よりよく生きるための対話につなげよう
—— 自死の情報と子どもの接触は親が意識してコントロールすべきということはわかりました。説明の仕方についてはどうでしょうか。もしわが子に「なぜ自殺がだめなのか。自分の命じゃないか」と問われたら、どう答えるのがベストなのでしょうか。
末木さん:
これは私が学生に質問されて思わず考え込んでしまった質問です。私自身の研究テーマでもあり、簡単に答えが出るものではないと思っています。
ただ、一番いいのは、その人が自分の生きたいように生きることです。それができなかったときに、死を選んでしまうことがあるわけです。子どもには、死を選択せずに済むよう、生きたいように生きるにはどうしたらいいのか、という話に持っていくのがいいと思います。
—— 子どもが「辛い」「死にたい」と言ってきたら、どうしたらいいでしょう。
末木さん:
やらない方がいいのは「話題をそらす」「激励する」「叱りつける」といったことです。それを念頭において、子どもの性格や様子を見ながら考え、対応しましょう。
相手の気持ちに寄り添いながらしっかり話を聞いてあげてください。私も大学生の相談にのることがありますが、多くの場合、1~3時間話すことで気持ちが落ち着くようです。「これさえ言えば大丈夫」というような万能な言葉はないので、相手の話を聴きながら自分自身で考え抜くことが大切です。
—— 子どもが友だちからそのような話を受けた場合はどうでしょう?
末木さん:
まずは、子ども自身がその友だちの話を聞いてあげることです。大人が介入する前に一度は子どもに任せてみるというのは、親として心配な面もあるかもしれません。ですが、子どもがそういった悩みを最初に打ち明けるのは「大人より友だち」です。
この段階で親ができることは、子どもが話す友だちの様子をじっくり聞いてあげて、「話を聞く姿勢が大切」ということを態度で示すことです。その上で、「友だちが何に悩んでいるのか聞いてあげたら」とアドバイスするのが第一歩でしょう。
—— とはいえ、すべてを子ども同士の解釈に任せてしまうのは不安です…。
末木さん:
そうですね、子ども同士の狭い視野の中でよくない渦に巻き込まれる可能性は否めません。とくに自傷行為などは仲間内で影響を受ける子がいるので注意が必要です。わが子が話を聞いてあげるだけではうまくいかない可能性も考え、次のプランも持っておきましょう。
例えば、スクールカウンセラーの力を借りる、教員に理解があって子どもたちにも信頼されている場合は教員に助けを求めるといった手立てです。
—— 家庭で抱え込まず専門家に助けを求める必要はありますよね。そうした場合も、たとえばわが子が自傷した、しそうなときなどは、いち早く対応できる親自身の力が問われるように思います。まずどう対応したらいいのでしょうか。
末木さん:
自傷というのは、ケースバイケースですが、多くの場合はストレス対処として行っている部分があります。辛いことがあっても、体を傷つけると一瞬それを忘れられるからです。ですから単に「やめなさい」と言っても効き目はありません。
その子にとっての元々のストレスになっているのが何か、ていねいに話を聞いていくことが必要です。その上で、その子の自傷を引き起こすような刺激になっているものを取り除ければ一番いいと思います。
ただ、自傷が始まる年齢は反抗期に突入していたりして、親になかなか話してくれないこともあります。その場合は、やはりスクールカウンセラーなど専門家の力を借りることも考えたほうがいいかもしれません。学校が難しい場合は、自治体の相談窓口や、場合によっては児童精神科など医療機関を頼ることを検討してみましょう。親が問題を抱え込まず、アンテナを張って、頼れる場所を探すことも大切です。
とにかく大人は子どものことを否定せず、話を聞くという姿勢が何より必要です。それでも難しい場合は、専門家などに協力を求める。このことを忘れないで欲しいです。
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子どもから「自殺」について質問されたとき 、親は子どもが触れる情報をコントロールすること、否定せずに話を聞く姿勢が大切。今回教えていただいたことを意識していれば、親は動揺せずに子どもと接することができそうです。次回は子どもが「生きたいように生きる」前向きな思考を育むにはどうしたらいいのかについて、引き続き末木さんに伺います。
悩み・困りごとがあるときは…
まもろうよ こころ|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/
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PROFILE:末木新(すえき・はじめ)さん
文/鷺島 鈴香 イラスト/小幡彩貴