうか。

 

とはいえ、医学的にみると、高齢になってくると母体の合併症なども増えるので注意すべき要素が多くなることは確か。男性も40歳を過ぎると、妊娠しやすさが低下すると言われています。

 

もちろん“産む・産まない”の選択が尊重されることが前提ですが、“医学的な情報と適切なサポートが提供された上で、自分で選択できる”ということが、これからの時代にはさらに大切になってくるのではないでしょうか。

 

PROFILE 遠見才希子さん

遠見先生プロフィール画像
1984年神奈川県生まれ。産婦人科医。2005年、大学時代から“えんみちゃん”のニックネームで、全国900か所以上の中学校や高校で性教育の講演活動を行う。現在、筑波大学大学院社会精神保健学分野博士課程在籍。著書に「ひとりじゃない 自分の心と体を大切にするって?」、「だいじ だいじ どーこだ? はじめてのからだと性の絵本」。

 取材・文/西尾英子  ※プロフィール以外の画像はイメージです。