選択的夫婦別姓制度の議論が、再び大きな話題になっています。1950年代から議題には上がってきたこの問題、いまだに「選択」すらできないのがもどかしいところ。結婚時に夫の姓を選ぶか、妻の姓を選ぶかが現状ですが、そこにもうひとつ夫婦ともに今までの姓を続ける選択肢が増えるだけなのに、それが法的に認められていないのです。
お互い納得して別姓を選んだ夫婦の思い
「他人が夫の姓を名乗るのを否定するつもりはまったくないんです」と話すミドリさん(40歳・仮名=以下同)は、同い年の夫と7歳、4歳の子どもがいます。
「夫は大学時代の同級生。長い間、大事な友だち関係でした。私は“仕事と結婚した”と周囲に言っていたくらい仕事が好きだったし、今も好き。でも30歳になったとき、『彼女にフラれた』と言って泣きついてきた彼が、『実はオレたち、一緒になったほうがいいんじゃないかな?』と切り出してきました。“それは、ないない!私は結婚しない”と返したものの、私にとっても彼の存在は大きかったなと気づいたんです。でも婚姻届を出して結婚する必要があるかどうかは疑問でした」
彼もその意見には納得し、当時彼女が借りていたマンションから徒歩3分くらいのところに引っ越してきました。近くに彼がいると感じるのは、ミドリさんにとって安心感がありました。それをエネルギーに変えて、さらに仕事に力を注ぐことができたといいます。
「そうこうしているうちに妊娠したんです。彼との関係は安定していたし、それがお互いにとっていい影響があったのはわかっていました。でも、子どもが生まれるとなると“状況は一変してしまう”と思うと、ちょっと怖かったのは事実です。その一方で、彼との関係なら子どもがいても楽しくやっていけるような気もしました」
彼に妊娠を報告すると、見たことのないような弾けた笑顔となったそうです。だからといって、婚姻届を出そうということにならなかったのが2人のスタンスを表しています。
「私は子どもが生まれるなら婚姻届を出してもいいかなと思ったんです。すると彼が、『どっちの姓を名乗る?』と。そこで、詰まってしまいました。今まで仕事を頑張ってきて、ここで姓が変わるのはつらい。通称を使えばいいという話もありますが、私の場合、戸籍名を使わなければならない仕事も一部あるんです。しかも、心の中で自分の姓に対する執着もあるとわかって…」
お互いに自分の姓を変えずに、一緒に子どもを育てていこうと彼は穏やかに言ったそうです。
夫婦別姓を選ぶ覚悟ともどかしさ
ミドリさんたちは、事実婚にあたって同居を決意。さらに公正証書を作りました。こうしておけば、どちらかが入院や手術をするときなどの合意書も書けます。さらに、毎年、2人とも遺言書を作成しています。事実婚だと法定相続人になれないので、どちらかが不意に亡くなったときのために遺産を分けるために必要だと思ったそう。
「子どもは私の籍に入れて、彼が認知しています。ふたりの子と私は姓が同じで夫だけ違う状態ですが、別に不便は感じていません」
周囲にも事実婚だと伝えているので、あからさまに差別的なことを言われた経験はありません。
「ただ、ときどき、『事実婚には賛成だけど、私だったら子どもが生まれたら婚姻届を出すかもしれない』と言う女性はいますね。選択は人それぞれなのでそういう考えは理解しています。大事なのは、婚姻届を“出す、出さない”に限らず、家族がうまくいくかです。子どもには小さいときからちゃんと話してあるので、別に戸惑うことはないみたいです。学校の先生にも最初から言ってあります。説明がいちいち面倒ですが…、それはしかたがないかなと思っています」
姓が違っても夫とはパートナーだし、家族でもあるとミドリさんは感じています。家事や育児も、一般的な共働き夫婦のように分担しています。
「姓が同じになる喜びもあるかもしれないけど、私は自分の姓で生きていきたかった。夫も同じ。それだけのことだと思います」
選択肢が増えるのはいいことなのに、なかなか法制化されないのはじれったいものです。結婚するなら姓を同じにしなければいけないことにモヤモヤしたものを抱える人がいるのは事実なのですから。そして現在、国民の7割以上が選択的夫婦別姓に賛成しているそうです。