お金をたくさん貯められる夫婦は、パートナーのどちらかが、強力な「巻き込み力」を持っている。家計再生コンサルタントの横山光昭さんはそう話します。横山さんも舌を巻くほどの「巻き込み力」とは、一体どのような能力なのでしょうか?
「ロジカルな説得や強引な言い方」では貯金できない
私のもとに家計相談に訪れる人は、必ずしもお金が貯められない人ばかりではありません。「順調にお金を貯まっているけれど、もっと良い方法を見つけたい」と、勉強熱心な方が訪れることもあります。
そうした多くの貯め上手な夫婦と話す中で、私はあることに気づきました。それは、お金を貯められる夫婦は、高い確率でパートナーのどちらかが、“巻き込み力”を持っていることです。
パートナーの片方が節約や貯金に積極的ではなかったとしても、もう一方のパートナーがうまく節約や貯金につながるような行動をさせてしまうのですね。
もっとも、「巻き込み力」といっても、ロジカルに説得したり、強引に言いくるめたりして、巻き込むのではありません。「ファイナンシャルプランナーの先生がこう言っているんだから、ちゃんとやりなさいよ!」といったキツい言い方もまずしません。さりげない戦略によって、いつの間にかうまく巻き込んでしまうのです。
「余れば小遣いにしていいよ」が思わぬ結果に!
たとえば、以前相談に来た女性Mさん。以前、Mさんの家庭は、外食代の予算を毎月1万円と決め、共通の財布から出していたそうです。しかし、ある時、共通の財布ではなく夫に1万円を渡して、「これからはあなたが外食代払ってね」と伝えました。
仮に月の外食代が1万円以下なら、その差額は夫のポケットマネーにして良いことにしました。夫にとっては魅力的な提案ですよね。
ところが、現実には意外なことが起きました。外食代が月1万円をオーバーしたとき、夫が「いいよ、いいよ〜」と自分のポケットマネーから超過分を支払うようになったのです。
夫は、「余れば小遣いになる」というリターンを得たことで、「超えたら、自分が差額を支払う」リスクを嫌がらなくなったのですね。じつに賢いやり方だと、私は感心しました。
この方法は外食以外でも使えます。たとえば、洋服代も、共通の財布から出すのではなく、毎月定額にして、それぞれのパートナーがやりくりするルールにする。そうすれば、想定外の出費になっても共通の財布が痛むことはありません。さりげなく節約できます。
スマホ料金の節約で「夫も家計も」嬉しい仕組み
単に節約してもらおうとするのではなく、「努力次第で得できる」仕組みにすることで、パートナーに気分良く節約してもらう。この方法は他にもあります。
女性Kさんの例です。Kさんはスマホを格安キャリアに替えることで、夫の通信料金を削減したいと考えていました。しかし、ふつうに変更を頼めば、「面倒くさいし、今のキャリアから変えたくない」と夫が拒否反応を示すと考えました。
そこでKさんは「格安キャリアに変えたら、浮いた分の半分を小遣いに増額する」提案をしました。たとえば、これまで月9000円払っていたのが、格安キャリアに乗り換えると月3000円になるとしましょう。その場合、浮いた6000円の半分、3000円を月々の小遣いに上乗せしていい、と伝えたのです。
Kさんの夫はこの提案を快諾し、格安キャリアに切り替えました。家計が楽になるのは月3000円分だけですが、それでも十分助かるわけです。この方法を聞き、私も子どもたちに「スマホ料金を節約できたら、その金額を折半して小遣いにしてOK」と提案しました。
他にも、相手をうまく巻き込ませる方法はあります。数字が苦手な女性Yさんは、夫にエクセルで家計簿を入力してもらっていますが、夫に対して「すごくわかりやすい」とべた褒めをしていました。そうやって少しでもほめられれば、誰でも悪い気はしません。
ここで取り上げた夫婦のようにうまくお金を貯めたいなら、相手が得に感じる提案をしたり、相手の良さをほめたり、と「巻き込み力」を鍛えてみてはいかがでしょうか。
監修/横山光昭 取材・構成/杉山直隆 イラスト/村林タカノブ