宮西達也先生の人気絵本「ティラノサウルスシリーズ」をアニメーション映画化した『さよなら、ティラノ』(12月10日公開)。宮西先生が恐竜に惹かれる理由や絵本の作り方、最近ハマっているというお家キャンプのお話、さらに忙しい毎日を過ごす中での“癒しの時間”についても伺いました!
「恐竜はミステリアスだから惹かれるのかも!」
── 宮西先生の絵本作りの流れを教えてください。
宮西先生:
僕が最初に決めるのはテーマです。その後、テーマに合ったキャラクターを作り、絵の描き方を決め、最後にストーリーという順番です。最初にストーリーから書いてしまうと、本筋から外れてしまいがちです。絵本は作り物だから、あれも描きたい、これも入れたいというようにどんどん膨らんでしまいます。テーマさえしっかりしていれば、その上をなぞるだけなのでブレないんです。
映画もドラマもなんだってそうだと思います。テーマがブレなければしっかり感動するし、メッセージが伝わってくるし、訴えかけてきます。つまらない、響かない作品というのはだいたいテーマがよく分からないもの。「何が言いたいんだろう」って思わせてしまう作品には惹かれないですよね。でもこれ、僕の企業秘密だから、真似されちゃうと困るなぁ(笑)
── 宮西先生は恐竜のどんなところに魅力を感じていますか?
宮西先生:
それはもう決まっています!誰も見たことがないところです。もちろん、ティラノサウルスの前足は短いとか、最近だったら毛も生えていたなんてことも分かっています。でも、基本的には色も形も分からないことがほとんど。ミステリアスな生き物だからおもしろいし、惹かれるのだと思います。
だって、モグラも猫も蛇もネズミも、どんな動物か分かっているからちゃんと描かないとダメでしょ。でも、恐竜は分からないことだらけだから、僕のイマジネーションが存分に描けるキャラクターなんです。だけど、架空の生き物ではなく、絶対に存在していたことは分かっている。本当にすごいなっていつも思っています。
── 宮西先生の描く恐竜からはリアリティーを感じます。恐竜展などにいくと「この話、どこかで聞いたな?」って思うことが多くて。そのほとんどが宮西先生の絵本情報だったりします。
宮西先生:
それはうれしい!絵本を描くときは、恐竜の情報をものすごく調べます。形、性格、生息地、そして時代。ここがポイントです。僕が描く時代は全部白亜紀後期です。みんなが大好きなステゴサウルスは出てきません。それはティラノサウルスと生きていた時代が違うから。江戸時代の人間と現代の人間が一緒に生きているようなリアリティーのない描き方はしたくないんです。
時代と性格にこだわって描くのが僕のモットーでもあります。それを全部みんなに理解してほしいと思っては描いていません。でも、子どもって興味を持ったら調べるでしょ?事典を広げて、白亜紀後期に生息した恐竜たちを見て、絵本と同じだと思ってくれる程度でいいんです。
── 絵本には宮西先生のキャラクターが反映されているのでしょうか?
宮西先生:
1匹1匹に僕の要素が入っています。機嫌が悪いときの僕、優しいときの僕、強がりを言っているときの僕、いろんな僕が入っています。僕だけでなくみんなにも言えることだけど、気分や状況によって、人って変わるものでしょ?アハハと笑っているときもあれば、静かに泣いているときだってある。僕も含めて、みんなのいろいろな一面が恐竜の中に入っているんです。
「読み聞かせのコツは”楽しむこと”」
── 締め切りや各地での読み聞かせなど、忙しい毎日を過ごす中で、お家のことも積極的にやるとおっしゃっていましたが。
宮西先生:
なんでもやります。掃除も洗濯も食事も作るし、洗い物もします。今日も取材前に飯ごうでご飯を炊いて食べてきました。実は今、キャンプに行きたい気分が高まっていて、でもなかなか行けないから、お家キャンプ気分を味わうべく、ご飯をいろいろなキャンプ道具を使って炊いています。固形燃料で、いろいろなメーカーのクッカーでご飯を炊いて、味くらべをしています(笑)
── 今、一番興味があるのはキャンプですか?
宮西先生:
そろそろ自分のために時間とお金を使いたいという気持ちになっています。本音を言えば、早めに引退に近い形にして、ミュージカルや芝居を観たり、旅行やキャンプ、釣りに行ったりしたいんです。気持ちだけが先行してキャンプ道具をいっぱい集め始めちゃって(笑)。子どもが小さい頃は、デイキャンプやバーベキューにもよく行ったりもしたけれど、これからは、ソロキャンプです。
── 先生の時間を楽しんでほしい、とも思いますが、新しい作品も作っていただきたいので、現実的にまだまだ引退は難しいのではないでしょうか?
宮西先生:
ウフフ、なかなかね。でも、締め切りも含めて、次はこれ、明日はこれ、とずっと続くことが辛く感じることもあります。僕、緊張しいなんです。だから、次、次と続いていくと、ずっと気を遣ってしまって疲れちゃうんですよね。若ければ、まだまだいけると思えるけれど、いかんせん、もう年齢も重ねてきたのでね。そんなことを考えることもあります。実現するしないは別として(笑)
── やりたいことを考えるだけでも楽しそうです。
宮西先生:
実現できれば、なおいい!キャンプをしたり、時々ふらりと旅館に泊まりに行ったりしたいです。ふと思いついたときに行くのが理想だな。温泉も大好きなので、明日行こうと思っています。僕ね、多分、昔は熱帯魚だったと思うんです。そのくらい温泉が大好きです。
── 熱帯魚? ということはぬるめのお湯がお好きなのでしょうか?
宮西先生:
このギャラリーの近くに畑毛温泉があるのですが、そこはぬる湯です。2時間くらい眠っているかのように入り続けちゃいます。地元の人しか行かない場所で、常連さんだらけですごくいいところですよ。お風呂が大好きなので、今、お風呂も絶賛リフォーム中です!
── 最後に、絵本の読み聞かせのコツを教えてください!
宮西先生:
コツはないです。あるとすれば、自分が好きな本を読んであげることです。売れてるから、みんながいいと言うから、ではなく自分が読んでおもしろいもの、感動したものを選び読み聞かせてあげたら、無意識に感情はのるし、子どもにも伝わります。そして、もう一つは何回も読むことです。そうすることで、いろいろなことが見えてきます。
感動した本、好きな本は、自然と何回も読むものですよね。そう感じた本を子どもに読んであげるのが一番です。「淡々と読むべき」「気持ちを入れて読むべき」と読み聞かせのコツをいろいろアドバイスする方もいるけれど、僕はそんなのは関係ないって思っています。
── 「間違わないようにと構えてしまう」という声もよく聞きます。
宮西先生:
上手に読もうなんて思わなくていいんです。声優さんでも俳優さんでもないのですから。ライブ感が大事、楽しいと思うことが大事です。自分が楽しめば、子どもも一緒に楽しむはずです。
僕が絵本を描くときは、自分でセリフを声に出しながら書いています。活字で見て並びがキレイなだけではダメなんです。絵本は読み聞かせして初めて成り立つと思っています。だからリズムを大切にして言葉を選んでいます。1匹1匹に自分を投影させて、読みやすいセリフにしているから、僕の絵本は読み聞かせにおすすめです(笑)
PROFILE 宮西達也 / 絵本作家
1956年生まれ、静岡県出身。日本大学芸術学部美術学科卒業。『きょうはなんてうんがいいんだろう』(鈴木出版刊)で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。『パパはウルトラセブン』(学研プラス刊)などでけんぶち絵本の里大賞を受賞。現在は大型本や紙芝居・プラネタリウム・エッセイ・小学校教科書(東京書籍)の挿絵なども手がけ幅広いジャンルで活躍し、講演にも精力的に登壇している。ポプラ社から出版されている「ティラノサウルスシリーズ」は200万部を超え、2010年には『おまえうまそうだな』がアニメ映画化。本作『さよなら、ティラノ』は『ずっとずっといっしょだよ』『わたしはあなたをあいしています』『わたししんじてるの』が原作。