免疫にいいと聞いた食べ物を食べたがる夫

長く続くコロナ禍で、うつ状態になる人が増えているといわれています。行動制限され、自由に飲食もできない日常はたしかに息苦しいですよね。そんな中、「なんだか夫の様子がおかしい」と話す女性たちがいます。

食事で納豆や味噌汁を欠かさなくなった夫

「去年の春、コロナウイルスで大騒ぎになった頃、夫は手洗いやうがいにもそれほど関心がなく、子どもから『パパ、手を洗って』と言われて、やっと洗面所へ行くような感じだったんです」

 

そう話してくれたのは、ジュンコさん(42歳・仮名=以下同)です。2歳年上の男性と30歳のときに結婚、今は10歳と7歳の子がいます。

 

「夫の会社は在宅、出社と勤務形態がいろいろ変わり、今年からはほぼ毎日、出社となりました。その頃から夫の様子がおかしいんです。隣の部署の人たちが飲み会をして数人が感染したのがきっかけ。以来、やたらと怖がるようになりました」

 

週刊誌やネット情報で得た知識を信じ込み、ジュンコさんに毎日、こうして、ああしてと頼んでくるそう。

 

「とにかく免疫力を高めるために、納豆、ねぎ、にんにくや味噌などの食品を三食必ずとりたい、と。ランチもお弁当にしたいと言われたので、『自分で作れば?』と言っておきました。私だってパートで週5日、働いていますからね、そこまではできません。夫は威張るタイプではないのでシュンとして『わかった』って。でも朝晩、納豆と味噌汁は欠かさい。以前はトーストだけでOKだったのに

玄関を開けるや、その場で服を脱いで…

さらにすごいのは、帰宅時の夫の行動です。玄関を開けるとその場で着ていたものを脱ぎ、洋服はすべてビニール袋に詰めてきちんと結びます。パンツ一丁でバッグや靴を消毒。それからバスルームへ行き、シャワーを浴びてようやくリビングに…。

 

「脱いだものはすぐ洗濯機へ。そのために洗えるスーツを何着か買ったみたい。私は玄関に毎日、ビニール袋を置いておくだけだから、手間はかかりません。衛生的になってくれるのは悪いことではないですし。でも、帰宅時の夫の様子を見ていると大変だなぁと思うし、ちょっと笑っちゃうほどですね(笑)」

 

最近の夫は不織布マスクの上に布マスクをつけて二重にし、さらに上の布マスクは1日に数回、取り替えているそうです。食卓での夫の話題はほぼすべてコロナ関係。

 

「ネットでも、コロナ 感染で検索をかけて、自宅や会社周辺のお店などでかかった人がいるとか、そういう話ばかりです。病んでしまうのではないかと心配しましたが、そんなときの夫は妙に生き生きしていて、今はそれが夫の生きがいだと思って放っておきます(苦笑)」

“15分置き”にスマホを消毒する夫も

無神経すぎるのも困りますが、過敏すぎるのも困るのが妻たちの本音のよう。夫が消毒液で15分置きくらいに家族中のスマホを拭いたり、リビングのテーブルやクッションに何度も吹きかけたりする、と話すのはカオルさん(45歳)です。

 

「うちの夫は今や、消毒魔ですよ。しかもアルコール濃度の高い消毒液でなければダメだと言って、けっこう高いのを大量に買ってくるんです。たいして広くもないマンションなのに、10カ所以上、消毒液が置いてあります」

 

結婚して17年、夫がこれほどまでに神経質だとは思わなかったそうです。「消毒液で体を悪くしそうだと、中高生の子どもたちからは不評ですね(苦笑)」と話します。

 

「コロナウイルスの何かが彼の心に刺さったんでしょうね。“”何でだろう”と考えていたんですが、先日、義母と電話で話す機会があって。夫には6歳年の離れた妹がいるんですが、生後、1年足らずで亡くなった年子の弟もいた。そこまでは私も聞いています。ただ、亡くなった原因が、インフルエンザだったそうです」

 

夫自身は弟の存在を覚えてなくて死因も知らなかったのに、昨年、ウイルスがらみの雑談の中で義母が夫にそれを話したことで、ウイルスに対して過剰になったそうです。そのことを夫がジュンコさんに言わなかったのは、それほど衝撃が大きかったからではないか、と彼女は考えています。

 

「理由がわかって夫に同情する気持ちがあるとはいえ、対策以上に心配や不安が大きくなると、日常生活に差し支えるとも思います。お義母さんに聞いたんだけどと言って、夫と話したほうがいいなとは感じています。でも、夫の心の奥にまでズカズカ入り込むことにためらいも感じ、タイミングがつかめなくて

 

とはいえ、恋愛時代を含めれば20年も近くにいる関係。“夫がどう思っているのか、何を考えているのか、早めに問いかけてみたほうがいいですよね”、とカオルさんは自分に言い聞かせるようにつぶやきました。

 

執拗なまでに除菌命の夫
免疫にいいと聞いた食べ物を食べたがる夫
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里 ※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。