「遺産相続はもめる」。誰でも聞いたことがあるでしょう。「うちはまだまだ両親が健康だから」と思う人も、油断禁物。急に親が亡くなり、突然、遺産相続がふりかかってくるなんて話はよくあります。この時、何の準備もできていないと、間違いなく問題が起こります。遺産相続でもめないためにはどうしたらいいか、家計再生コンサルタントの横山光昭さんにたずねました。
「遺言書を書いて」とは言いにくい…
「突然死」は亡くなる方の10%に及ぶといわれています。片方の親が健在なら大きな問題は起こりにくいのですが、親を両方亡くした時、金銭や所有物などの情報が何もないと、トラブルに見舞われるケースは多いでしょう。
最大の問題は、親の遺産を誰がどのくらいの割合で相続するか。これでもめないためには「遺言書」をつくってもらうことが大切ですが、親に「遺言書を書いてほしい」と面と向かっては言いにくいもの。中でも、公的な効力のある公正証書遺言は公証役場に行って作る必要があり、とても手間がかかります。
亡くなった後も料金が引き落とされ続けるリスクも…
困らないためには、親自身に「そろそろ準備をしよう」と思ってもらうことが欠かせません。とっかかりとしておすすめしたいのが、「エンディングノート」を書いてもらうこと。
エンディングノートは、亡くなった後や意識がなくなった時に必要な情報を事前にまとめておくノートのこと。例えば、以下の情報がわからないと亡くなったときに困ることがあります。
- 財産や負債の状況
- 銀行口座・クレジットカードなどの名称・カード番号、パスワード
- 印鑑の場所
- 生命保険・医療保険などの加入状況と証券の保管場所
- 運転免許証や年金手帳の番号や保管場所
- スマホの暗証番号
- サブスクリプションサービスの加入状況
- メール・SNSのID・パスワード
- 亡くなったときの緊急連絡先(大切な人)のリスト
- 飼っているペットの病気などの情報
上記の情報が不明だと、銀行口座からお金が引き落とせなかったり、生命保険がおりなかったり、加入するサービスが解約できずに料金が引き落とされ続けたりする、といった問題が発生します。
また、亡くなっていなくても、突然倒れて意識不明になったり、認知症が進んだりしたときには、以下の情報がないと困るでしょう。
- 持病やアレルギー、投薬の情報
- かかりつけの病院、主治医
- 健康保険証の保管場所
- 介護についての希望
- 判断能力がなくなったとき、判断を任せる人、後見人について
- 延命治療、臓器提供、検体などの希望
特に新型コロナウイルスは急に症状が悪化するのが特徴です。不測の事態を想定して、元気なうちに以上の内容を聞いておくことが賢明です。
自分でエンディングノートを書くのもひとつの手
エンディングノートは書店でたくさん売られています。書くべき内容が細かく示されている書籍も多く、それに沿って書いてもらうのが理想です。いいにくい話ですが、親も今回のコロナウイルスに脅威を感じているでしょうから、話してみれば受け入れてくれるはずです。
言いづらければ、あなた自身が家族のためにエンディングノートを書いてみて、「こんなものをつくった」と親に見せるのも一つの手です。
エンディングノートには遺言書を用意する必要があることが書かれているので、おのずと遺言書も意識するようになります。こちらから用意してと言わなくても、用意してくれる可能性は高まるでしょう。
監修/横山光昭 取材・構成/杉山直隆 イラスト/村林タカノブ