女の子と算数

「算数の得意・不得意は性別で決まるものではありません」

 

『10億件の学習データが教える 理系が得意な子の育て方』著者であり、算数タブレット教材「RISU(リス)」を開発したRISU Japan株式会社代表・今木智隆さんはそう言いきります。

 

一方で、「性別によって得意な単元が異なる傾向がある」という事実もデータから浮かび上がっています。そこにはどんな要因が考えられるのでしょうか。そして、性別に関係なく、「算数が得意な子」にするために親ができる行動、逆に苦手意識を増長させてしまう声かけとは?

 

前回

(※)

に続き、今木さんにお話を伺いました。

図形が得意な男子が多いのはなぜ? 

── 計算力は男女差がないものの、「図形問題は男子のほうが女子よりもスコアが高い」という結果が出ていると伺いました。どんな要因があるのでしょうか。

 

今木さん:

後天的な要因という意味では、幼少期に体験したおもちゃや遊びの影響は無関係ではないと思います。

 

例えば、プラモデルって完全に立体図形ですよね。でも女の子向けのプラモデルはほとんど見かけません。あるのは圧倒的に男の子向けのものばかり。

 

ブロックに関しても同じです。最近は女の子向けのシリーズも出ていますが、どちらかといえば男の子の保護者が買い与えているケースのほうが多いですよね。ブロックや他の知育玩具も同様で、男の子向けのほうが算数、とくに図形に繋がるおもちゃが圧倒的に多いんです。

 

幼少期に多く触れるものの影響って馬鹿にできないんですよ。男の子にはブロック を、女の子には人形を与えて、それぞれに遊ばせたとします。その時間が何年もかけて何十時間と積み重なっていけば、算数の得意・不得意の方向性を決める一因になることは十分にありえるでしょう。

 

逆に、カラフルな玩具やかわいい文房具に触れる機会は、圧倒的に女の子のほうが多いですよね。女の子のほうがきれいな字を書いたり、お絵かきを好んだりするのは、このあたりも関係しているのではないでしょうか。

「ママも苦手だったから」の励ましは逆効果

──「女の子はブロックよりもお人形を好むはずだ」という社会側の思い込みが、女の子の可能性を狭めている部分もあるのかもしれません。

 

今木さん:

その意味では、やはり保護者の言動が与える影響は非常に大きいですね。

 

例えば、算数が苦手な娘さんに対して、母親が「ママも子どもの頃は算数が苦手だったから、しょうがないよ」という声かけをする。大人同士の雑談の場面で「この子、私に似ちゃって算数が苦手で」という発言を子どもの前で口にする。

 

上手く教えられない罪悪感や劣等感からなのか、過去の自分を投影しているのかはわかりませんが、そういった言葉はマイナスの効果しかありません。

 

なぜなら、「ママと同じであなたも算数が苦手だ」「女の子だから算数が苦手でも仕方がない」と一方的に決めつけてしまうことで、子ども本人の学習意欲が削がれ、苦手意識がますます強化されるからです。おとしめたい意図はなくとも、マイナスの影響しかない。

 

そもそも、女性よりも男性のほうが理数科目が得意である、と思い込んでいる人は多いのですが、現実には算数や理系科目が苦手な男性も大勢いますよね?

 

ところが、「僕も算数が苦手だったからこの子も苦手に違いない」と口にする父親はあまり見かけない。これは子どもの教育面に当事者意識を持って関わる比率が、母親のほうが大きい家庭が多いからだと僕は考えています。

子どもが算数好きになる遊び方

── では、子どもの算数への苦手意識を克服するためには、保護者はどんな言動を心がければよいでしょうか。

 

今木さん:

日常生活の中で、算数に繋がっていくような遊びの機会を意識的につくっていきましょう。

 

幼少期からブロック、ジグゾーパズル、迷路、ビーズなどをぜひ遊びに取り入れてください。遊びを通して立体図形の感覚が育まれます。

 

コツは、お子さんが好きなテーマと関連するものを選ぶこと。「この飾りを作るのにビーズ何個使ったの?」「これくらいの長さなら30個だね」と数に絡めた声かけをしていくのもポイントです。

 

数字の感覚を覚えさせるには、小さいうちなら外出先で階段の数を数えるだけでもいいですよ。「この階段は何段かな?一緒に数えてみよう」と声かけをして、「37段」と数えたら、「じゃああっちの階段はどうかな?」と別の数と比較してみる。

 

もう少し成長したら、料理や買い物が有効です。

 

一緒にお菓子作りなどをしながら、計量カップで材料を測る作業を通じて、「ml」「dl」といった単位の感覚がつかめるようになります。ペットボトル1本は何mlか、2本なら何Lか、と数えさせてみてもいい。

 

買い物の場合は、電子マネーではなく現金を使って「位(くらい)」の感覚を覚えさせましょう。1円・10円・100円という概念はそのまま「位(くらい)」の単元の学びです。500円玉を持たせて買い物をさせ、お釣りや合計額を予想させてみるのもいいですね。

 

「時計」の読み方がなかなか理解できない子には、アナログ時計を使って教えてあげるとよいでしょう。

 

── 机に向かって問題を解くだけではなく、日常の中でいろんなアプローチがあるんですね。

 

今木さん:

算数って紙でやる学問だと思われがちですが、実はそんなことはないんです。実物に触れて得た経験は、目に見えない履歴として必ずその子の中に残るはずです。  

 

苦手意識を性別や遺伝のせいにするのではなく、算数という学問を身近なものとして引き寄せて考えてみてください。

 

Profile 今木智隆いまきともたか)さん

RISU今木智隆さん
RISU Japan株式会社代表取締役。京都大学大学院エネルギー科学研究科修了後、デジタルマーケティング専門コンサルティングファームのビービットを経て、2014年にRISU Japan株式会社を設立。タブレットを利用した幼児から小学生向け算数教材で、のべ10億件のデータを収集し、より学習効果の高いカリキュラムや指導法を考案。

取材・文/阿部 花恵