コロナ禍で東京から地方へ移住する人が増えているようです。子どもの頃に住んでいた地域ならより安心感があるとUターンした一家がいます。子どもたちはすぐになじんだものの、大人のほうが苦労しています。某新聞・放送局社長のダブル不倫やパワハラ疑惑が報道されましたが、こういったことはどこにでもあるのかもしれません。
戻りたかった地元に転居。子どももなじんで
地域の中では比較的大きな市に住んでいるコズエさん(41歳・仮名=以下同)。結婚して12年になる同い年の夫、10歳と6歳の子どもたちと一緒に越してきたのは昨夏のことでした。
「本当はもう少し後にUターンしようかと思っていたんですが、コロナにあと押しされた感じですね。東京は刺激的だったけど、家賃も高いし生活費もかかる。子どもたちものんびり過ごせないし、私たち夫婦も疲れてしまったんです」
ふたりとも同じ地元で小中学校の同級生でした。高校は別々でしたが、大学はふたりとも東京へ。共通の地元の友人からの連絡で、ふたりは会うようになりました。
「それでも就職した頃はつきあっている感じはありませんでした。つきあい始めたのは27歳くらいの頃かな。お互いに仕事の相談するうちに親しくなって。29歳で結婚しました。その時から、“いずれは地元に戻りたいよね”と、話していたんです」
共働きで一生懸命仕事をしても、生活はたいして楽にはなりませんでした。それでもコズエさんは仕事が好きだったそうです。
「結婚した頃、地元の中学の同窓会に夫とふたりで出席したことがあるんです。懐かしくて嬉しくて、『いつか戻ってきたい』と言ったら、みんな“戻っておいでよ”と言ってくれて」
だからUターンしたら何の心配もなく暮らしていけると思っていました。夫の両親はすでに亡くなり、実家の管理に妹が困っていた絶妙なタイミングもあって昨年、引っ越したのです。心配だった仕事も、夫は手に職があるのですぐに見つかりました。コズエさんも親戚の紹介で、地元の大きなスーパーの事務職として働くことに。
仕事で提案するとスルーされ、社長からは呼び出され…
子どもたちはすぐに地元に溶け込んだ様子。上の子は初日から学校で友だちができ、下の子もあっという間に保育園になじんでいきます。夫も、同じ職場に中学時代の先輩がいたため、毎日楽しそうに仕事をしていました。
「問題なのは私。人事と総務の仕事をすることになったんですが、数か月経って、どうも“この会社は適材適所になっていないのでは?”と疑問を感じたんです。会社はバリバリ働きたがっている人を閑職に追いやっている。“一度、人材についてきちんと考えてみませんか?”と提案したんですよね」
コズエさんは、Uターンするまでずっと人事関係の部署で働いていたため、自分の経験を活かして貢献したいと思って提案してみたのです。
「地元スーパーはそれほど従業員が多いわけでなく、直接ひとりずつ会って話をして、社内システム自体を変えていくことができる。そのほうが効率的だし、もっと社内が活性化するはず。だからそういう企画書を作って上とかけ合ったんですよ」
ところが、その企画は見事にスルーされました。彼女が同僚女性たちに愚痴ると、「あんまりでしゃばったことはしないほうがいい」「睨まれたら損よ」「働き過ぎず、怠けすぎずが一番いいんだから」とたしなめられたそうです。
「それが悔しくてね…。私たちが声を上げていこうと言っても誰もついてこない。かろうじて若い女性社員が『私もやります』とひとり言ってくれただけ。あげく、役員に呼ばれて『あなたは何がしたいの? 社長が心配してるよ』って。さらに社長にまで個人的に呼び出され…。ニヤニヤしながら、『これからメシでも食べながら、ふたりきりでゆっくり話し合おうか』って。『それ、セクハラですか、パワハラですか?』と聞いたら、ムッとしていましたけど」
言うべきことを言っても疲れるだけってなんなの?
自分はそんなことには屈しない。そう思っていましたが、コズエさん自身、だんだん疲れてきていると言います。
「結局,私だけが浮いているんですよね。私は自分が正しいと言いたいわけじゃないんだけど、周りに思いが伝わらない。セクハラを受け流すのも女の度量だと思っている人が多い。一昔前ならそれでもよかったけど、自分の娘が社会に出ていく近い将来を考えると、ここでなんとかしなければ、思うんですけどね…」
問題が問題として受け止められない環境は、地方のみならずどこにでもあるかもしれません。それでも支援する人がいてくれれば頑張れるはず。大好きな故郷で、これからどういう方向へ話をもっていこうかとコズエさんはあれこれ考えているそうです。