国際的な子どもの理系科目の学力調査「TIMSS(ティムズ)」で、2019年度の調査結果が発表されました。

 

それによると、日本の小中学生の理科や算数・数学の得点は世界の中でも高い水準で、今回もすべて5位以内を維持しています。

 

また、小学生(4年生)で「理科の勉強が楽しい」と答えた子は実に92%もいて、国際平均を超えて過去最高だったことも分かりました。

 

朗報ともいえるこのニュースから、いま、子どもたちの理数系科目の学びはどのような状況なのかを読み解いてみましょう。

「TIMSS(ティムズ)」とはどんな調査?

今回のデータは「TIMSS(ティムズ/Trends in International Mathematics and Science Study)」と呼ばれる、理系科目の到達度についての国際的な調査によるものです。

 

IEA(国際教育到達度評価学会)が1995年から4年に1回、各国の協力のもと調査を進めていて、今回結果が発表された2019年度で7回目になります。

 

ただし途中で調査項目や質問内容が変更されているため、同じ項目同士で比較できるのは2002年度の調査(2003年発表)からとなっています。

 

今回発表された2019年度の調査結果では、小学生(58ヵ国)・中学生(39ヵ国)とも5位以内と高い得点を記録し、「理科や算数・数学の勉強が楽しい」と答えた子の割合も上昇し続けていることが分かりました。

「脱ゆとり」成功か?

国ごとの子どもの学力を知る調査はいくつかあり、他に有名なものの1つが、OECD(経済協力開発機構)が3年ごとに実施している「生徒の学習到達度調査(PISA)」です。

 

日本では、1970年代後半頃から教育現場での暗記や知識つめこみ型教育の弊害が問われるようになり、見直しが求められていました。

 

そこで2000年代にかけて学習指導要領の改訂を行い、「もっとゆとりのある学校生活を」と週休2日制を実施、「総合的な学習の時間」などがもうけられました。

 

これがいわゆる「ゆとり教育」です。

 

しかし、その後のPISA(学力到達度調査)では3回連続で順位が下落しつづけ、今度は「ゆとり教育の弊害ではないか」と問題になりました。

 

その後ふたたび「脱ゆとり」を目指して学習内容を見直し、2015年度の調査では、日本の子どもたちは数学で世界5位・科学で2位と過去最高の順位を記録しています。

 

学力テストの結果は、実施年によって内容変更やタイムラグがあり、小学校から塾通いをする子の増加や、学校の授業そのものがPISA(到達度テスト)に対応した内容にシフトされたことなど、複数の要因が影響すると考えられます。

 

そのため、一概に「ゆとり教育」と連動しているとは言い切れませんが、今回の結果を見て「ゆとり教育からの方向転換がやっと効果を現してきた」と歓迎する人も多いようです。

日本の小学生の92%が「理科は楽しい」

もう少しくわしく見ると、「TIMSS(ティムズ)」では、

 

  • 小学校4年生の算数と理科
  • 中学校2年生の数学と理科

 

について子どもたちの得点と意欲関心を調べています。

 

なかでも今回注目されたのが、小学生の「理科」についてでした。

 

得点こそ前回より下がったものの、いぜん58ヵ国中4位をキープしており、「理科が楽しい」と答えた小学生は全体の92%と、国際平均の86%を上回って過去最高に。

 

理科とは、私たちが生きているこの世界の自然や法則について「なぜ」「どうやって」を知り、さまざまな問題を解決していく能力を育てる教科です。

 

小学校で「植物や岩石などの名称をただ覚えるだけ」の授業から、実際に触れたりクラスメイトと話し合ったりして自分たちで深く考え、検証していくおもしろさを味わえる授業に変わってきた結果だとしたら、とても喜ばしいことですね。

ちなみに中学生になると…?

しかし同じ調査でも、中学生になると「数学の勉強は楽しい」と答えた子は56%(国際平均70%)、「理科の勉強は楽しい」は70%(同81%)と低下しています。

 

その理由としては、小学校よりも学習内容が高度になり抽象的な概念を多く扱うため、理解しづらい子が増えるということもあるでしょう。

 

しかし将来「数学や理科を使うことが含まれる職業につきたい」と考える子は、世界的には2人に1人いるのに対し、日本の中学生では4人に1人…という結果は少し気になりますね。

 

プログラミングやデータサイエンスなどこれからの社会で欠かせないIT関連の職業や、モノづくり・建築や設計など、数学や理科を生かした職業はこれからも需要が続くと考えられます。

 

子どもたちには、将来は幅広い分野から好きな職業を選べるよう、できるだけ数学や理科に苦手意識やマイナスのイメージを持たずに学んでほしいもの。

 

そのために国や学校の現場では、次のようなさまざまな施策を用意しています。

 

  • 一方的に正解を教えるのではなく、子どもたちに理由と解決法を考えさせる
  • 数学や理科が毎日の暮らしにどのように役立っているのかイメージできる機会を増やす
  • すべての子どもがコンピュータを使いこなせるよう各学校に配置・貸与する
  • 理科の観察が十分行えるよう設備を充実させアシスタントも増員する
  • 理科・数学・英語などで高学年を教科担任制にするよう検討(令和4年度目途) など

 

親の私たちも、できるだけ小さいうちは自然の中で遊ぶ、一緒に料理を作って食品の変化を観察するなど、理科や数学に親しめる土台作りをしていきたいですね。

 

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文/高谷みえこ

参考/文部科学省「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2019)のポイント」 https://www.mext.go.jp/content/20201208-mxt_chousa02-100002206-1.pdf
「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)結果の推移」 https://www.mext.go.jp/content/20201208-mxt_chousa02-100002206-2.pdf
「小学校学習指導要領 理科の改訂のポイント」 https://www.nits.go.jp/materials/youryou/files/011_001.pdf