中学生のトニーニョくん(15歳)と3人で暮らす、漫画家の小栗左多里さんと外国人でジャーナリストの夫・トニーさん。

 

夫婦で子育てをしていくなかで「異文化で育った者同士はどうやったら折り合えるのか?」と試行錯誤した経験から感じたことや自分の幼少期の体験を、それぞれに語ります。

 

今回は子どもの職業体験について。ベルリンでトニーニョ君が経験した職業経験システムについて、左多里さんが詳しく紹介してくれました。男の子も女の子も等しく学べる貴重な機会なのだそうです。

女子というだけで才能を発揮できない社会はもったいない

ベルリンには「ガールズ・デー」「ボーイズ・デー」というものがある。パッと聞くと意味がわかりにくいが、これは小学生が職業体験ができる日のこと。学校から参加企業や団体のリストがもらえて、 興味があるところに申し込む。平日だけれど、もちろん学校は休める。この企画の素晴らしいところの1つは 「やりたい子はやる、そうでない子はやらなくていい」というポリシー。足並みは揃わなくてOK。

 

うちは言わずもがなの「外の世界見せたい一家」。そのためにドイツまで来るような両親だから、もちろん参加させた。しかし初めて参加できる小学校5年生のときは申し込みに出遅れ、やってみたい職種はもう満席だった。そこで、自分たちで探すことにした。これがこの企画の2つ目の素晴らしい点。自分たちで体験先にお願いし、学校に申請してもいいのだ。

近所のシングルファザーに頼んでラジオ出演

思いついたのが、いつも子どもを一緒に遊ばせている“ラジオ DJ”。彼は一人息子を育てている料理上手なシングルファザーで、トニーニョをよく家に呼んでご飯を食べさせてくれたり、なんといっても私たちのためにケーキを持たせてくれたりする優しい人である。なかでもアメリカ育ちの父親から習ったという「セブンアップ(炭酸飲料)」のケーキがめちゃくちゃおいしかったので、 彼のことはとても信用している。

 

小栗さんイラスト

そのDJの彼に相談してみたら二つ返事で引き受けてくれ、学校からも許可がおりた。ベルリンには小さなFM局がたくさんあって、それだけに彼の番組は機材の調整から選曲、おしゃべりまで一人でやっているという。スタジオは近所のショッピングモールの上。当日は結局、お手伝いというよりは番組内にゲストとして出演させてもらったようなものだったけど、まぁ話す仕事の体験だったとも言える。

職業体験が海外に興味をもつきっかけにも

次の年は「日独センター」を選んだ。ここは在独邦人なら誰でも知っている、日本とドイツを結ぶ重要な団体だ。息子の話によると当日は4〜5人のグループに分けられ、順番に体験していったという。 息子のグループは小部屋に入り、ヘッドフォンとマイクを装着して、まず英語〜ドイツ語間の同時通訳。 本来なら日本語でやりたいところだろうけど、日本語ができる子はほとんどいないから仕方がない。 英語もできるとは限らないが、息子のグループはたまたま全員話せたようだ。ほかに電話の受け答えの練習や日本の生活に関するクイズなどをやり、お昼にはお弁当が出て、お菓子などのお土産までもらって帰ってきた。「日独センター」の場合は、日本に親しみを持ってもらうという目的も大きいと思う。 とはいえ息子は「同時通訳、すごく難しかった」と言っており、これもいい勉強になったようだ。

 

こうして日本に親しみを持ってくれた子が、日本語を少しやってみたり、もしかして日本関連の仕事に就いてくれるかもしれない。日本に長く住んでいるトニーという人を知っているが、アメリカでとてもおいしいトロを食べたのが来日のきっかけだったという噂がある。このときおいしいお弁当を食べた子が、成人して日本にやってきても不思議ではないのだ。

ガールズ&ボーイズが広い視野をもてば未来は明るい!

こういう企画は最近、日本でも企業や団体が行っているようで、ある企業が実施した職業体験では参加者の半分以上が「将来の仕事選択に影響を与えた」と回答したという。自分の適性が何かを知ろうとすれば、視野を広く持つことは不可欠。製造や建築、物流など、今まで考えていなかった業界であっても、内容を知れば心に響く子どもがいるはず。企業側も手間はかかっても、 知ってもらうことで将来を担う志望者を増やすことができる。

 

さて、なぜ「ガールズ・デー」「ボーイズ・デー」とわざわざ男女が分かれて、この名前なのか?実はこの「知ってもらう」こと自体が理由だった。もとは女性が理系の仕事につくことが少ないことから、理系企業を中心に女の子たちに職場訪問してもらったことが始まりなのだそう。だから 最初は「ガールズ・デー」だけがあり、その後「ボーイズ・デー」もできたという話だ。「ボーイズ・デー」は女性が多い職種を体験してもらうことも期待されている。

 

例年、これが行われるのはちょうど今頃、4月の頭前後。今年は見送られたとしてもまた復活し、 たくさんの子どもがいろんな仕事に触れることだろう。日本では女子大として初めて、奈良女子大に工学部ができることが発表された。悔しい思いをした誰かもきっと喜んでいるだろう。女性というだけで才能を発揮できないなんて、悲しいうえに社会的にももったいない。逆もまたしかり。ボーイズに新しい発見がありますように、そして世界中のガールズの行く道が、もっともっと広がりますように!

文・イラスト/小栗左多里