コロナ禍はなかなか収束の気配を見せず、私たちの心に暗い影を落としています。
なんとなく不安、心がざらざらする…。気づかないうちに心が疲れている子育て世代が増えているように感じます。あなたは今、つらさを抱えていませんか?パートナーや子どもはどうでしょうか?
心が壊れてしまう前にできることは何か。「現代の生きづらさ」の要因とともに考えます。
前回の「「自殺って何?」…子どもの問いに親はどう答える ?」では子どもから「自殺」について質問されたとき 、親はどう応じたらよいのか、自殺予防について研究している心理学者の末木新さんに伺いました。第4回は子どもが「生きたいように生きる」力をつけるには親がどう関わったらよいのか、引き続き末木さんに伺います。
※本記事は自殺をテーマにしております。決して自殺を肯定する形で扱っているものではございませんが、メンタルに影響を与える可能性がございますので、閲覧する際はご注意下さい。
自殺を防ぐ3つのポイント
—— 前回は、自分の人生を肯定できないと死を選択してしまう場合があると伺いました。そうした人のサインに気付く方法はありますか。
末木さん:
自殺にサインのようなものがあるかということはよく聞かれます。しかし、少なくとも私が知る範囲では、そういったサインで予測が可能になったという話は聞いたことがありません。
なぜ予測できないのかというと、そもそもそういった研究が物理的に不可能だからです。たとえば10万人の人間を追跡していくと1年間のうちに20人ぐらいの方が自殺で亡くなります。10万人の日々の生活や心の動きを追跡するのは相当厳しいことです。「ここ1か月以内に亡くなる可能性がある」というような予測に成功するなど、まずありえない話です。
—— では打つ手はないのでしょうか?
末木さん:
短期的な予測はできませんが、長期的にみて、「こういう要素を持つ人は将来的に自殺をする危険性が高い」ということはわかっています。ですから、その方面からアプローチすることは可能です。
これはトーマス・ジョイナーというアメリカの精神科医が多くのデータをもとに提唱した「自殺の対人関係理論」という説で、三つの要因から将来の自殺の危険性を予測できるというものです。
1.自殺の潜在能力
自分の体に致死的なダメージを与える能力のことです。普通は体が傷つくことが怖くて自殺には踏み切れないのですが、軍隊経験や虐待、自傷などで体がダメージを受けることに慣れてしまうと自殺の潜在能力が高まってしまいます。
2.負担感の知覚
周囲に対して自分が迷惑をかけて負担、重荷になっているといった考えを持ってしまうことです。これは自殺念慮、死にたい気持ちを高めてしまうことに繋がります。
3.所属感の減弱
他の人との関係性がなくなって孤立している状態です。
この三つが揃うと自殺の危険性が高まります。裏を返せば、不要な痛みに慣れすぎず、自分が周囲の負担になっていると思いつめず、孤立しないことが大切とも言えます。