パティシエの鎧塚俊彦さんにインタビュー!

Prime Videoにて配信中のクッキング・リアリティ番組『ベイクオフ・ジャパン』シーズン1にて、審査員を務めるパティシエの鎧塚俊彦さん。パティシエを目指したきっかけや、仕事への思いについて伺いました。

「パフェを頼む勇気がない友達」が不思議だった

「食べることが好き。なかでもスイーツがずっと大好きでした」

── パティシエの道に進むと決断したきっかけを教えてください。

 

鎧塚さん:

僕は業界でも変わった経緯でパティシエの道に進みました。高校卒業後4年間、お菓子とは全く関係ない仕事をしていたんです。高校時代、料理の世界に進みたいという気持ちはありましたが、お菓子屋さんになろうなんて思ったこともなかった。


でも、お菓子とも料理とも関係ない業界で働くなかで、ふとこの先、一生この仕事をするのかと疑問に思う瞬間があって。高校時代の自分の気持ちを思い出し、料理の世界に行こうと思い立ちました。

 

せっかくやるなら、料理という広い枠ではなく、もっと専門的なほうが面白いと思って、パティシエの道を選んだんです。

 

製菓学校に1年通い、23歳でこの業界に入りました。僕がパティシエを目指した当時は、そもそもパティシエという言葉すらなかった時代でした。

 

── 専門的な料理はいろいろありますが、なぜパティシエだったのでしょう?

 

鎧塚さん:

スイーツが大好きだったからです。

 

僕は56歳なのですが、当時学校にはちょっとやんちゃな生徒がいる時代でした(笑)。通っていた高校にもやんちゃな子たちがたくさんいました。仲が良くて目立っている子はたいていやんちゃ。別に特別悪いことをしていたというわけではないんだけど、そんな雰囲気が残っていた時代でした。

 

よく喫茶店に一緒に行って、僕はスイーツを食べていました。たけど、彼らはチョコレートパフェを頼む勇気はないと言うんです。

 

やんちゃで威勢はいいのに、自分が好きで、食べたいパフェは頼めない(笑)。友達だったけれど、食べることが大好きな僕には、全く理解できませんでしたね。

勉強よりも「仕事で一人前か」が評価される家風

「お店を持つ」と決めたきっかけには家風が影響!?

── パティシエになり、お店を持つというビジョンを持ったのはいつ頃ですか?

 

鎧塚さん:

僕は中学生の頃から新聞配達などのアルバイトをしていて、高校時代もいろいろなアルバイトをしていました。お小遣いが欲しかったとかそういう理由ではなく、家風のようなものが影響しているかもしれません。

 

父と祖父は家具職人で僕は3人兄弟の末っ子なのですが、わが家には勉強ができることよりも、仕事で認められて一人前という空気が流れていて。だから、学校の成績よりも仕事で認められて一人前になりたいという気持ちがあり、中学、高校とすごく真面目に仕事をしていました。


なので、パティシエになろうと決めたときには「将来は自分の店を持とう」という意志がしっかりありました。

 

── アルバイトで早くから社会に慣れていたことが、鎧塚さんの今に活きている部分はありますか?

 

鎧塚さん:

大いにあります。パティシエを目指した当時は、4年間全然違う仕事をしていたことが遠回りと感じることもありました。最近は大学を卒業してからパティシエになる人もたくさんいますが、当時はそんなにいなかったので、23歳でこの業界に足を踏み入れるのは、ものすごく“遅い”という印象がありました。

 

遅いスタートにコンプレックスのようなものを抱えていた時期もあります。でも、今となっては4年間、業界に関係ない仕事をしていたことが、今の自分ががんばれている、評価いただいている大きな理由のひとつになっていると思っています。

パティシエは幸せになりたい人を幸せにできる仕事

── 具体的にそう感じるのはどんなときですか?

 

鎧塚さん:

パティシエはそもそも世の中に絶対必要なものではありません。そこに命をかけていることに面白さを感じています。


弟子にもよく話すのですが、警察官や医者、消防士や税理士、弁護士や銀行、ガソリンスタンドなどは生活に必要なもの。だから顔色変えてやってくる人がいるわけです。極端に言えば、生き死にをかけたお願いをしにくる人もいる。警察官や医者のもとには「命を助けてください」という人も来るし、銀行や弁護士のもとには「お金がなくて困っています」という人がきます。

 

でも、パティシエのもとには顔色を変えてやってくる人はいません。僕は35年ほどパティシエをやっていますが、そういうお客様に遭遇したことはありません。「お願いだから、ケーキを作ってください」とか「お金はないけれどケーキがほしいです」と言われたことはない。でも、4年間別の仕事をしていたときには、似たような話を耳にすることもあったし、目にすることもありました。

 

お叱りやクレームで悩んでいる弟子に、「生きるか死ぬか」ですがられる仕事が世の中にいっぱいあるなかで、その程度と言ったら語弊があるけれど、むしろ、幸せなことだと話しています。

 

お店に来る人はお菓子で幸せになりたい人。お金を借りに来るわけでもなければ、深刻な問題を解決してほしいわけでもないし、命を助けてと言われるわけでもない。幸せになりに来る人に幸せになって帰ってもらう、こんな素敵な仕事はないと思っています。

 

── 絶対必要ではないからこそ、必要とされる努力は欠かせないのでは。

 

 鎧塚さん:

おっしゃる通りです。そこに文化が生まれると考えています。文化は必要ではないところに生まれるもの。例えば、映画や音楽もそうだし、お笑いだってそう。なくても生きていけるかもしれないけれど、ないと味気ないものになります。僕は、パティシエにも同じ思いを抱いていますし、それこそがパティシエの仕事に幸せを感じるポイントです。

 

[番組情報]

『ベイクオフ・ジャパン』シーズン1
◉Prime Videoにて独占配信中

取材・文/タナカシノブ