育児や介護、夫の転勤──。女性がやむなく仕事を離れた場合、「働きたい」という意欲があっても、正社員としての再就職は難しいのがこれまでの日本の常識でした。職歴や学歴を問わず「離職すればパート、離職すれば非正規」。

 

そんな常識に疑問を唱え、女性の『ワークアゲイン』を積極的にサポートしている株式会社Waris(ワリス)共同代表・河京子さん(36)に「女性たちの再就職のいま」を聞きました。

(株)Waris共同代表の河京子さん
  株式会社Waris(ワリス)共同代表 河京子さん

女性の再就職をめぐる環境 変化は「劇的」

── まずはママたちの「再就職の今」を聞かせてください。私自身ブランクのある主婦で「社会とのはしごは外された」と諦めがあります。環境は変化しつつありますか?

 

河さん:

変化しています。ひと昔前と比べて「劇的に良くなっている」と言っていいと思います。

 

労働人口の減少を背景に「若い男性」という少ないパイを取り合う時代は終わり、特にベンチャー企業やNPOなどで、さまざまなことを1人でこなせる「元キャリア主婦」が求められるようになっています。

リモートワークなど、仕事のやり方も多様化が進み、子どもをもつ女性が働きやすい社会になったこともこの状況を後押ししていると思います。

 

── 「劇的」という言葉は意外でした。 

 

河さん:

私がWarisを創業した2013年頃はブランクがある女性になかなか仕事を斡旋できませんでした。

 

今は変化の途上ではありますが、特にベンチャー企業などで「ブランクがあってもポテンシャルがあれば活躍できる」という認識が少しずつ浸透してきていると感じます。

意欲のある女性に働く場を提供できない社会ってなに!?

── もともと河さんがブランクのある女性の再就職サポートに関心を持ったきっかけは何だったのですか?

 

河さん:

Warisを創業した際、最初に始めた事業が、高いスキルを持つフリーランス女性と企業のマッチングサービスでした。サービス開始から順調にマッチングが成立する中で、ブランクがある女性は能力が高いにもかかわらずなかなかマッチングできないという現実がありました。 

 

TOEIC満点、話し口ロジカルで、コミュニケーション力高く、魅力的…そんな方の仕事が決まらないー。

 

「働く意欲もスキルも能力もある女性に働く場を提供できない社会ってなに!?」という思いがずっとありました。

 

── その思いが 16年にスタートした「Warisワークアゲイン」事業につながるんですね。

 

河さん:

社内からも同じ声が上がったんです。夫の海外転勤に帯同し、離職した経験をもつ社員から「離職期間が長いと働けない日本の社会はおかしいと思う。女性の再就職を支援するサービスを始めたい!」と。その声が決め手となって16年に「Warisワークアゲイン」事業がスタートしました。

 

Waris社内ではすでにブランクのある女性が活躍していたので、ポテンシャルが高い人なら、適切な場所さえあれば、即戦力として活躍できるという確信があったんです。

(株)Waris共同代表の3名
(株)Waris共同代表の3人  左から河京子さん、米倉史夏さん、田中美和さん

女性たちの「目が変わる」瞬間

── 「Warisワークアゲイン」事業では具体的にどんな取り組みをしているのですか?

 

河さん:

元キャリア主婦の再就職を支援するキャリアママインターンや、再就職イベント、ワークアゲインキャリアスクールの主催など幅広く展開しています。

 

キャリアスクールでは、ITスキルなどの技術的な講習はもちろんのこと、ベンチャー企業やNPOのバックオフィス職で再就職をするためのプログラムを提供しています。今年の4月に5期が終了し、受講者は80名を超えました。そのうち約7割の女性が半年以内に就業しています。

 

── 半年以内に7割というのはすごい数字ですね。事業に取り組まれている中で、特にやりがいを感じるのはどんな時ですか?

 

河さん: 

応募してくださる女性の多くは、社会で働くということに対して驚くほど自信を失っている場合が多いんです。「私なんかが働けるのか…」と。

 

でも、離職前に社会で培った社会人としての基礎力や、ビジネススキルは完全にリセットされるものではありません。家庭や地域の中で培った能力は仕事にも転用できます。

 

「もう一度社会で自立できる」という自信を取り戻した時、みなさん目が変わるんです。希望に満ち溢れた目になる。蓋をしていたものに英気が養われる瞬間を見れるのは、この仕事の喜びの1つす。

キャリアスクールの企業とのミートアップイベント
ワークアゲインキャリアスクールの企業とのミートアップイベントの様子(21年3月)

 

元キャリア主婦の再就職の支援は「社会全体の課題」

── 女性の再就職をめぐる環境は「劇的に良くなっている」というお話がありましたが、今後の課題はなんでしょうか?

 

河さん:

社会全体で『労働人口の不足』という深刻な課題にどう向き合うかという視点はとても大切です。

 

電通総研の調べでは、再就職を希望する主婦の数は360万人。これらの女性が希望通りに再就職した場合の直接の経済効果は、3兆円にのぼるというデータもあります。

 

でも、例えばハローワークは杓子定規なフォーマットになっていて、自由度の高い働き方を求める女性の要望にも、それを求める企業側の要望にも応えられないことがあるんです。

 

結果、ブランク期間のある女性が勇気を出しハローワークに行っても、やりがいのある職を紹介してもらえず『わたしはやっぱり社会に求められていないんだ…』と自信を奪ってしまう。そして、企業側には待てど暮らせど良い人材がこない。これは本当にもったいない悪循環だと思います。

 

── では、企業側に求められることはなんでしょうか?

 

河さん:

ブランク期間のある女性を「安い労働力」などと捉えないことです。企業側の意識は少しずつ変化しているとはいえ「ママは安く使える」と思っている企業もまだ多く、フラットな意識を持てていません。

 

経験値のある女性は内側の力を引き出せば、自走し活躍できる力を持っている。こうした女性の力を活かすことが、会社自体の成長に繋がるという認識をぜひ持ってほしい。

 

── 私たち女性自身にも意識の変革は必要ですか?

 

河さん:

離職期間のある女性たちには、「わたし」という主語を後ろに隠さないで!と伝えたいです。

 

「あなたにとって幸せは?」と尋ねると、「家族は…」とか「子どもは…」と答える方が多いんです。後ろに隠れている「わたし」という主語を前に出し、ぜひご自身の幸せを追求してほしい。その幸せを追求する姿勢が、社会の力になるとわたしは信じています。

 

 

「誰もがまた社会で輝ける」と力強く語ってくれた河さん。ブランクがあっても、子どもがいても、女性がキャリアを諦めない社会になれば、「労働力不足」「男女不平等」をはじめ、日本の様々な課題の解決の一助になるはずです。 

取材・文/谷岡碧