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長らく日本の働き方といえば、“5日働いて2日休む”「週休2日」がスタンダードでした。しかし近年、希望すれば勤務日数を週4日にできる「週休3日制」を取り入れる企業が登場。すでに、みずほフィナンシャルグループやファーストリテイリングなどで導入されており、政府も「選択的週休3日制」について本格的に議論を始めています。

 

自由に使える時間が増える反面、その分給料が減るなどのデメリットもあり、制度を活用するかどうかは、ライフプランと照らし合わせながら吟味していく必要がありそうです。

 

「週休3日制」という新たな働き方は、ワーママの暮らしをどう変えるのか。働き方改革や女性活躍に詳しいジャーナリストの白河桃子さんに、制度のメリット・デメリットなどを解説していただきました。

「週休3日制」は本当に働く女性の“救世主”となるのか?

── みずほフィナンシャルグループやファーストリテイリング(地域正社員のみ)などで導入されている「選択的週休3日制」という働き方が注目されています。働く側にとって、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。

 

白河さん:

まず、大きなメリットとしては、働き方の多様性がさらに担保されるということです。

 

今は子育てに当てる時間を優先したいという人もいれば、スキルアップや学びに時間を使いたい、あるいはボランティアや副業に力を入れたい人もいるでしょう。働き方の選択肢が増えることで、そうした時間の使い方が可能になりますよね。ただし、給料が減ることをよしとしない人にとっては、マイナスだといえます。

 

一方で、私が一番懸念しているのは、新たな「マミートラック」を生んでしまうのではないかということです。

働くママのキャリアアップを阻む可能性も…

──  “新たな「マミートラック」”とは、どういうことでしょう…?

 

白河さん:

働き方の選択肢が増えるのはいいことですが、「週休3日制」を育児に関わる女性がメインで使うようなものとなってしまうと、育児時短と同じこと。その結果、“やっぱり育児は女性がするものだよね”といった従来の風潮に逆戻りしてしまい、新たなマミートラックの温床になりかねないということです。

 

育児で時短になった途端に、二級社員のようにみられ、「仕事を降りた」と思われる。それが今までの時短取得者に起きたことでした。

 

ですから、特定のメンバーだけが制度を使うような風土では、まったく意味がないと考えています。

 

これまで、育児に関わる女性に対し、さまざまな施策が打ち出されてきましたが、女性活躍は成功しませんでした。なぜなら、女性だけが家事や育児をするという前提のもとで制度が設定されてきたからです。そして活躍する社員=会社の仕事に全ての時間を捧げられる人、という前提でした。

 

いったん「マミートラック」に入り込んでしまうと、意欲はあるのに、なかなかメインロードに戻れず、ジレンマを抱える女性が多かったんです。

「働き方改革」以前に逆戻り…では意味がない

──  そういったジレンマを抱える人はいまだに多いのでしょうか?

 

白河さん:

2019年に時間外労働の上限規制が導入され、コロナで働き方が変わることで、多少風向きが変わってきたと思います。

 

今まで私たちは、制限速度のない高速道路をものすごいスピードで走っていたようなものでした。しかし、ここへきてようやく“社会全体で働き方を変えていかないとダメだよね”と気づいた。そこで取り組むようになったのが「働き方改革」なんです。

 

せっかく風向きが変わったと思ったのに、現時点で推進されている「週休3日制」は、育児や介護に関わる人を前面に押し出している印象です。そうではなく、全ての人を対象に設定していかないと、新たなマミートラックや介護トラックを生んでしまう可能性があります。

 

── 新たな「マミートラック」が生まれることにより、ワーママにどのような弊害があるのでしょうか。

 

白河さん:

もっとも大きいのは、評価が低くなってしまい、昇進や昇給のチャンスがなくなってしまうのではないかということ。そうなると管理職の女性登用も進みません。そもそも今、管理職候補の女性のほとんどが時短中と言われていますが、これと同じような状況を繰り返すことになりかねないんです。

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企業側の思惑は「ワークシェア」と「コスト削減」

── 現在、8.3%の企業が「週休3日以上」を導入しており(2020年厚生労働省の就労条件総合調査)、今後も増えていくと予想されています。企業にとって「週休3日制」の導入は、どんな意味を持つのでしょう?

 

白河さん:

企業側としては、ワークシェアの視点が挙げられると思います。

 

20214月の法改正によって、定年が70歳に引き上げられました。ですが、役職定年になって管理職を退いた人たちが、これまで通り、毎日会社に行くのかというと人それぞれで、嘱託という形で週3日ぐらい働いているシニアの方もけっこう多い。

 

週休3日制は、そうした人たちの雇用を維持するワークシェアにもなりますし、それによって賃金も抑制できるといった側面もあるでしょう。

コロナ禍で苦しむ企業は「副業推進」も

── 企業にとっては、ワークシェアやコスト削減で負担を軽くするという意味合いがあるのですね。

 

白河さん:

さらに今、コロナ禍で立ち行かない企業がたくさん出てきていますよね。特に、小売業やサービス業など対面が基本の業種の場合、従業員にこれまで通りの給料が支払えないので、“週休3日にするので副業していいですよ”というケースも。

 

デジタルシフトを進めるうえでも、新しい働き方を取り入れて、あらゆる選択肢をもっておく必要があるでしょう。

 

── 今回「週休3日制」について読者の意見を聞いたところ、「子どもや家族と過ごす時間が増えるのは嬉しい」といった前向きな声があがる一方で、「給料が下がるのは困る」という意見もありました。

 

白河さん:

働く側にとって、やはり一番気になるのはお給料ですよね。企業によって、労働時間に応じて給料を減らすところもあれば、給料は減らさない代わりに1日の労働時間を増やす、または完全に成果ベースの報酬になるところなど、やり方はさまざま。

 

週休3日で給料をそのまま維持する場合、より効率的に働くことで生産性を上げていくのが新しいスタイルです。例えば、日本マイクロソフトが2019年夏にチャレンジした「週勤4日週休3日」がこのケース。「ワークライフチョイスチャレンジ2019夏」の取り組みの一環として実施されたものでしたが、結果的に生産性が40%向上したといいます。

まずは「減らせるタスクを見直す」ことから

── なるほど。とはいえ、読者アンケートでは「週3日も休んだら仕事が進まない」といった意見も見られました。新しい働き方に戸惑う人も多そうです。

 

白河さん:

おそらく皆さんの不安は、「現状で仕事が効率化できていないのに、さらに労働時間が短くなることで、“早く早く”と急かされるのは困る」ということではないでしょうか。気持ちはよくわかります。

 

ですが、日本の企業にはまだまだ見直せるタスクがたくさんあるはずです。やたら長時間だったり、無駄に出席者が多い会議はその典型的な例。ひとつずつ見直すことで効率化できる余地は十分あると思うんです。

 

やめること・やらないことをきちんと見つけて決めたうえで制度を進めていかないと、やみくもに働き方を変えてもうまくいきません。そのあたりの企業の姿勢も見極めたうえで、自分なりに選択していくことが大切だと思います。

  

Profile 白河桃子さん 

相模女子大学大学院特任教授、昭和女子大学客員教授、作家。慶應義塾大学文学部社会学専攻卒。中央大学ビジネススクール戦略経営研究科専門職学位課程修了。住友商事、外資系金融などを経て著述業に。ダイバーシティ、働き方改革、ジェンダー、女性活躍、ライフキャリアなどをテーマに著作、講演活動を行う一方、「働き方改革実現会議」「男女共同参画会議 重点方針専門調査会」「テレワーク普及展開方策検討会」など多数の政府の委員を歴任。近著に『働かないおじさんが御社をダメにする』(PHP新書)、『ハラスメントの境界線』(中公新書ラクレ)など。
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取材・文/西尾英子 イラスト/えなみかなお