「最近なんだか体調がすぐれない」「気持ちの浮き沈みが激しくなった」「生理前のイライラがコントロールできない」── こうした悩みの原因は、女性ホルモンのバランスが乱れているせいかもしれません。
産婦人科医の小野寺真奈美さんによれば、コロナ禍で生活スタイルが変わったことにより、女性ホルモンが乱れている人がますます増えているそう。“自分の体のクセ”を知ることで女性ホルモンとうまく付き合う方法を伺いました。
40代前半で閉経も!?女性ホルモンの乱れが与える影響
── 自分の体のことですがイマイチわかっていないので、おさらいさせてください。そもそも「女性ホルモン」にはどういう役割があるのでしょうか。
小野寺さん:女性ホルモンとは、脳の視床下部から指令を受けて卵巣で分泌されるホルモンで、「エストロゲン」(卵胞ホルモン)と「プロゲステロン」(黄体ホルモン)の2種類があります。エストロゲンは、女性らしい体づくりや妊娠や出産に備える働きがあり、プロゲステロンは、妊娠した状態を維持するのが主な役割。どちらも女性の健康全般を支える大事なホルモンです。
── 女性ホルモンのバランスが乱れるのは、そもそも何が原因なのでしょう?
小野寺さん:女性ホルモンは、年齢と共に分泌が減り、40代以降は閉経に向けて減少していきます。それにより、ホルモンのバランスが乱れ、さまざまな体の不調があらわれやすくなるんです。特に、閉経を挟んだ前後5年間の「更年期」と呼ばれる時期は、女性ホルモンのバランスが大きく乱れやすく、体調に変化として、のぼせや頭痛、不眠、関節痛といった更年期特有の症状が出ることも。
ですから、40代以降の方が体の不調を訴える時は、更年期の可能性も視野に入れ、検査をすることをお勧めします。婦人科では婦人科診察はもちろんですが、状況によっては血液検査でホルモン値を測定します。また、更年期の症状と思っていても甲状腺の異常などの内科的な病気が隠れていることもあるので、その数値を測定することもあります。
ただ、この時期は女性ホルモンの数値が上下動することがあり、一度の測定だけで判断するのが難しいことも。あくまでも血液検査は補助的な診断となります。閉経の時期は平均50歳ですが、なかには40代前半で閉経を迎える方もいます。
── 閉経は50代、というイメージがありますよね。自分の身にもしそんなことが起こったら、ショックでなかなか事実を受け止められない気がします…。若くして閉経状態になってしまうようなケースは増えているのでしょうか?
小野寺さん:そこまで増えているという実感はありません。基本的には、20~40代の場合、生理の周期が正常で、経血量などに大きな変化がない場合は、女性ホルモンが正常に分泌されていると思っていいでしょう。ただし、ストレスや生活習慣の乱れによってホルモンバランスが崩れることで、生理不順や月経前症候群(PMS)の症状など様々な不調が強く出ることがあります。
── PMSに悩む女性は周囲にもかなり多いです。具体的な原因は何なのでしょうか。
小野寺さん:PMSの原因ははっきりとはわかっていませんが、女性ホルモンの変動が関わっていると考えられています。しかも、ストレスの有無や本人の性格も影響するため、個人差が大きいんです。症状としては、頭痛や腹痛、イライラや不安などのメンタル不調。眠気が強くなったり、集中力が低下したり、人によっては脂っこいものや甘いものが無性に食べたくなる場合もあります。これには、排卵後のエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)が関係しています。特に、月経前に急激に減少していくというホルモンバランスの大きな変動が関連していると考えられています。妊娠初期にも同じような症状が起こりやすく、間違いやすいんです。
また、女性ホルモンは自律神経とも大いに関わりがあるため、ホルモンバランスの乱れが自律神経の乱れにつながり、心身に不調をきたすことも少なくありません。
「女性ホルモン」と「自律神経」は切っても切れない関係
──「自律神経」と「女性ホルモン」は、深い関わりがあるんですね! それはなぜでしょうか?
小野寺さん:そもそも自律神経とは、内臓や血管などの働きをコントロールし、体内の流れを整える神経のこと。この自律神経には、覚醒モードの“交感神経”と、リラックスモードの“副交感神経”の2つがあり、脳の“視床下部”からの指令で動いています。
女性ホルモンも自律神経と同じく、脳の視床下部から卵巣に指令がいくことで分泌されます。つまり、両者とも視床下部という同じ司令塔で動いているため、女性ホルモンのバランスが乱れると、脳の視床下部にも影響し、指令が出にくくなって自律神経も乱れてしまうんです。
── お互いに影響を及ぼしあっているのですね。
小野寺さん:特に今は、コロナ禍で思うように過ごせないストレスから、自律神経のバランスを崩してしまう方も少なくありません。私がそれを顕著に感じたのが、最初の緊急事態宣言が発令された2020年の春頃です。子どもは休校、夫もリモートワークで在宅勤務になり、働くママたちの負担が急激に増えたことや、人とのコミュニケーションが減ってしまったことによるストレスなどが原因で、心身の不調を訴える方の受診がかなり増えました。現在もコロナ禍でなかなか元通りの生活はできませんが、皆さん工夫してのりきっているのでしょうね。
生理は28日周期という人の方がむしろ少ない?
── ホルモンバランスが乱れていないかどうか、自分でチェックする方法はあるのでしょうか?
小野寺さん:やはり生理が一番のバロメーターになると思います。まずは、生理の日数や周期をきちんと把握することから始めましょう。意外とそこからつまずく人も多いので。今は、女性の体調を管理するアプリもたくさんありますから、それらを活用するのもいいですね。
生理の周期は一般的には28日といわれていますが、私の感覚だと、きっちり28日周期という方はむしろ少ないです。だいたい25~38日くらいの間隔で来ていれば問題ありません。多少前後しても、定期的に来るなら排卵もしているということなので。ただ、例えば“前回は20日間隔で今回は40日、その次は2か月間来なかった”という具合にリズムが一定でない場合は、女性ホルモンのバランスが乱れている証拠。生活を見直す必要があります。
経血量も目安になるかもしれません。例えば、生理初日から夜用ナプキンが欠かせない、布団や衣類を汚すほど出血するというような場合は、経血量が多すぎます。ホルモンバランスというよりも子宮筋腫や子宮がんといった病気が隠れていることもあるので、一度婦人科を受診するといいと思います。
基礎体温と「症状日記」で自分の体のクセを知ろう
── 生理周期や経血の状態を日頃から意識することが大切なんですね。ほかには何かありますか?
小野寺さん:毎朝の基礎体温を測ることも大切なポイントです。基礎体温は上下動しますが、正常な排卵が行われている場合、基礎体温は、低温期と高温期の2層になっています。生理が始まると約2週間ほどは低温期になり、排卵の時期に1度ガクッとさらに体温が下がります。その直後にグッと上がって、次の生理までの約2週間は高温期を迎える、というのが正常なリズムです。
── 基礎体温を測るのは、妊活の時のみ…という方も多い気がします。
小野寺さん:確かに、毎日つけている方は少ないかもしれません。私の印象だと、むしろ10代の若い女性のほうがきちんとつけていたりしますね。とはいえ、コロナで毎朝体温を測るという習慣ができた方も多いはずなので、その一環でぜひ基礎体温をつけてみてください。普段から自分の体ときちんと向き合っておくことで、不調のサインにも気づきやすくなります。
「症状日記」をつけることもおすすめです。胸が痛い、胸が張る、お腹が痛い、イライラするなどの症状を記録しておく。アプリを使うと簡単です。その時期と生理周期を合わせてみていくと、生理が始まる2週間前くらいの高温期なら「生理前だからこういう症状なんだな」と自分で自分の体の状態が把握しやすくなります。自分の体の傾向を知ることで、体のメンテナンスの指標になりますし、気持ちにもいくらか余裕が生まれると思いますよ。
Profile 小野寺真奈美さん
産婦人科医。女性医療クリニックLUNA横浜元町に勤務。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会認定産業医。2014年久留米大学医学部卒業。福岡市内での初期研修医、東京都内の産婦人科での後期研修医、勤務を経て、2019年12月女性医療クリニックLUNA婦人科で診療開始。日本産婦人科学会、日本女性医学会、日本生殖医学会、日本東洋医学会。
取材・文/西尾英子 イラスト/pum