生き生きと働く女性

私たちの健康と切っても切れない存在、女性ホルモン。働く女性が自分らしく生き生きと過ごすためには、その働きやメカニズムを知り、自分の体調にどんな影響を及ぼすかを理解しておくことが大切です。

 

今回は、産婦人科医の小野寺真奈美さんに、ホルモンバランスの乱れを整えるために有効な「低用量ピル」の使い方、そして女性ホルモンに振り回されず、健やかに過ごすための秘訣を教えていただきます。 

ホルモンバランスの乱れには「低用量ピル」という選択肢も

── 更年期を迎える前の3040代の場合、ホルモンバランスの乱れが引き起こす症状として、もっとも多いのが生理不順やPMS(生理前症候群)だと伺いました。そうした症状で婦人科を訪れる場合、どんな治療法がありますか?

 

小野寺さん:投薬による治療法として、低用量のピルを服用する方法があります。排卵を止めて女性ホルモンの変動をなくすことで、生理不順やPMSの症状を抑えたり、生理痛を緩和することができます。ただし、排卵を止めることになるので、服用は妊娠を希望していない方に限ります。 

低用量ピル

将来妊娠を希望している人も服用できる

──  “ピルを服用するのは抵抗がある”という人も少なくありません。人工的に排卵を止めることによる副作用や、将来妊娠しにくいなどのリスクはないのでしょうか。

 

小野寺さん:かつて処方されていたピルは、副作用が出る場合も多くみられましたが、現在主流となっている「低用量ピル」「超低用量ピル」は副作用が少なく、持病がない方が処方されたものを服用する分には特に問題ありません。飲むのをやめればすぐに排卵も回復しますから、その後の妊娠に影響を及ぼすこともないと考えられています。

 

ただし、服用できない方もいます。例えば、35歳以上で115本以上のたばこを吸っている人は血栓ができやすくなったり、心筋梗塞や脳卒中などの副作用を起こしやすくなることがわかっています。ほかにも、目の前がチカチカしたり、耳鳴りがした後に頭痛が起こるなどの前兆がある偏頭痛を持つ人、血栓症や心筋梗塞がある人も服用はできません。ピルが使えない方や使用に抵抗がある方は、漢方を処方することも可能です。

新しい成分のピルも処方可能に

── 低用量ピルは比較的安全性の高い薬剤なのですね。副作用も少ないということなら前向きに相談できそうです。

 

小野寺さん:低用量ピルのデメリットとして挙げられるのは、エストロゲンの影響により、血栓症やいわゆるエコノミークラス症候群のような症状を起こしやすいこと。とはいえ、血栓症が起こりやすいことで知られる妊娠中よりは発症頻度が低めです。ですから、それほど心配しなくても大丈夫ですが、少しでも違和感があれば服用を中止し、処方した医師に相談してください。

 

ちなみに昨年5月には、血栓症に影響するエストロゲンではなく、プロゲステロンの成分だけを使用した薬が月経困難症に対して保険適応になり、選択肢が広がっています。

 

錠剤を服用する様子

症状が重い人限定のものではない

── 症状が軽い場合でもピルを飲んでいいのですか?

 

小野寺さん:もちろん構いません。かかりつけの医師に相談してみてください。自分の体について、生理周期を基本にして流れを理解し、改善したい症状があるなら上手にピルを活用するといいと思います。きっと女性ホルモンに振り回されずに、快適に過ごせるようになるはずですよ。

 

── 基礎体温のデータや症状を書いた日記を持っていくと、診断がスムーズに進むと伺いました。ほかにも準備しておくと役立つものはありますか?

 

小野寺さん:子宮頸がん検診を受けている方は、結果を記したデータがあるといいですね。なければ、口頭で伝えていただくだけでも構いません。それと、子宮筋腫や卵巣腫瘍など子宮や卵巣に何か問題がある方は、いつ検査して、現在どんな状況なのかがわかると診断しやすくなります。例えば出血が続いている方なら、過去の検診歴が把握できれば、もしかしたら子宮筋腫の影響かな、といった具合に総合的に診断することができるので。

出産の有無が女性ホルモンの乱れに影響を及ぼすことも

── ちなみに、出産の経験の有無で女性ホルモンのトラブルの程度は違ったりするのでしょうか?

 

小野寺さん:出産経験のない方は、子宮筋腫や子宮内膜症のリスクが増します。これらは、エストロゲンに依存して成長する疾患です。つまり、出産の経験がない=ずっと生理があり、常にエストロゲンにさらされている状態のため、筋腫も大きくなりやすいんです。出産した場合は、1年あるいは授乳期間を含めると2年程度は生理がなくなる状態で、その間はエストロゲンの影響を受けないため、筋腫が小さくなる方もいるんですよ。

リモートワークが女性ホルモンにも悪影響!? 

── 日常生活の中で、ホルモンバランスを整えていくには、どんなことを意識すればいいですか?

 

小野寺さん:やはり規則正しい生活習慣がカギになります。早寝早起きをしてバランスのよい食生活と適度な運動、睡眠をとること。簡単そうに見えて、コンスタントに続けるのは案外難しいものです。特にいまはリモートワークが進み、下手すると24時間デジタルに管理されている状態。そうなると、常に神経がONになって、思った以上に心身がゆっくり休まっていないんです。副交感神経と交感神経のバランスが崩れると、自律神経の乱れに繋がり、ひいては女性ホルモンにも悪影響を及ぼします。

 

これまでは職場に行くことで気持ちのスイッチが切り替わっていた人も、テレワークだとなかなかそうはいきませんよね。やはりどこかで意識的にプライベートと仕事の境目を作るべきだと思います。仕事の時間を決めて、そこからはパソコンを見ないとか、ご自身の中でオンとオフの切り替えをして、メリハリのある生活リズムを作っていくことが大切です。

 

Profile 小野寺真奈美さん

小野寺真奈美医師

産婦人科医。女性医療クリニックLUNA横浜元町所属。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会認定産業医。2014年久留米大学医学部卒業。福岡市内での初期研修医、東京都内の産婦人科での後期研修医、勤務を経て、2019年12月女性医療クリニックLUNA婦人科で診療開始。日本産婦人科学会、日本女性医学会、日本生殖医学会、日本東洋医学会。

 

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取材・文/西尾英子 イラスト/pum