妻がスキンシップを図ろうとするが断られる

離婚理由として表向き語られるのは「性格の不一致」ですが、実際は「性の不一致」ではないかと言われることもあります。夫婦にとって「性」への価値観の違いは、「生」そのもののズレや、亀裂の元になることもあり得るからです。

後出しジャンケンみたいな夫の発言に

「私はカップルにとって、性は重要だと思うタイプです。お互いにどういう性的指向があるのか、性を通じて相手に何を求めるのかは大事。深刻に考えるだけではなく、イチャイチャするのって楽しいでしょ。身も心も何も着けずに、素の自分をぶつけあう感覚があるんですよ」

 

シオリさん(仮名=以下同、35歳)はそう言います。4年前に結婚したオサムさんとは、独身時代は性的にも合っていると思っていました。

 

「結婚したらもっと開放的に、もっとふたりで楽しみたいと思っていたんですが、オサムは結婚したら突然、普通の夫になってしまいました」

 

共働きで仕事が多忙な時期だったため、新婚旅行も先延ばし。ふと気づくと、同居してから1か月、「一度もしてない」と気づいたのです。

 

「恋人時代、いつもそうだったように私が彼のベッドに潜り込みました。そうしたらオサムは、『もうしばらくはいいよ、そういうの』と言うんです。どういう意味かと聞いたら、『つきあっている時、ボクは性的にはシオリに合わせていた。シオリがぐいぐい引っ張ってくれたから。でも正直、シオリの気分と欲望に振り回されてもいた。本当はあまり性的な接触はしたくなかった』と」

「セックスは子どもを作る時」と断言する夫

彼の言葉にショックを受けたシオリさん。彼は「愛情の問題じゃない、ただ性的な問題だけだよ」と言うのですが、シオリさんには「もう愛していない」と聞こえたといいます。多くの女性はシオリさんのように、性と愛情を直結させやすいのですが、男性にとっては「別物」のことが多いようです。

 

「夫は結婚したのだから、子どもを作る気になったらまたすればいいんじゃない?とも言います。え、それで愛が育めるの?日常的に愛し合うことができるの?、と、さらにびっくり。セックスが子作りのためだけのものだと考える人を夫にしていいのか、悩みました」

 

そこからしばらく、シオリさんは夫と会話すらする気になれなかったそうです。夫はそんな彼女の顔色をうかがいつつ、普段通りに生活していた様子。表面上は夫婦の形を保ちつつ、どこかギクシャクした関係を続けて半年あまり。

 

「日常会話はするけど、お互いに大事な話には踏み込まない。そんな感じでした。でも中途半端なことが私は大嫌い。そこで私たち、結婚してからおかしいよねと、夫に言ってみたんです」

 

すると夫は黙って彼女を抱き寄せました。シオリさんは以前ほど気持ちよくもなく、自分自身が解放された気分にはなれなかったそうです。

 

「夫にとって、性の場面で私が自由に振る舞うのが好きじゃなかったのかもしれない。そんな気がしました。でも私が旧来の女らしく控えめにして、男性にリードされるのを好むタイプじゃないことを、彼も知っているはず。私という人間を、彼の理想とする『妻という型』にはめようとしていたのかもしれません」

 

その後もギクシャクしていたものの、シオリさんは妊娠しました。夫も喜び、周りもみんな祝福してくれたものの、彼女だけはモヤモヤした思いを抱えていたと言います。

「このままではいられない」妻は心を決めた

「娘が生まれてから2年、今では性のことは夫婦のタブーみたいになっています。娘はかわいいけど、私はもっと夫と心も体も密接な関係になりたい思いが消えません。私がこんな風に思い詰めていることを、夫は気づいていないと思いますが

 

このままの生活で夫婦として関係が続くかと思うと、ときどき頭が混乱して苦しいとシオリさんは悲しげに言います。性は妻が夫に「してもらう」ものでもなければ、妻が「させてあげる」ものでもないのが彼女の主張。パートナーとして相手を認めていれば、自然と思いやりをもって相手を慈しむものではないか、と

 

「でも、夫にとっては、結婚は従来通り『妻が夫に従うもの』という考えから抜けられないんでしょうね。家事育児を率先してやるタイプの夫でさえ、性的な問題に関しては古くさいまま。近いうち、全身全霊を込めて夫とぶつかってみようと思っています」

 

離婚覚悟ですよ、とシオリさんは目力鋭く語りました。

ずっと愛し合いたい理想は…
妻がスキンシップを図ろうとするが断られる
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里 ※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。