41歳で閉経を宣告され、その後、10年もの間、“謎の体調不良”に悩まされ続けた漫画家のまきりえこさん。前回の記事「妊活中に41歳で閉経…女性ホルモンの激減で苦しんだ先に見えたもの」(※)では、ドクターショッピングを繰り返すうちに、気持ちが追い詰められてうつ病を患い、さらに体調が悪化してしまった経緯をお聞きしました。
過去に囚われていた「完璧主義」を今は手放し、気持ちがラクになったと笑うまきさんに、トンネルから抜け出したきっかけや、つらい経験を経て得た心の変化について伺います。
「ホルモン療法」が長いトンネルを抜け出すきっかけに
── 謎の不調からうつ病が発症し、長期間苦しまれたと伺いました。長いトンネルから抜け出すことができたのは、なにかきっかけだったのでしょう?
まきさん:ひとつは、40代後半に行った女性ホルモンを補う「ホルモン補充療法(HRT)」で、症状が劇的に緩和したことですね。“そういえば更年期について生活指導を受けたことがなかったな”と思い立ち、レディースクリニックを訪れたところ、先生に提案されて始めました。それまでいろんな薬を飲んでも楽になった実感がなかったけれど、はじめて「体調がよくなった」と感じられたんです。
── ホルモン治療には抵抗感を持つ人もいます。まきさんはいかがでしたか?
まきさん:最初は少し不安がありました。以前は乳がんの発症率を高めるなどと言われていたので…。ですが、今は黄体ホルモンの併用などでガンのリスクを減らす治療法が確立されており、また5年以内の使用であれば乳がんリスクは上昇しないと言われているそうです。血栓ができる体質の人はリスクがあるといった説明も受けましたが、飲んだ方が自分にとって“QOL(クオリティオブライフ)”が向上すると判断しました。
それと、大きかったのは、50歳の時に “シェーグレン症候群”が判明したこと。10年越しの“謎不調”の原因はこれだったんです。実は、一番最初の段階で、自己診断から「シェーグレン症候群ではないですか?」と医師に尋ねたことがあったのですが、そのときは違うと言われて。今回、専門医を紹介してもらえたことで、ようやく病気が判明したんです。
謎の症状の理由が判明!心身の苦しさから開放された
──「シェーグレン症候群」というのは、あまり聞きなれない病気です。
まきさん:難病指定されている膠原(こうげん)病の一種で、ストレスなどの理由により、免役が暴走して自分自身を攻撃する自己免疫疾患です。炎症により、涙や唾液などの分泌が減少することが主な原因ですが、症状が全身にすすみ、内臓に炎症を起こすと内臓機能が損なわれてしまう。
慢性疲労や冷え、落ち込み、関節痛など、いわゆる更年期症状と同じような症状なので、自分がシェーグレン症候群だと一生気づかないままの人もいると聞きました。40~50代の女性に多く、一説には潜在的な患者数も含めると30万人いるといわれているそうです。
私もこの病気が判明したことでようやく対処でき、迷走の10年を抜け出すことができました。
「ねばならない」思考が自分を苦しめる
── 40代は、仕事に家庭にとやるべきことが増え、誰もがストレスと無縁ではいられない世代と言えると思います。無理をして乗りきっている人も少なくありません。他人事ではないですね。
まきさん:特にこの世代の働くママたちは、カラ元気と無茶ぶりで回しているようなところがあると思うんですよ。真面目で責任感が強い人ほどストレスを感じやすい。実は私もそうでした。それまでの私は、「ねばならない」の人で、“こうありたい”“こうあるべき”という自分の理想に向かって突き進むタイプ。要は、かなりの無茶をして自分を酷使してきたわけです。
でも、病気のせいで努力と気力だけでカバーできる状態ではなくなり、いろんなものを手放さざるを得なくなりました。そんな状況に追い込まれ、ひとつずつ鎧を脱いで荷物を下ろしていくうちに、“できない時は別にできないままでいい”“人生そんなこともあるよね、しょうがない”と思えるようになって、心がすごく楽になったんです。ものの見方がおおらかになったというか。
どん底の経験をしても「そこで終わりじゃない」
── 向上心が高く、頑張り屋の人ほど「ねばならない」思考を持ってしまいがちです。
まきさん:向上心が高いのは素晴らしいことだけれど、それだけではやっていけなくなる時がいつか訪れます。「ねばならない」思考が強すぎると、自分が理想とする道から外れたらアウト、自分は敗者だなどと思ってしまいがちですが、決してそんなことはありません。いい時もあれば、頑張っても結果が出ない時もある。行ったり来たりの繰り返しで人生続いていくものだし、それでいいと思うんですよ。
私も今では30代の頃に戻ったように元気ですし、ありがたいことに仕事もとても順調です。どん底のような経験をしても、意外とそこで終わりにはならないし、目を凝らして見ようとすれば、どんな場所にも花は咲いているものです。
更年期は、幸せな老後を迎えるためのギアチェンジの期間じゃないかなと思います。「ねばならない」を捨てていくことで、いろんなことができなくなっていっても、精神的に納得して前向きに生きられる気がします。
PROFILE まきりえこさん
漫画家、イラストレーター。コミックエッセイスト。毒親に自尊心を破壊された主人公が、アイデンティティを立て直していく『実家が放してくれません』(集英社)が近日発売予定。そのほか著書に『小学生男子(ダンスィ)のトリセツ』(扶桑社)、自身の閉経とその後の10年間の体調不良の経験を描いた『オトナ女子の謎不調、ホントに更年期?」(集英社)がある。
取材・文/西尾英子 イラスト/pum