ひきこもりの子供、苦しむ母

ひきこもりと言われる人たちは、中高年を含めると100万人を越えています。小中学生の不登校者数は4年前から激増して、一昨年度は18万人を突破。このまま不登校が続くと、ずっとひきこもってしまうのではと、親が不安になるのも無理ありません。

 

その原因はさまざま。小中学生であればいじめや学校での人間関係、また家庭内トラブルなども考えられます。本人の気質と「学校」というシステムが合わないのかもしれません。

「明日は学校に行く」と言ったのに朝起きると

現在小学校5年生の息子が4年間学校に通っていない、と話すのはルリさん(仮名=以下同・45歳)です。

 

「原因がわからないんです。2年生になったばかりの頃、朝、頭が痛いと言って学校に行けない日があって、そこから行ったり行かなかったりが続き、とうとう完全に不登校になりました。病院にも連れていって検査もしましたが、体が悪いわけではない。小児精神科とかカウンセリングとか、いろいろ試しました 

 

布団をはがして起こして怒鳴ったり、なだめたりしながら行かせようとした時期もありますが、ルリさん自身も決まった時間に仕事に行かなければなりません。

 

「夜になると、明日は行くというんです。でも翌朝は起きられない。その繰り返しでした」

 

2歳年下の夫とは結婚12年、8歳になる次男は休まず学校に通っているそうです。ルリさんは、自身が福祉関係の仕事をしています。そのため、「みっともなくて息子が不登校だとは言えない」のだとか。

 

「とにかく私が忙しすぎるのがいけないのかなと最初は思いました。夫とは家事育児を分担する約束をした上で結婚したんですが、実際には夫が思ったより役に立たない(苦笑)。子どもたちが入学する前は、本当に毎日がバトル状態でした。どうにもならなくて義母に来てもらったこともあります。でも、『ママがこんなに忙しいんじゃ、子どもたちがかわいそうねぇ』と子どもたちに向かって言うので、私が激怒したことがあります」

 

怒りが収まらない口調でルリさんは話します。夫とは会話はあるものの、いつもケンカになってしまうそう。それを見ている子どもたちを不憫だと思いながらも、夫への苛立ちが止まらないのです。

夫とは話すのに、私が原因なんでしょうか?

「長男の担任の先生とも何度も話しました。でも先生も頼りないんですよね。たまに様子を見に来たりもしますが、長男は部屋から出てきません」

 

コロナ禍で平日1日は在宅勤務となったルリさん。現場仕事が多いのでそれ以上のリモートワークは無理。一方、夫は現在も週23日の出社となっています。

 

「今まで寂しい思いをさせたのではないかという後悔もあったと夫婦で話し合いました。夫は家にいるときはなるべく長男と話すようにしているそうです。私がいると部屋から出てきませんが、夫とは少し話すみたい。ゲームの話ばかりらしいですが。やっぱり私が原因なんでしょうね」

 

ルリさんはうつむいてしまいます。夫に対しては強気一辺倒のルリさんですが、そこに長男がからむと、夫にしかすがれない弱気な面も見せます。

 

「どうしたらいいかわからないんです。最近、地域の支援センターから若い男性が来てくれるようになり、長男は夫よりゲームのことがわかっている彼と徐々に話すようにはなっている。ただ、そこからどうやって登校につなげればいいのかわかりません」

不安や焦り変わらないといけないのは“親”なのかも

このままだと中学に進学できたとしても学習面で落ちこぼれる可能性がある。そうなると高校へも行けない、大学は…と、ルリさんは先々のことまで心配で不安でたまらないのです。

 

「支援センターの男性からは、『彼が楽しいと思うことを増やしていきましょう』と言われていますが、親はどうしても焦ってしまうんですよね。他人のことなら客観的にアドバイスできる。でも自分の子どものことになると判断ができないんです」

 

福祉関係の仕事をしているのに、我が子が不登校なんてみっともない。世間体が悪い。彼女からは、どうしてもそういうニュアンスが抜けません。

 

「そう、おそらく変わらなければいけないのは私自身。私は毒母に育てられて、学歴だけは立派だけど心が満たされていない。かつてカウンセリングを受けて、そこまで自分でもわかってるんです。でも、気持ちを切り替えられない。そんな中での長男の不登校ですから、私も精神的にきついです」

 

時間をかけて,何が彼の心を頑なにしているのかを少しずつ知っていったほうがいいのかもしれません。愛情だけはひんぱんに伝えながら。

ひきこもりの子供、苦しむ母
ひきこもりの原因が自分では?と責任感じる母
文/亀山早苗 イラスト/前山三都里 ※この連載はライターの亀山早苗さんがこれまで4000件に及ぶ取材を通じて知った、夫婦や家族などの事情やエピソードを元に執筆しています。