「いい夫婦ってなんだろう」をテーマに、さまざまな角度から夫婦のあり方を切り取る今回のオピニオン特集。

 

本日11月22日は「いい夫婦の日」。コロナ真っ只中の時期は「コロナ離婚」も取り沙汰されていましたが、コロナで逆に仲良くなったという声もきかれました。

 

変化の激しい時代において、ひとりひとりが思う「理想の夫婦像」も多様になってきています。この特集では、実在のご夫婦の体験や専門家へのインタビューを通じ、現代の夫婦をとりまくさまざまな問題や解決に向かう道のり、また、新しい夫婦の形についてお伝えしていきます。

 

1回目は「今時の共働き夫婦の『夫婦観にまつわる本音』」。CHANTOモニターへの「理想の夫婦像」についてのアンケートを通じて寄せられた「夫婦の本音」をもとに、夫婦の理想と現実について、心理カウンセラーの山脇由貴子さん、中村カズノリさんと共に考えます。

 

理想は「困ったことはいつでも相談できる夫婦」

「ご自身の今の夫婦(パートナー)関係に満足していますか?」の問いに対し、「はい」と答えた人は全体の7割以上。多くの人が、ご自身の夫婦関係に満足していることが分かります。

 

そんなみなさんにとって、「理想の夫婦」とはどんな夫婦なのでしょうか。一番多く声が上がったのが「困ったことはいつでも相談できる夫婦」。自分の仕事のこと、日々の生活、子どものことなど、多忙な共働き世帯には悩みが尽きません。そうした悩みをパートナーと相談しながら乗り越えたい、という願いを感じる結果となりました。

 

話したい、でも時間がない

続いて、「ご自身の今の夫婦(関係)にたりないと思うものはなんですか」と聞いてみました。

 

一番多く寄せられたのが、「会話する時間がたりない」という声です。

「夫婦二人だけの時間。二人でも子どもの話をしていたり、夫婦の会話がない。共通の趣味を作ったり向き合えることが増えるといいなと思います」

「時間がたりません。主人が多忙な仕事なので仕方のない面もありますが、子どものこと、困っていることなど相談したり、談笑したりする時間がありません。仕方ないとはいえ寂しさを感じます。」

必要なことを話し合う時間すら物理的に取れなかったり、もっと夫婦の会話を楽しみたいのになかなかできないでいることに物たりなさを感じていることがうかがえます。

 

「実際、忙しい夫婦は多いです」と話すのは、家族問題カウンセラーの山脇由貴子さん。「なかには、朝5時に出かけて行って、夜中の2時に帰ってくるというような生活をしている人もいます。そうなると、平日に話すというのは難しい。そういう場合は、週に1回でもいいから話す時間をつくろう、とお伝えしています」(山脇さん)

 

「話すことが見つからない時は、一緒にDVDをみてその感想を話してみては」と山脇さん。

 

山脇さんによると、特に女性は会話を楽しみたい人が多く、情報伝達だけだとだんだん不満が募ってくるそう。そこは男性と感覚が違うので、「もうちょっと話す時間がほしいな」とはっきり伝えることも大事だといいます。

 

「思いやり」がたりないと感じている人も

「時間」以外で、多くの方が上げていたのが「思いやり」という言葉です。

「相手を思いやる気持ち。自分ができることを率先してやろうとする気持ちと態度がたりない」

お互いに思いやりの気持ちをもって行動すること。夫は家事育児をやらないし、やらないことがあたりまえのように過ごしている。私はそんな夫に不満をもち、優しい気持ちになれない

回答からは、育児家事を抱えている自分にもっと配慮してほしい、そして主体的に家事育児を担ってほしい、という願いが感じられます。

 

「女性は、結婚前に“幸せな家庭”を思い描いている人が多い。理想の家庭をつくるために努力するし、相手にも努力してほしいと考えます。そこが満たされないと不満がつのりますよね。いっぽうで、男性は結婚生活にそこまで期待が大きくなく、むしろ自分の生活ペースを守りたいと思う傾向があります」(山脇さん)



山脇さんのカウンセリングでも、妻側が不満を抱えて相談にやってくるケースが多いとのこと。家庭生活に対する理想と現実とのギャップに苦しむ女性の姿が見えてきます。アンケートのなかには、

 「ときどき自己中心的なところがみられる」 

「どんな意見でも聞き入れられる柔軟さ、気配りがない」

といった手厳しい声も聞かれました。

 

「話を聞くのが苦手なのは、男性のジェンダーバイアス(性差による社会的差別意識)も関係しているかもしれません」と話すのは、メンズカウンセラーの中村カズノリさん。

 

「男性性の強い人の多くに『負けてはいけない』という思い込みがあります。そういう人にとって、『他人の話を聞き入れる』ことは“負け”なんです。わたしにも経験がありますが、相手の話が終わる前に、わーっと自分の話をかぶせてさえぎってしまうんですよね」

 

「自分の価値観と相手の価値観は違います。夫婦間で線引きをする意識が大切です」と中村さん。

 

「家事育児は女の仕事」という固定観念もまだまだ根強い

家事のこと、子どものこととなると「妻にお任せ」という男性もいまだにいるようです。アンケートにも

「昔の男尊女卑が少し入っている」

「母親の役割という固定観念を払拭したい」

「女性が家事一般をするという意識を変えてほしい」

といった声が寄せられています。

 

「『男はこうすべき』『女はこうすべき』と、自分の価値観を押し通すために“常識”を持ち出してしまうケースは多いです。というのも、ぼくたちって“<わたし>を語る”という経験があまりなくて、慣れていないんですよね。自分の思いという枠組みで語ることができないんです。だからもっと、コミュニケーションの型を知る必要があると思います」(中村さん)

 

「不満がある」というほどではないけれど、実際には、会話の時間がとれなかったり、悩みに気づいてもらえていないと感じていたり、家事育児を妻一人が抱えていたり…。「もっと夫婦で話したい」「困ったことはいつでも相談できる夫婦でいたい」という願い通りにはいかない現実が、アンケートに寄せられた「夫婦の本音」から見えてきます。

 

夫婦間のコミュニケーションをもっと豊かにしていくための糸口はどこにあるのでしょうか。次回以降、さらに詳しくお伝えしていきます。

 

 

特集TOPに戻る

 

Profile 山脇由貴子さん
1969年、東京都生まれ。横浜市立大学心理学専攻卒。大学卒業後、東京都に心理職として入都。都内の児童相談所に心理の専門家として19年間勤務の後、現在は家族問題カウンセラーとして活動。TV出演、寄稿・執筆等も多数行う。近著に『夫のLINEはなぜ不愉快なのか』(文春新書)。office-yamawaki.net


Profile 中村カズノリさん
1980年生まれ。自身のモラハラにより妻に去られた体験をきっかけに、日本家族再生センターにて修復的対応を根幹としたメンズカウンセリングを学ぶ。現在、Web開発系エンジニアのかたわら、カウンセラーとして被害者、加害者双方の支援活動を行っている。再婚し、現在は1児の父。

 

取材・文/八田吏(mugichocolate株式会社)

©️CHANTO調べ 調査期間:2020年10月23日〜11月2日 調査対象:CHANTOモニター79