五輪絡みで政治家らの女性蔑視発言が世界中に広まってしまいました。今や女性差別はメディアだけでなく、企業内でも許されない状況になっています。もちろん、誰もが不快な思いをしない職場であることは重要ですが、そこには難しい問題も出現しているようです。
「部長は使えない」だから「男なんて」への違和感
「10歳ほど年上の職場の先輩で、すぐに『だから男はダメよね』という女性がいるんです。部長が仕事の方針を変えたときも、後輩が単純ミスをしたときも、『もう、だから男はダメなのよ』と一刀両断。それだけならいいんですが、私たち女性社員に同意することを強要してくるんです」
ため息をつきながらそう言うのは、トモコさん(34歳)です。「部長がダメ」ならわかるけれど、「だから男は~」というのは納得できないと彼女は言います。
「今まで私たちは、『だから女は~』と言われて嫌な思いをしてきた。ようやく、私たちが声をあげられるようになった今、わざわざずっと言われてきたことを言い返さなくてもいいんじゃないかと、私は思っています。“男は、女は”という括りそのものをやめたいな、と」
しかし、先輩からは「男はダメ、あなたもそう思うでしょ?」とみんなの前で言われます。そのたびに曖昧に頷くしかないとトモコさんは言います。
「反論したら、ネチネチ嫌みを言われますからね。男性たちはそれを見て、『だから女は』と言いたくなっているんじゃないでしょうか…。男と女を分断するようなやり方がいいとは思えないんです。ただ、そういうことを言いかけると、『あなたは意識が低いのよ』と言われる。それこそがいじめな気がするんですけどね…」
職場の雰囲気が悪くならないよう、トモコさんは先輩と後輩の間にはさまって苦慮することも多いそうです。
男女を対立させることが「意識の高さ」なのか?
トモコさんは結婚して4年で、2歳になる男の子を保育園に預けて働いています。同じように子どものいる同僚や既婚の男性とは、ときどき家庭の話題で雑談することもあるそうです。
「ただ、その10歳年上の先輩は独身。独身者が家庭の話題に入ってきてもかまわないのですが、決して入ろうとしません。でも先日、冗談交じりに夫の愚痴をポロッとこぼした同僚に、『だから男はダメなの。あなたは夫のお母さんじゃないんだから、そこまですることはないのよ!』と叱っていました。夫婦関係なんて親しくてもわからない。愚痴った彼女だって、冗談半分で言っているだけで笑ってやり過ごせばいいことなのに…」
その後、先輩から「あなたの家でも、夫は家事育児を女性に押しつけるわけ?」と迫るように聞かれたトモコさん。“うちは適当です”と答えたものの、先輩には「そもそも家庭を持っている女性は、夫から不当な扱いを受けている状況をもっと怒らないとダメなのよ!」と言われたそうです。
「“女性が男に甘いから、男はいつまでたっても変わらない”というのが、先輩の持論なんでしょうね。たしかにそういう側面もあると思うけど、社会のシステムの中で女性が蔑視されているのと、愛情や信頼関係がある個々の関係を一緒にされるのもちょっと違うな、と。うちは夫のほうが率先して家事や育児をしていますから。ただそれは勤務形態や時間的余裕の違いなどもあるので、一概に“男が、女が”という話じゃないんです。ただ、家庭の話を先輩にそこまでする気にはなれない」
彼女の話は結局、机上の論理でしかないとトモコさんは冷静に言います。ただ、実際に先輩にビシッと言える人が部署内にいません。
「女性蔑視する男性も問題ですが、わざわざこうやって男女を対立させたがる人も問題。彼女の言う“意識が高い”ってどういう意味か私にはわかりません」
差別自体はもってのほかですが、いろいろな人がいるから世の中は面白いとも言えます。ただ、職場に限って言えば無視できないだけに“斜め上”の価値観を持っている人には手こずってしまいますね。