共働き時代に合った私らしい生き方・働き方を模索するCHANTO総研。

 

自己成長のため、働きながら勉強したり、学校へ通ったりする方は多いのではないでしょうか。しかし”働きながら”という点がネックとなり、チャレンジしたいと思っていることを諦めなければいけなかったというのもまた事実です。株式会社ワコールの沢村麻衣子さんに自己啓発長期休職制度について伺いました。

ワコールの自己啓発長期休職制度

制度名称:自己啓発長期休職制度 導入開始日:2018年9月 対象者:会社が定めた基準を満たす正社員、販売正社員、及び契約社員 2020年12月時点で利用した人数:6人

 

人事総務本部 人事部 人材開発課 専任課長 沢村麻衣子さん

慶應義塾大学 SFC卒業後、ワコールに新卒で入社。事業戦略・マーケティング業務に携わり退社。外資系企業に転職後、シンガポールへの駐在に帯同し6年半滞在。本帰国後、ワコールに再入社。人事部 人事企画課にて働き方改革に伴う諸制度を導入。現在は人材開発課にて採用、配置、人材育成、女性活躍推進、キャリア自律促進プログラムの構築等に携わっている。ギャラップ認定ストレングスコーチ、国家資格キャリアコンサルタント。10歳の娘を持つ一児の母。

多様な考え方や価値観を活かした意思決定の大切さ

──「自己啓発長期休職制度」とはどういう制度なのでしょうか?


沢村さん:ワコールでは社員が様々な経験を積むことで、自己成長してほしいと願っています。それは社内に限らず、社外にも目を向け多様なコミュニティに参画し、経験を積むことで、知見が拡がると考えているからです。

 

 

VUCAといわれる変化の激しい時代、当社においても多様な考え方・価値観を反映した意思決定をすることで、お客様を中心とした多くのステークホルダーの皆様に対して新たな付加価値を創出していきたいと考えています。

 

 

── 制度導入には、どのような狙いがあったのですか?


沢村さん:

社員個々の多様な働き方、キャリア形成へのニーズが高まる中、社会的側面からも企業に対して柔軟且つ利用しやすい制度ときめ細やかな支援体制が求められていると感じています。現在当社で進めている「働き方・休み方改革」とも連動し、社員が多様なキャリア形成のために、自分らしい「休み方」を選択できる制度として、本制度を導入しました。 一方、エンプロイメンタビリティの観点からも重要であると認識しています。人材の流動化が加速する中、優秀な人材を採用しリテインすることが難しくなってきています。


当社は社外でチャレンジしたいという思いを持つ社員が会社を辞めることなく、多様な選択肢を実現できることで、休職から戻ってきたときにエンゲージメントが高まり、ワコールで生き生きと働きたいと思ってくれることを望んでいます。ワコールは長期的な視点で、個人と会社のハッピー&win-winな関係を目指しています。

 

一度退社し、再びワコールに戻ってきた経験

──「自己啓発長期休職制度」導入において、何かエピソードがあれば教えてください。

 

沢村さん:私自身、新卒でワコールに入社後、一度退社し他の企業に転職しました。その後、海外への駐在に帯同し現地で出産、育児を経て11年ぶりに当社に再入社しました。他社での就労、海外での生活、育児や親の介護、すべての経験を通して学んだことは多く、今の人事の仕事に非常に活かされていると感じています。

 

 

一方で私のような転職のみならず、これまでは自分のチャレンジしたいこと(海外留学や大学院などでの学び直し)のために、会社を辞めざるを得ないということがありました。会社に籍を置きながらも、長期にわたり休職し社外での経験を通して個人の中に多様な視点や価値観を取り込める本制度は、組織力の向上という点からも非常に価値があると考えています。

 

 

── 会社から離れたことで得た経験も、活かされているのですね。

沢村さん:「外」に出るということは、一旦ワコールにおける生活者に戻るということでもあり、社内にいては気づかなかった視点で会社を見つめなおせます。

 

 

またワコールの社員として当たり前だと感じていたことが、外の世界ではそうではないということにも気づかされ、会社に戻ってきたときに、より多様な視点を持って目の前の業務に取り組み、活躍してもらえると考えています。

 

青年海外協力隊への赴任や国家資格を取得した社員

── 実際「自己啓発長期休職制度」を利用した社員の方はどのような経験をされていますか?

 

沢村さん:2020年12月時点で6名の社員が本制度を使用しています。その中から今回は2名の社員の実績をご紹介します。

 

坂越圭名子さん(卸売事業本部 パーソナルウェア営業部 商品営業一課) 制度利用期間:2019年9月~2020年7月 青年海外協力隊のコミュニティ開発隊員として、西アフリカのベナン共和国に赴任(2019年12月~2020年3月)しました。当初は2021年12月までの任期だったのですが、COVID-19の世界的な拡大に伴い、予定より早く復職しました。

 

私は高校生のときからアフリカに興味があり、いつか仕事で関わりたいと考えてきました。日本国内の経済が縮小していくことが明確ななか、日本企業がいかに成長できるかのカギは、いかにはやくアフリカ市場に進出して先行者利益を得られるかだと考えているからです。

 

ワコールもアフリカ市場に早々に進出したらいいのにと考えていて、新規事業提案制度を使い提案を行ったこともあります。ワコールがアフリカに着手したくなる材料を探すべく、まずは自分で現地に飛び込み、女性の下着の着用実態や美容に関する価値観を見てこようと考え、休職して協力隊に参加することに決めました。


現地での滞在期間が短かかったため、当初考えていた情報収集は思うようにできませんでした。しかし休職制度を利用して会社の業務とは全く異なる分野に飛び込んだことで、自分の知見は明らかに広がりました。自分のキャリアに対しても、これまで以上に貪欲に挑戦してみようと考えられるようになったと思います。

 

今は本業のワコールでの仕事のほか、副業とボランティアもやっていて、あわただしいながらも充実した毎日を送っています。アフリカに仕事で関わりたいという夢は、決して潰えたわけではないので、いつか夢をかなえたいです。

中村遥さん(販売統括1部 首都圏店 販売1課)
制度利用期間:2019年5月〜2020年4月
 
私は制度を利用し、国家資格のキャリアコンサルタントという資格を取得しました。キャリアコンサルタントは個人の興味や価値観、その他の特性をもとに個人にとって望ましいビジョンを描けるように援助し、自らを高めていけるように支援する専門家のことです。


それまでは「キャリア=仕事」と捉えていましたが、キャリアとはその人が今までに歩んできた足跡のことだと学びました。仕事という側面だけでなく、個々の生き方や生きがいを尊重し、一緒に未来を描く役割です。


仕事やプライベートの中で、自分に起きた出来事に対しての捉え方の視野を広げることや自己理解を深めたいと思いました。また仕事で悩みを抱えた社員に説得力のあるアドバイスがしたい、力になりたいと思ったのも理由です。


自分を知り、自分を整えることで相手のためにもなる、一生自分を高め磨き続けることができると思います。

 

副業やリモートワーク、働き方改革をさらに加速させる

──今後会社として「働き方改革」にどう向き合っていくかを教えてください。

 

沢村さん:2019年には副業制度を導入するなど、社員が自らのキャリアを主体的且つ前向きに切り拓き、チャレンジできるような体制を整えています。またコロナ禍によりリモートワークも全内勤社員に拡充されるなど、想定以上のスピード感で当社の働き方改革は進んでおります。

 

 

これからも外部環境の変化やスピードを的確に捉えながら、常にバックキャスティングの思考で未来を予測し、内部環境、すなわち社員が働きやすく、生産性とエンゲージメントを向上できるような制度・仕組みを構築していきたいと考えています。 …

 

会社の制度を利用し社外での経験を積むことで、自己成長に加え、会社に戻ってきたときに前向きにキャリア形成に取り組める「自己啓発長期休職制度」。日常で触れているワコールの商品の裏側には、社員の成長を促す多様な働き方・休み方がありました。今後さらなる働き方改革の推進と、女性に寄り添うワコールの商品に目が離せませんね。

 

 

 

【会社概要】

 

 

 

社名:株式会社ワコール

従業員数:4822人(2020年3月末時点)

設立年月日:2005(平成17)年10月1日

業種:繊維製品製造業

事業内容:インナーウェア(主に婦人のファンデーション、ランジェリー、ナイトウェア及びリトルインナー)、アウターウェア、スポーツウェア、その他の繊維製品および関連製品の製造、卸売販売および一部製品の消費者への直接販売を主な事業としています。

取材・文/ひなたきこ