チクチクしたセーターを脱ぎたがる。人の多い場所を嫌がる。食べ物の匂いで気分が悪くなる…。これらは「感覚過敏」と呼ばれる症状の一例です。
感覚過敏を持つ人は、視覚や聴覚といった感覚が過敏。光や色、音、匂いなどを過度な刺激と受け取り、日常生活が困難になるといわれます。
ただ難しいのは、感覚過敏が目に見えないこと。一人ひとり、敏感な感覚も不快に感じる刺激も異なるため、理解されにくいのです。
「感覚過敏という言葉と出合うまで、息子の『嫌』をただのわがままだと思っていた」と話すのは、感覚過敏の息子をもつ加藤咲都美さん。
加藤さんに息子さんの幼少期を振り返ってもらいながら、感覚過敏の子どもとの付き合い方を考えます。
お遊戯の輪の中で息子だけがずっと泣いていた
── 息子さんの感覚過敏を幼少期から感じていましたか?
加藤さん:
現在中学生の息子は、聴覚、味覚、嗅覚、触覚が過敏。彼が中学1年生で「感覚過敏」という言葉に出合う前も、感覚過敏だと思われる症状はありました。
乳児期は、人見知りはしないのに、場所見知りをする子でした。近所の公園でも、抱っこから地面に下ろすと、その瞬間に泣き出すんです。抱っこ好きで甘えん坊だと認識していました。
思えば、当時から彼は刺激の強い外出先よりも、家の方が落ち着けたのでしょう。幼児期以降は、近所の公園や外食先から、ディズニーランド、旅行先まで、どこへ行ってもすぐ「帰りたい」と言い出すようになりました。せっかく子どものために計画したのにとつらかったし、わがままな子だと思っていました。
── 幼稚園生活はいかがでしたか?
加藤さん:
毎朝、息子が靴下を嫌がるため登園できず、悩んでいました。好きなキャラクターの靴下を用意してごまかし、無理やり履かせて。今思えば、触覚過敏のせいだったのでしょう。
幼稚園の運動会では、音がうるさかったのか、お遊戯中にみんながニコニコ踊るなか、一人でずっと泣いていました。「この子はなぜみんなと同じことができないんだろうか」と胸が苦しくなりましたね。
小学校に入ってからは、友だちと遊ぶのが好きになって。放課後はたくさん友だちを自宅に呼び、楽しそうにゲームをする毎日でした。ただ、学校生活には苦しい場面もあり、特に休み時間に必ず校庭に出て外遊びをするというルールはつらかったそうです。