チームリーダーで何事にも積極的だった人が、リモートワーク期間中に無断欠勤が増えた。テキパキ働くタイプ人なのに、レスが遅かったり、初歩的なミスをしたり…。新型コロナウィルスの拡大などライフスタイルの変化により、メンタルに不調を抱える人が少なくありません。
なかでも、自分の不調を周囲に訴えられないまま人知れずうつを発症し、深刻化してしまう「サイレントうつ」に陥る人が増えています。(株)Dr.健康経営代表取締役で産業医の鈴木健太先生にお話を伺いました。
本人も会社も発症に気づけない理由
—— 最近増えているといわれる「サイレントうつ」とは、どんなものなのでしょうか。
鈴木先生:
“サイレントうつ”の明確な定義というものはないのですが、あえていえば、本人からすると不調を感じても周りにヘルプを出せないままうつが進行し、深刻化してしまう状態だといえます。また、周囲や会社からすると、気づかないうちにその人がうつになっていたという状態といえるでしょう。
このようにひとりで抱えこんでしまい、周囲もそのことに気づかないのは、テレワークが増えたことが原因とも考えられます。
—— テレワークでコミュニケーションが取りづらいことは問題になっていますね。
鈴木先生:
以前のように、会社に出社して仕事をしている時は雑談したり、気軽に相談できる機会がありました。そのため、他人のちょっとした変化にも気づきやすかったのです。ところがオンライン上のやり取りが増え、人と直接顔を合わせる機会が減った今は、プライベートなことを話しにくいと感じる人がいます。もちろん、テレワークにはメリットも多いのですが、会社や職場にしても、“仕事に集中できていない”、“ふさぎこんでいる”など、うつの初期サインを見逃して、発見が遅くなってしまいます。
ストレス耐性の自覚がない人ほどなりやすい?
—— 「サイレントうつ」は、どんな人がなりやすいのでしょうか。
鈴木先生:
性別や年齢に関係なく、もともとうつになりやすい気質を持った人はいます。さまざまな要因が合わさっているため、一概にはいえませんが“几帳面で真面目” 、“責任感が強い”、“臨機応変に対応するのが苦手”といった性格は、うつになりやすいといわれています。こうした人は、現在、私たちが置かれているような変化の多い状況にストレスを感じやすいでしょう。また、これまでさほどストレスを感じる機会がなく、自分のストレス耐性の低さに自覚のない人も注意が必要です。 小さな子どもがいる、子育て中のママも注意が必要ですね。
—— 在宅勤務はいい面もありますが、働くママのタスクが増えてしまう場合もありますよね。
鈴木先生:
リモートワークによって自宅で仕事をするようになり、家事や育児と同時進行する場面も増えています。これまでは仕事は職場で行い、自宅では家事や育児と、メリハリのある生活を送っていたのが、プライベートとビジネスとの境目がなくなり、常にあちこちに目を配らないといけない状態に。こうしたことで、知らず知らずのうちにストレスを抱えてしまいがちです。
—— 「サイレントうつ」にならないよう“予防”するのが大切とのことですが、対処法はあるのでしょうか。
鈴木先生:
特別な対策があるわけではありません。ただ、メンタルの不調は進行すればするほど回復に時間がかかります。ですので、できる限り早い段階から予防して、深刻化させないことです。
メンタルの不調に対する対策は、職場(他者)でできることと、個人でできることがありますので、分けて考えましょう。
職場では、意識的に雑談する時間を作る
—— 職場での“サイレントうつ”を予防するには、会社としてどういった対策をとればいいのでしょうか。
鈴木先生:
テレワークが主流になると、仕事だけをひたすら進める空気になりがちです。でも、人と話をするのはストレス発散の方法としてとても効果的。そのため、オンライン上でも雑談しやすい雰囲気づくりが大切になってきます。
企業としても、従業員に対してメンタルマネジメントの重要性を伝えたり、オンラインイベントを開催したりするなどの対策を取っているところも増えていますが、まずは職場のチーム内や同僚同士など、個人レベルでも意識してみましょう。
たとえば、“雑談用のチャットルームを作る”、“朝のミーティングでそれぞれの近況報告を習慣化する”などは有効な方法だと思います。こうした工夫を重ねるだけでも、ぐっと話しやすくなるはず。ふだんから気軽に相談できる環境を整えられるといいですね。
夫婦間でもちょっとした異変や不調を伝え合おう
—— もし、ストレスを感じているなどの自覚症状があったら、どうしたらいいのでしょう。
鈴木先生:
物事の見方を変えることが有効です。“考え方を転換し、物事をいい方向にとらえる”ことを心がけてみてください。たとえば、テレワークがしんどいのであれば、“でも、通勤する必要がないから疲れにくくなった”、“家族との時間が増えてリフレッシュできる”というプラスの側面を意識するようにしてみるのです。そうやって、自分が感じるストレスから意識を離していくことが大事です。
—— 自分なりのストレス解消法を見つけておくことも大事なのでしょうか。
鈴木先生:
当たり前のことに感じるかもしれませんが、趣味を楽しむなど「自分にとってストレスを発散させる方法は何か」を明確にしておくといいですね。先ほどもお伝えしたとおり、人と話をすることもストレス発散になります。そこで、困ったときに相談できる人や、話を聞いてくれる人を確保しましょう。とくに、家族の存在は大きいです。一番身近にいるため、何かしら変化があった場合すぐに気づきやすいからです。
家族とは普段から、“サイレントうつには注意が必要”という意識の共有や、“メンタル面で不調を感じた場合どうするか”の話し合いを。ほんの少しの変化でも、すぐにお互い伝えられるように、しっかりとしたコミュニケーションを意識してください。
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ライフスタイルの大きな変化は、私たちに多大な影響を与えています。「自分には関係ない」と考えるのではなく、少しでもおかしいなと感じるようであれば、立ち止まってみましょう。「もし気持ちの面で不調を感じたら、誰に相談するか」を普段から考えておくことも、サイレントうつの予防につながるはずです。
PROFILE 鈴木 健太先生
取材・文/齋田多恵