髪型を指摘され20年トラウマだった女性

3月に福岡で起きた5歳児餓死事件は詳細がわかればわかるほど衝撃的でした。ママ友のマインドコントロールにより、母親が離婚したり子どもに食事をさせなかったりといった事実が見えてきたからです。

 

 

人はどうして他人の言葉に左右されてしまうのでしょうか。洗脳、マインドコントロールという言葉も聞かれますが、どんな人でも、他人の言葉に動かされてしまうものなのでしょうか。

洗脳?自分には関係ないと言いきれますか?

洗脳は、虐待や違法薬物など暴力的手段を使って相手の心を支配することで、マインドコントロールは人の心に入り込んで、相手の心を変えていくように働きかけることと言われています。

 

マインドコントロールはもともとポジティブな意味もあり、たとえばスポーツ選手が自信をもつようにコーチが用いる方法でもあります。イメージトレーニングも、自分の心をよりポジティブにしていくしかけです。

 

ただ、ここで問題になるのは「支配」ということ。人が人を支配することなど、本当はできるはずがないのに、心を動かされた側が支配する人を全面的に信頼し、その結果、常識では考えられないような事件が起こってしまうのでしょう。

 

「あんなことが自分に起こるはずはない」。そう思った人は多いはず。でもそこには巧みな会話や心の交流があり、「この人は私のことを真剣に思ってくれている」と信頼してしまう条件が整ってしまったのかもしれません。もっとも、身近にもこういうことはあるようです。

ママ友の巧みな言葉で、別のママ友と疎遠に

「そういえば、私の信頼しているママ友が、別の友だちのことを悪く言っていたんです。その言い方が巧みでした。遠慮がちに『本当はこんなこと言ってはいけないんだけど、あなたにだけは真実を伝えておいたほうがいいと思って』と言い出して」

 

そう話すのはマリさん(39歳・仮名=以下同)です。結局、AさんからBさんの悪口を吹き込まれ、もともと仲のよかったBさんと引き裂かれてしまったそう。Bさんにマリさんの悪口をAさんが言っていたことも、後でわかりました。

 

「自分が仲間はずれにされたくなかったから、人の心を巧みに操ろうとしたんでしょうね。途中でBさんが気づいて連絡をくれたので、Aさんの悪行がわかったんです。いろんな人に似たようなことをしていたみたい。寂しかったんでしょうけど」

ずっとショートカットにできなかった理由

あちこちの友人関係で起こっていそうな話ですが、こういうことは恋愛にもよくあるようです。

 

「私、本当はショートカットにしたいと思いながら、ずっと髪を短くすることができないでいたんです」

 

シオリさん(43歳)はそう言います。20代の頃、ショートにしたら大好きだった彼に、「ショートカットって美人じゃないとムリだよね。シオリはロングが似合うよ」と言われたのだそう。シオリさんは笑ってそう話しますが、実はずっとその言葉を引きずっているのです。

 

「初恋で本当に好きだった人だから,心の中にその言葉が染みこんでしまったんでしょうね。彼と別れて、その後結婚してからもひきずっている。それは私自身が、自分の顔に自信がもてないからだと思います」

 

ショックで傷ついたものの、彼のことが好きだからとその言葉を受け入れてしまい、何度も反芻しているうちに、自分でもそう思い込んでしまっているのでしょう。それも当時の彼からの支配なのかもしれません。そんな支配ははねのけて、自分の望む髪型にしてみたら、案外、抜け出せるのではないでしょうか。

 

「人の言葉に傷つくのは、自分がその言葉を信じ込んで、何度も自分に言い聞かせてしまうからよ」

 

シオリさんは仲のいい友人に、そんなアドバイスを受けました。そして思い切ってショートにしてみたのです。夫をはじめ、子どもたちからも「ママ、かっこいい」と言われたとか。

 

20年近いトラウマから抜け出すことができました。信じている人の言葉は怖いですよね。彼を好きでなくなっても、言葉は生きていて影響されていたんですから。私も子どもたちや周りの人にかける言葉に気をつけなければと思っています」

 

人を支配するようなネガティブな言葉を言わずに生きていきたい。ショートカットが似合うシオリさんはそう言って微笑みました。

髪型を指摘され20年トラウマだった女性
ショートカットにしてトラウマを脱した女性
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里 ※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。