中学生のトニーニョくん(15歳)と3人で暮らす、漫画家の小栗左多里さんと外国人の夫・トニーさん。
夫婦で子育てをしていくなかで「異文化で育った者同士はどうやったら折り合えるのか?」と試行錯誤した経験から感じたことや自分の幼少期の体験を、それぞれに語ります。
今回は左多里さんのお弁当にまつわるあれこれについて。トニーニョくんのために作るお弁当、中学生の頃のユニークなランチ、料理上手のお母さんが作ってくれたお弁当…共通しているのは、凝っていないけれど美味しくて、温かい気持ちになる食べ物、ということのようです。
おにぎり3つだけでも子どもには「最高のお弁当」になる
「ママ、明日、ランチ持っていかないといけない。」
ベルリンにいた頃、トニーニョがこのセリフを寝る直前に言い出すことがあった。コンビニがない国の、 夜9時。早よ言え。まあ徒歩1分のところに夜12時までやっているスーパーがあったから何か買いには走れたけれども。しかし実際はほとんど買いにいくことなく、あるもので済ませた。別に「頑張ったお弁当」じゃなくてもよかったからだ。
ベルリンの小学校では「お弁当が手抜き」なんて話題にもならない
持たせるものは結構なんでもOK、というか「ランチが手抜き」なんて話題にならないという感じだから、息子の気持ちだけ考えればいい。お昼を持っていくのはたまのことだし、息子はその頃たくさん食べる方ではなかったので、おにぎりだけのこともあった。
鶏ひき肉が手に入らないため豚ひき肉で作ったそぼろや、ゆかりのおにぎりを持たせることが多かったのだけど、ゆかりは同級生に「そのピンクのご飯、食べさせてくれ」と、奪い合いにもなっていたという。簡単でおいしくて友達にもあげられるなんて、素晴らしいランチではないか。
息子に友達が持ってくるものを聞いてみたら、ピーナッツバターとジェリー(イチゴジャム)のサンドイッチだけとか、お菓子をたんまり持ってくる子もいたようだった。まあ毎日じゃないし、子どもの栄養は1日、なんなら2〜3日の合計で考えればいいような気がする。
そして日本に戻ってきたいま、息子によくリクエストされるのが「カレー弁当」。お弁当箱にご飯を詰め、保温ポットにカレーを入れるのだけど、レトルトの方が菌が繁殖しなくていいということなので、レトルト中心。あと別容器に焼いたお肉とか野菜も入れる。でもカレーがあるから気が楽だし準備も楽。手抜きといえばそうだけど、お昼に温かいカレーが食べられて息子としては満足しているようだ。
中学時代の「持ち寄りランチ」は最高の思い出
頑張らないといえば、私が中学の時の土曜日を思い出す。午後の部活のために持ってきたお弁当をいつも5〜6人で食べているうちに、誰かが「それぞれ、担当決めて持ってきたらええんやない?」と言いだした。つまり、「ご飯」「おかず」「サラダ」とかを1人1品だけ人数分作って、持寄ろうっていう提案。その場の全員&親が賛成して、次の週からさっそく、持ち寄りランチが始まった。
事前に「ご飯」1人、「唐揚げ」もかぶる可能性が高いから1人と決めて、そのほか「おかず」や「サラダ」を何人かに割り振る。当日、それらを寄せた机の上にダーッと広げて、みんなで「わー!」って言って、持ってきたものを説明したりして、ちょっとしたホームパーティのような雰囲気になった。
チーズを餃子の皮に包んで揚げてあるとか、自分の家では出ないメニューも新鮮だったし、親にも喜ばれた。なので皆さんにお勧めしたいところだけど、今の状況ではできないのが残念。あと、よその子に食べさせるならそれこそ気を使うとか、仲間に入りたくても入れない子がいるとか、難しい問題もあるかもしれない。でもいつか工夫して実現できそうなら、ぜひ一度やってみてもらいたい。
お弁当に関する記憶やイメージは人それぞれ
そしてお弁当といえば、出会った当初からトニーはお店で買うお弁当がどれもあまり好きじゃないと言う。彼は好き嫌いがほとんどないのに、なぜなのかちょっと不思議だった。そのうち思い至ったのは、 私にとってお弁当といえば、高校までは母が作ってくれるものだったということ。それが入り口だから、 お弁当自体にマイナスイメージがない。でもトニーの場合は最初から売っているものしか食べたことがなくて、家で仕事しているから手作りのお弁当を食べる機会はいまだにあまりない。だからそれほど「いいもの」って感じがしていないんじゃないかと思う。
うちの母は料理のプロでもあったけど、いつも凝っているわけではなかった。それでも持たせてもらったものは、よそよそしくなくてやっぱり母の味がした。きっと息子も、おにぎりが3つ並んだお弁当のことも、その中から1つ友達にあげたことも、保温ポットのカレーだって、いつの日か懐かしく思い出してくれるに違いない。 ということで、これからも無理せず、随時握ったりカレーを温めたりしていきたいと思っている。
文・イラスト/小栗左多里