性に関係なく、誰もが安心できるトイレを

──では、「特別な配慮が必要な人だけのトイレ」という認識を、どうすれば変えていけるでしょう。

 

井尾さん

新たにトイレを整備する場合は、「トイレ空間そのものの安心感や魅力を高める」という視点も非常に大切です。

 

たとえば、愛知県の豊川市立長沢小学校では、誰がどのトイレに入ったのかが、廊下からはわかりにくい。プライバシーに配慮した設計になっています。

 

まず前室があって、その先に「男女共用トイレ」「みんなのトイレ」「男子トイレ」「女子トイレ」がすべて同じ空間にあって、共通の入り口からどこでも好きなトイレに行けるようなつくりになっているんですね。

 

前室が設けられた小学校のトイレ。誰がどの個室を選んだのかがわかりづらい設計になっている(画像提供:学校のトイレ研究会)

 

トイレ空間の壁紙を楽しい絵柄にする、照明を変えるといった工夫だけでも、一定の効果があります。友達から「なんであのトイレを使うの?」と聞かれても、「なんとなく落ち着くんだよね」「居心地いいから」と答えられる快適な空間であれば、セクシュアリティに関係なく、誰もが自由に使えるトイレになりますよね。

誰もが使いたくなる快適な雰囲気

男女共用トイレも設けたとしても「自分は使ってよいのかな?」と迷う子どもたちもいます。 「だれでもトイレ」「みんなのトイレ」として利用を促すのであれば、サイン(看板)に「どなたでもお使いください」などメッセージを添えることも必要かもしれません。

 

もちろんそういったハード面での改善とは別に、だれでもトイレの存在意義についての認識の広がりを促していくことも必要です。

 

性的マイノリティ、性の多様性について教えることで、性自認などを理由に「だれでもトイレ」を必要とする人もいる、ということを子どもたちにきちんと説明していくことも大切だと思います。

 

学校のトイレに関しては、ハードとソフト、両面での対応が今後ますます必要ではないでしょうか。

学校というパブリックな空間の中で、最もプライベートな空間ともいえるトイレ。だからこそ、トイレに関する悩みは打ち明けづらいのかもしれません。性別で割り当てられるトイレを嫌だと感じる子どもに不便を強いるのでも、画一的に性別で線を引くのでもなく、どうすれば誰もが快適にトイレを使えるようになるのかを、一緒に考えていきましょう。

 

後編では、海外で増えているオールジェンダートイレのあり方について、さらに掘り下げてお話を伺います。

 

PROFILE 学校のトイレ研究会

児童や生徒が安心して使える清潔で快適なトイレを提案・普及していくことを目的に1996年に発足。トイレ関連企業6社が学校トイレの実態をソフト・ハード面にわたり調査・研究・啓発活動を継続している。研究誌(無料)は公式サイトで閲覧、取り寄せ可能。

 

取材・文/阿部 花恵 

(※1)最新全国自治体・公立小中学校アンケート調査報告調査対象:2018年度全国公立小学校2000校の教職員)|学校のトイレ研究会 https://www.school-toilet.jp/book/pdf/vol22.pdf